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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(1)午前:討論、講義、説諭
34/93

【day2】(1)-[2]-(1)



 タマゴが好きだからなのか嫌いだからなのか分からないが、全く手を付けずに残っていた目玉焼きをつつくタオへ、イムファルが――しわくちゃになってしまった書類を慌てて広げて――声を掛ける。

「タオ様。あくまで感情的な罵りでしかなく、捜査に協力しろとの話も全く出ませんでしたから、犯人捜しはしなくて良いとして――」

「当たり前だよ」

「CFCが、自国の反乱分子の仕業ではなく、サウザーの仕業だろうと思った根拠――らしきものは、通信の中にありました」

「ふん?」

 白身の刺さったフォークを口に入れて、タオは小首を傾げた。

「何だ?」

「どうも……、サウザーの仕業というより、『〈魔術士〉の仕業』だと思っているのではないかと」

「……」

 ルナールが、目を細めて「というと?」とイムファルに訊いた。

「『とぼけるな、人でなし』の先があったのです。『()()()()()()()()()()サヴァナの』、……いえ、サヴァナか、フリュスか、と――」

 途中、イムファルがチラリと若者二人の方へ目玉を動かしてそう云った。――リオンがアサギに顔を向けて肩を竦めた。アサギも微苦笑を見せる。

 恐らく、「サヴァナの」の後には、随分とネガティヴでアグレッシヴな言葉が、本当は続いていたのだろう――もしかしたら本当は「フリュス()」とも――。

「ふむ。そうか、その台詞は……、サウザーだと断定はしていないが、その〈同盟〉は含んで考えられる、そんな感じがあるな……」

「その後には、何と云うか、――その現場を説明するような台詞が、一応、続きまして……当人は『状況証拠』を云っているつもりなんでしょうが、こちらには何とも主観的な、〈魔術士〉に対する勝手な思い込みとしか受け取れませず…」

「ほう? どういう『状況証拠』だったんだ?」

 ――何だか「面白いことを聞いた」とでも云いたそうな随分と明るい声色で――目も輝かせて――、タオがイムファルに詰め寄った。

 そんな領主に戸惑い、

「随分と細切れで時間の流れも良く分からない状況を並べ立てられましたから、私としても『説明』がし辛いのですが」

 と断った。

「構わんよ、細切れの箇条書きみたいなことでも」

「はあ……。――まず、遺体の発見現場はアスール新民党本部の党首室らしいです」

「……。そこでもういきなり『らしい』?」

 タオが呆れた声を出す。イムファルは困ったように首を傾げ――彼が困る筋合いでは全く無いが――

「向こうがハッキリ云ってないんです。それとなく此方が質問も交えつつ、引き出した細切れの情報を整理してみて『どうもそうらしい』という……()()推論です」

「は~……、今朝がそうだというんなら、昨日はもっと凄かったんだな」

「察して頂けて何よりです。――で……、実際、向こうから入って来た『箇条書き』なんですが…」

 イムファルが苦笑を浮かべてから、手元の紙へ視線を向けつつ続ける。

「まず、党首室は建物の五階西端にあり、その入り口――ドアは一箇所で、護衛官が二名ついていた。党首が一人で党首室に入って後、侵入者はおろか()()()()()()。ヴェランダやバルコニー等は設えていない――つまり、足場になるような箇所が屋外の側に無いという意味ですね――窓も、全て鍵が掛かっており割られてもおらず、外側には鉄格子が嵌められている。壁や天井にも剥落や開口は認められない。――そして、党首が抵抗した痕跡も無い」

 感情のこもらない淡々とした声で正に「箇条書き」という風情で、イムファルが語る。が、次には若干声色が変わった、苦々しい……と云うべきか。

「『このような不可解な状況で』『あんな非人道的な』殺害方法など、『常人には』不可能だ――と」

 つまり、非人道的で()()には理解出来ない()()を持った者――魔術士がやったのだろう、とCFC側は云いたいらしい。イムファルはそう云っている。

 ルナールとフーコー、そしてアサギとリオンも、溜息をついたり顔をしかめたりしていた。

 タオだけが苦笑している。

「ふむ? そんな『党首室の状況』は語っても、遺体の発見現場自体が『何処』なのかは云っていないということか。――そりゃ、()()しか出んわな」

「……」

「『あんな非人道的な』って、『あんな』の部分も詳しく云っていない訳だな。それも、こっちが犯人だと決めつけて『云わずとも分かっているはずだ』という……感情的な部分なのか、それとも、意外と冷静でこっちに鎌を掛けたつもりなのかな」

「どういう意味ですか?」

 ルナールが首を傾げると、タオは「CFCに限らず、普通はさ」と云った。

「犯人しか知り得ないような現場の状況を秘密にする、公開しない、ってのは、犯罪捜査の基本的な手法だろう? ――例えば、だ。今、イムファルはその『細切れの状況』を聞いて、遺体の発見現場は党首室らしい――()()()()()()()()()()()()らしい、と推測した訳だ」

「え、間違ってますか?」

 イムファルが少々狼狽の表情を浮かべて、タオだけでなくフーコーとルナール、ついでにアサギやリオンにも助けを求めるような目を見せた。――皆、「いや、普通そう思うんじゃないの?」という顔をしてイムファルに首を振ってみせる。

 タオは、「うん」と頷いて、

()()、そう思う。しかし実はそうじゃなかったとしたら? 党首が警護を二名入り口につけて党首室に一人で籠もったことには違いない。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだとしたらどうだ? そうだな、窓の鍵も閉まってて鉄格子まであるのに、死体は党首室の真下の地面に叩きつけられていた、とか――犯人以外だったら党首室で市長が死んでいたと思いそうな状況説明だけをして、しかし犯人だけは遺体がどこで見つかったか知っている筈だから、()()()が語るに落ちるのを待つ」

「……」

「最初は相当取り乱すくらいに()()()()で惨い――()()()()()()()()()()()()()()()と『素人』が思うような不可解な状況ってんなら、『体は執務室にあって首だけ外に落ちてた』とか、そんなこともあるかもな。だが、それを敢えて云わない、という判断が、果たして付いててのことなのかどうか」

 そこでフーコーが大げさに溜息をついた。どうした、とタオが首を傾げる。

「最初の心配が全く無用だったのだと、心から思いましたの。――お食事中だっていうのに、自分からそんなこと想像して口に出来るなんて、全く、剛胆というのか鈍感というのか」

「そうさ。そんな繊細な神経で戦争は出来ないからな。腹が減っては、って云うだろう」

 タオはフッと笑ってそんなことを云い、白身からポコッと丸く外れた完熟の黄身を口に放り込んだ。それからイムファルに「どう思う?」と訊いた。

「直接、CFC(あっち)と口をきいたのは君なんだろう? 君はどんな感じがした。――今朝の分は、フーコーも居たのか?」

 外務部長は「ええ、その場には居ましたけど……」と云い、情報部長と顔を見合わせて首を傾げ合った。

「どうでしょう……、どこまでも感情的で、こちらを犯人扱いしたいだけとしか思えなかったので……、そんな計算があったとは思えないのですが」

 イムファルが何か思い出すように空を見つめながら云う。フーコーも、

「そんな『策』が裏にあるのだとしたら、やっぱり芝居が相当上手かったってことになりましてよ。――私は、『裏』は感じなかったわ、敢えて()()()()()()言葉を使いますけど、『そんな知恵が回ってるようには』とても思えなかったわね」

 そんなことを云い、

「タオさん、CFCを買い被ってらっしゃるんじゃないの?」

 殊更に鼻を鳴らして、タオを見下ろした。

 タオは「ふむ、そうかな?」とフーコーに返した後で、――またしても、ニッと笑った。

 え?とフーコーが首を傾げる。タオは次に、

「それならそれで、興味深い矛盾がある」

 と呟いた。

「――矛盾? 何がですの?」

「本気で裏が無いってことになると、()()()()()()()、今イムファルが云った内容に、()()()()おかしな部分がある」

「わ、私は偽りなど申しておりません……」

「いや、君じゃない」

 慌てた声でイムファルが領主に訴えかける。タオは苦笑しつつ手を振り、

「君が嘘を云ってるとかじゃなくて。――向こうの言動にだよ、矛盾というか……ちぐはぐな部分があるよなあ?」

 そう云って、目玉焼きの残り――シート状の白身――を、山羊が紙を囓るようにくしゃりと口に押し込んだ。

 幹部三人が顔を見合わせて首を傾げ合う。そんな様子を見てタオが、

「君らはサウザーの当事者だから思いつかないのかな」

「貴方だって当事者(そう)じゃありませんこと?」

 さほど嫌味な声ではなかったが、からかうような口調で云われたので、フーコーが口を尖らせた。

 ――フーコーとルナールが立っているその間から、ソファに座った若者二人が見える。

 アサギがリオンの方に顔を向けて何か囁いており、リオンは「うんうん」と頷きながらやはりコソコソ小さな声で何事か返していた。

 にっこりと笑って、

「若手二人に試験がてら訊いてみようか。――アサギ、リオン」

 タオが声を掛けると、アサギが「はっ、はいっ?」と声を裏返して、驚いた顔をサウザー領主に向けた。リオンも目をぱちくりとさせている。


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