【day1】-[1]-(1)
今となっては数が皆無と云って良い程に僅少であるが――、僅かながらに残っている終魔大戦の記録、文献には、大抵「空が割れた」だの「天が裂けた」だのと書かれている。
実際にそんなことはあり得ないはずだが、当時の人々にはそうとしか見えなかった、のだろう。
そして、その記述が多いということは、その時、天を仰ぎ見ていた者が多かったから、ということにもなるだろう。
その時起きていた事実、その事実が判明した以上、その後に起きることを予測し、備えていたのか。それとも、何も出来ずに絶望して天を振り仰いでいたのか。
目を閉じて身を屈め、ただ祈っていた者たちは「天が裂けた」様子を見ていないだろうし、――その時、具体的にやらねばならぬことがあって、ただ空を見ている訳にはいかなかった者達も、その光景をちゃんと見てはいなかった筈だ。
タオ・サウザーは、そのうちの一人である。
何故なら、それは一瞬の出来事であり、一瞬のうちに余りにも多くの――様々なことが起きていたから、その全てを一人の人間が把握しておくことなど不可能だったのだ。無論、屋内に居た者は「空が割れた」様など見られなかった訳であるし。
タオ・サウザーが見たのは――、本来、自分が見るべきものでは無かった。次の瞬間、自分が見るはずだと予想していたものではなかった。本来なら――、上手くいけば、己の魔術によって生じる穴を、最悪の場合で、それと同時に目を焼く程の光を、見ている筈だったのだ。
だが、タオ・サウザーが見たものはそのどちらでもなく、巨大な、火の玉。よって――、強いて云えば、他の人民が「空が割れた」と思った瞬間、タオ・サウザーは、「太陽が落ちた」とでも思ったかもしれない。
とは云え、あくまで「強いて喩えれば」である。タオ・サウザーは、自分が見た物をそのままに受け止めていた。即ち、唐突に火の玉が目の前に現れた、とだけ。太陽ほど巨大では無いことも解っていたし、「落ちた」とは云えない現れ方でもあった。よって、タオ・サウザーは、その時起きる筈だったことが起きなかったことにまず驚愕し、そして実際には、
「あれは、何だ。何が起きたのだ」
とだけ思ったのである。
戦が始まって五年――というところだったか。
とは云え、それは己に直接関わる戦に限った話で、全世界が巻き込まれた戦で云えばもっと長かったろうが――、タオ・サウザーはその後にやってくる……「終魔大戦・後期」の記憶が余りに残りすぎて、前期のほうは細かく残っていない。「今」に続いているのが「後期」だから、ということもあるだろうか。「前期」から「後期」には繋がったが、前期は「今」に続いていない。前期はだらだらと倦んでいて人生に対して何の喜びも得られるものじゃなかったから、率直に云って覚えていたくもないのかもしれない。
季節が初夏だったことは覚えている――。




