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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day1】終わりが始まった日
23/31

【day1】-[5]-(2)

「今のところタオはまだ自分の後継者を指名してないし、自動的に()()()()()そうなる血縁者――身内や子供が居ない。〈法〉の上だと、()()()()非常時には各国、自治体の主が招集されて合議の上で臨時の領主が選抜されることになってるが、ルナールはその候補に挙がって当たり前ではあるよな。だったら今タオから任じられたことを、少なくとも『青天の霹靂』と思うのは変な話になる訳だ。戦に限らず、タオが突然倒れたり、くたばらずとも病床につく可能性だって頭の隅に置いてるのが当たり前だしな」

 サンハルがそう云うと、タオが匙でニンジンを掬いながら頷いた、「露骨に『くたばる』とか云うなよ」と苦笑混じりに。

「テリーインも、それを思い出して承知した訳か?」

 「非常時」、領内の自治体から臨時の領主が選抜されるように、〈軍〉では「幹部」の括りに入る将軍・隊長・参謀から、最高司令官――勿論、最終責任者としての司令官は臨時であっても「領主」だが、実務としての――が選抜されることになっている。よって、今テリーインが直接タオから臨時の権限を預けられることも、「意外」「心外」だとは()()()()()()()()立場だ。特にテリーインは参謀()なのだから、候補の中では上位になる。

 テリーインは肯定したのか否定したのかよく分からない調子で首を振り、

「それはそうですけども、先ほど決心と云いますか、覚悟が決まった理由はそれではありません」

「うん?」

「……最終判断について、タオ様に意見は求めて構わないと仰せでしたから、それで気が楽になったというか、まあ、お言葉に甘えまして……。それに」

 ちらりとタオの顔を見てから、テリーインはルナールに顔を向けて云った。

「タオ様はお一人で領主としての重責――荷を抱えたがる向きがあります。部下として、その荷を分ける気になって下さったことが、喜ばしかったんです」

「――」

「その機会、荷が、自分自身に巡ってきたと思ったら、そりゃまあ、戸惑いはありますけれども、高揚もしてきたものですから」

 そんな回答が出てくるとは想像しておらず照れくさくなったのか、タオは顔をごしごしと擦った後、皿を手に取り中身を匙で掻き込んだ。

 サンハルが微笑を浮かべて「成る程?」と呟き、ルナールに顔を向ける。テリーインの言葉に、ルナールも思うところがあったようだ。戸惑いや狼狽が顔から消えている。

 空になった皿を置きパンの最後の一片を口に放り込んだタオへ、ルナールは落ち着いた声で訊ねた。

「タオ師、先にお訊ねしますが、――最高司令官にしろ領主代理にしろ、サンハル隊長には任じられないというのは、何故ですか?」

「それは私も聞いておきたい、そのために配膳を買って出ました」

 本人らは否定するかもしれないが、サウザー領に於いて、領主(タオ)が最も信頼する部下であり対等の友人だと見なされているのはサンハルだ。「タオの」代理というなら「サンハル」以外には無いと、当人達以外殆どの領民が思うだろう――。

 領主代理は兎も角――魔術士隊長であるサンハルは〈軍〉の元帥(トップ)でもある、最高司令官を彼に託さないのは何故なのか。

 テリーインにタオは苦笑を見せ、先に「ごちそうさま」と云った。それを合図に、テリーインはまず領主の前から空の皿をワゴンに下げる。

 タオは左の肘を使って頬杖をつき、右手で紅茶のコップを取って口に付けた。直ぐに答えを呉れない師匠へ焦れたように、ルナールは執務机にそっと手を載せて少々身を乗り出した。

 「お食事中失礼」は云えたんだから、食後のお茶の一口くらい待ってやれよ、と思ったのか、サンハルが苦笑して肩を竦め、間を繋ぐように

「やれやれ、君らはそんなに俺に荷を譲りたいのか?」

 そんなことを云った。

 若干身を乗り出した分、ルナールは振り返るように顔を動かして、隊長へ「そういう訳じゃありませんが…」と口ごもった。

 タオもサンハルのように肩を竦めてみせた。

「それは結局、この後にも色々と説明することになるんだろうから、一遍に済ませたかったんだがねえ」

「……明日の会議で発表するということでしょうが、実際に『最高権力』を預けられる立場としては、前もって聞いておきたいものです。各首長の前で落ち着いていられません、彼らとて、最初に『何故サンハル隊長ではないのか』と思うでしょう。領主代理も――本当ならサンハル隊長だって、シンキ王国の王位継承権をお持ちでしょう?」

 そう云ってルナールが再びサンハルを軽く振り返る。

「でしたら、『ド素人』ではありませんわ。現在(いま)の非常時にサウザーの領主として候補には挙がらずとも、今後シンキ王国から呼び戻される可能性だって無くはないのですから、政に全く関わらないという訳にはいかない筈です」

 サンハルが「それはそうだがね」と、頭ごなしに否定はせず肩を竦めた。

 タオはコップを置いて、机の上で手を組んだ。――ふわりと空気が変わる、領主の威厳が明らかに漂っている。

 ルナールは机から手を離して背筋を伸ばした。

 領主の声色はさして変わらない。

「そんな難しい理由は無いよ。至ってシンプルな話だ。――俺は、あの『筋』の解明と対応に、意識を傾け、集中する時間を作りたい。それだけだ」

「――」

 ()()()()という言葉の中に全てが集約はされているのだろうけれども……テリーインやルナールの疑問は、生憎それだけで晴れない。「それ」をもう少し解説して欲しいのだ。それ以上の解説を許さず全てを承諾せよと云う程、タオは独善的な領主ではない筈だ――。

 タオも二人の不満を解っているから、テリーインとルナールが口を開く前に続ける。

「あの『筋』『裂け目』――ひいては()()()、あれを放っておく訳にいかない――というか、放っておいて良いものかどうかが解っていないことは、君達も判っているよな」

 当然だ、というふうに三人が大きく頷く。

「では君達――『あれ』が、サウザー(うち)だけでなく、サヴァナとフリュスにも()()ことは知っているか?」

 テリーインとルナールは「えっ!?」と声を出して表情を強ばらせたが、サンハルは頷く。そんな隊長へルナールが、

「隊長はご存知だったんですか、何故隊員に知らせていないのです?」

「私も知りません」

 テリーインも不満げな響きを僅かに滲ませて云う。サンハルは飄々と、

「それどころじゃなかったから」

 と云った。

 テリーインとルナールは顔を見合わせ、呆れた、というふうに首を振る。タオは苦笑を見せた後で頷いた。

「サンハルの云う通りだ、()()()()()()()()()()()だろ? 俺は君らに、サウザーを守る全力を尽くせと指示したんだから、サヴァナとフリュスまで気にする余裕は無かった筈だ。気にしてるようじゃ『注意力散漫』だ――薄情って云うなよ、サヴァナとフリュスも恐らくお互い様、あっちはあっちで自分ちを守るのに全力を尽くしていた」

「……」

「さっきイムファルに云ったが、『筋』は既に()()()ある訳だよ、その一つ一つにいちいち驚いてる場合じゃない。驚いてる場合ではないが、()()()()()ものに対処しなくてはいけない。――どうも時間が掛かりそうだと、思わないか?」

 ルナールが戸惑いがちに小さく頷き、テリーインは「良く判らない」というふうに曖昧に首を傾けた。

「しかし、時間を掛けている場合でもないのかもしれない。だから俺は、明日と云わず今からでも、『あれ』と向き合いたいのだ。よって、君らに、領主としての仕事の一部を、代わって欲しい」

 それは解るが、と口を開きかけたルナールに、タオは先回りして、「でっ」と少し大きな声を出した。

「何でサンハルには、だろ? ――テリーイン、ルナール。率直に聞くが、君達は、あの筋、そして()()()を『何だと思う』」

「――」

 答えられる訳が無い。二人とも絶句して、ただ首を振った。タオが頷いて

()()()()。それは俺もそうだ。――CFCやイー・ル、エグメリークは、尚更、じゃないか?」

 そう云った。テリーインとルナールが再び顔を見合わせた。

「云い方を変えよう。CFC、イー・ル、エグメリークが、あの『筋』に()()()()()()()()()()と思うか?」

「出来ないとして――それがどうかしますか? 『彼ら』が化け物達に襲われたとしても、我々には何とも出来ません。仮に救助でもしようとしたら、余計なお世話と云われそうなのですが」

 テリーインが意識して冷たい声を作って云うと、タオが肩を竦めた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――CFC、イー・ル、エグメリーク等々は、この世界、『この次元()』の理屈にしか興味が無く、実際それ以外知らないが、あの『筋』はどう考えたって、『この世界の(ことわり)』には()()謎だ。だから、連中には、あの『筋』に対応出来る筈が無い。……が、連中に対応出来ないからって『放っておいて良いのか?』と振り出しに戻る」

「……」

「あれはこの世界()のものではない。――かといって、俺達が()()云う『あの世』のものでもないわな。俺達の知らない『どこか』『あっち側』――()()()の『彼岸』なのかもしれない。俺達は今、また別の川の『此岸』で、()()()()が決壊して合流した地点を見ているのかもしれない、あるいは其処に立っているのかもしれないのだ――そして」

 タオは一つ息をついた。それから、口調としては独り言のようになって云った。

「その決壊箇所を塞ぐことが、出来るとすれば、魔術士(おれたち)以外に無い、と考えている。CFC他、『此処(このよ)』にしか興味の無い者には不可能――可能なのはきっと俺達だけだ、と、その自負が、俺にはある」

 ルナールがサンハルと目を合わせ、テリーインはごくっと唾を飲んでタオの顔を見つめている。

 ふと、タオの表情が緩んで「とはいえ」と三人の顔それぞれに目を向けた。

「今のところ俺達は、あの筋や異形のものから()()()()()()()()()()んだから、もしかしたら『放っておいても良いもの』かもしれないのだよな。二つの川が合流しても俺達が本来立っている此岸の土手が無事なら、何処かで中州や三角州が出来たって特段の問題は無いのかもしれないし。――俺が云ってる対処というのは、それも含んでる。放ってても良いモノなのかどうかも解らないから、それを()()しなくてはいけない。今の段階でいきなり、あの『化け物』を『排除』する方法を考えなきゃいけないと云ってる訳じゃないから、そこは誤解するな。それは『偏り』だ。その判断が出来るのも、きっと魔術士(おれたち)だけだと、そう云っている」

 苦笑混じりに云ったタオの言葉に、テリーインとルナールは「はあ…」と戸惑いつつも頷いた。――サンハルだけは、それに異論は唱えないが肯定もせず、目を細めてタオの顔を見つめた。そんなサンハルの表情に、タオも何も云わなかったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()首を振った。「余計なことはまだ云うなよ」とでも云いたそうな仕草であり表情だった。


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