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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day1】終わりが始まった日 /2014.6.18
15/16

【day1】-[3]-(4)

「サヴァナでは化け物が出てこなかった?」

「――のかどうか、ハッキリとは分からない。サヴァナの方では俺達が見たような『百鬼夜行』を見てないらしいんだ」

「……」

「もしかしたら……、竜巻が顕れたのと同時にもう裂け目はあって、その()()に化け物は既に集まってた――とか」

 リオンは右手の筒を再び胸の前に突き出し、左手で「裂け目」を表す筋を描いた後、そこから右手の筒へ指を突っ込む手振りを見せた。

「ああ、でも、これも、火の玉と化け物を見た俺が想像したってだけだよ。現地(サヴァナ)では誰も化け物を見ていないんだから、本当に化け物は『出てきてない』とも考えられる」

 アサギが「だったら良いのだけど……」と呟いたが、表情は戸惑いの色が濃い。タオも、うーん…と唸って杖を抱えたまま腕を組んだ。ちらりとそちらを見ると、チョウも小首を傾げている。

 それはあくまで「希望的観測」だ。「ディテールの違い」には入らない。ただし、リオンもそれは分かっていて云ったのである。その推測は「希望的観測」であるが、現状からは、「その可能性だって否定しきれない」のだから、わざわざ「悲観的推測」にばかり囚われずとも良い。リオンはリオンで、客観的情報から考えられることの「両方」を考えている。

「当然、俺は俺でとんでもない化け物の群れを見たんだから、『サヴァナでは()()()()のか、ああ良かった』とは思ってないよ、そこまで暢気じゃない。だから、サウザー(こっち)側の状況も伝えて、一応、妙な生き物、化け物としか云いようが無いモノには気をつけろって云っといた」

「うむ……。その警告は必要だ」

 肩を竦めてリオンが云うと、タオは重々しく頷き、安堵したような溜息をついた。――タオの渋面は、「リオンがもしそれを楽観してサヴァナに警告をしなかったのなら、説教しなきゃいけないところだ」と考えてのことだったのかもしれない。

「あの『化け物』が本当に俺達に害をなすような化け物(モンスター)なのかどうかは分からないのだから、無闇に脅かす必要は無いんだが、知らなくて良いことではないからな……。サヴァナに本当に現れてはいないとしても、こちらに現れたモノが移動しないとも限らないのだし、その時サヴァナで()()()パニックが起きるようじゃ、時間を無駄にしてしまう」

 タオが確認するような口調で云うと、リオンは「うん」と大きく頷いた。それからタオは、「それで」とリオンに先を促した。

「それでって?」

「――。おまえ、本当は云いたくないから、やたら間を詳細に語っているのか? まだ、『ディテールの違い』を云ってないぞ、()()()()()何を見たんだ」

「……別に云うのを避けてる訳じゃないさ、俺は一応、流れに沿って喋ってるつもりだよ。ただ……まあ、説明するためにもう一回思い出すのが、ちょっと気持ち悪いのはそうかもな」

 リオンは苦笑してから、――先ほどのアサギと同様に、一度深呼吸をした。

「俺、『竜巻』が移動した、って云ったよな。それは()()()――あの火の玉やフリュスの土塊と()()で、あんたが云った通り、方角はイー・ルだ。――だけど、それは()()()と違って、『そうかもしれない』『多分そうだろう』ってくらいの話じゃあない。可能性――『確率』として比べたら、かなり高い」

「……どういう意味だ」

「サヴァナの隊は、『凧の糸』が続く限り、距離をとりながらその竜巻を追尾して〈録画〉を続けたんだ」

 タオがぴくりと目を細める。――先ほどリオンがチョウに渡したような、()()()凧糸ではない。恐らく、〈術〉としての「凧」、そしてそれを()()()()()()()()()()()までは、竜巻を追いかけた、という意味だ。タオにはそれが伝わっている。

 そこでリオンは、もう一つ大きな息を吐いた。――何だか、次に口を開くのが億劫そうに聞こえる息の音だったので、タオが確認する口調で会話を繋ぐ。

「それで、実際にイー・ルに辿り着くまでを〈録画〉していたということか?」

「……いや、イー・ル本国までは流石に無理だったようだ。――が……サヴァナとの交戦域を越えて、後方基地までは確実に――」

「……」

 リオンの云った「夢見が悪い」の意味がそれで解り、タオは顔をしかめ、アサギも「ふっ」と息を吸い口元を手で覆った。タオの目の端に、チョウが一瞬振り返るように首を動かしたのが見えた。

「――イー・ル側で、明確な被害が出た。そう思っていいのか」

 タオが、顔はしかめたままだが冷静な声色で云った。リオンがこくりと頷き、そのまま俯いている。

 それから、もう一度だけ深呼吸をして、きっと顔を上げた。その目つきはとても真剣で、口元も引き締まっている。夢見が悪い、気分が悪い、などと云っていたが、そうした若さ故の「感傷」は、取りあえず沈めることが出来たらしい。リオンは、膝に肘をつく格好になって身を乗り出し、タオの顔を真っ直ぐ見つめた。

「竜巻が明らかに、人間や兵器、装備、設備――を巻き上げるのを、〈録画〉してた。音声は記録してなかったのが何よりだ、流石にそれも入ってたら、俺、今日夕飯食えなかったかも」

 そこで軽くリオンは笑った。タオも軽く口角を上げたが、直ぐに二人とも真剣な顔つきに戻った。

「ということは――、CFCやエグメリークでも、火の玉や土塊、それと『化け物達』が、何か、してるのかもしれないよな?」

 リオンが師匠に問うと、タオは大きく頷いた。それは、ただの想像ではない。実際の「可能性」を考えて良い話だ。

「――暗殺ってのが何のことかは不明だが、さっきチョウが云っていた『地獄の怪物』という表現が、もう少し実感を持って伝わってくるな。CFCは、()()()()()()そう表現した訳じゃないのかもしれん」

 タオは自分に言い聞かせるような――独り言のような口調で云ったが、聞いていた若人はチョウも含めて皆、小さく頷いた。

「イー・ルもその竜巻を、『サヴァナの悪魔達の仕業』だと思っているのかもしれないな…」

 リオンも独り言のように呟いた。

 イー・ルはサヴァナ・アルチザン・ギルドを「悪魔の軍団」「妖魔窟」などと()()()呼んでいる。もう少し現実的に「背徳者」などと云う表現もあるが、それは「悪魔に魂を売った者」という意味合いを込めてのことなので、さほど変わりは無い。

 CFCの場合、「信仰」については今のところ――表向きは――さして制限が無い。権力者が「信仰心」のようなものを「ナンセンス」だと思っている節もあるため、「地獄」やら「悪魔の手先」やらの表現は単なる比喩として使ったのだろうと判断出来るが、イー・ルは端的に云って「宗教国家」、特定の〈神〉への信仰心を持っている者のみが人民としての権利を授けられるという国家であるので、サヴァナを「悪魔」などと呼ぶのは、本気でそう思っているから、つまりサヴァナの者を「同じ人間だとは」思っていないところから出てきている。

 それに対してサヴァナ・ギルドの民は全く気を悪くしたこともないし、実のところサヴァナにもイー・ルと同じ「信仰」を持つ者は居るのだが、向こうからすれば()()()()()()()()()()サヴァナ・ギルドに()()()()()というのは正しく「悪魔」と同じ意味合いの「背徳者」であるから、結局、「サヴァナ」という集団自体を()()()「悪魔集団」と見なしている訳である。

 ――リオンの云う通り、「人間には理解しがたい」ほどの大きな竜巻によって自軍の基地に被害が出た、その事態を以て一層、サヴァナ・アルチザン・ギルドとその〈同盟〉である魔術士達を「悪魔」と認識し、今頃口汚く罵っていることだろう。

 伏し目がちになって何か考える顔をし、杖に額を付けたタオだったが、リオンがそんな師匠の意識を引くようにピッと指を立てて続ける。

「でも、妙な感じはあったんだ」

「妙?」

 タオが目を開いてリオンに首を傾げる。

「『竜巻』のデカさに対して、――少なくとも俺が〈映像〉見た限りじゃ、被害が……少なすぎる、気がする」

「……何?」

「その竜巻がどんなにデカかったかは、もうあんたらも想像出来てるだろ? だったら、平原や砂漠でテント張ってたりコンクリ造りのシェルターに籠もってたりの軍隊基地にそれが到達したとき、どんな『絵』になるか、想像もつくよな。――だけど、それが想像よりずっと……軽い」

「……」

「つくづく俺が見た限りの話で、こっちに送られた〈映像〉を今はもう確認出来ないから……信じられないだろうけど、俺、竜巻に巻き上げられた人間の――()()()の数、数えられるくらいだった」

 リオンがそう云うと、アサギが「そんな馬鹿な」と云いたそうな驚いた顔をして、リオンの横顔を見つめた。タオも不審そうに目を細めている。リオンは「本当だよ?」と苦笑して二人に云った。

「実際、数えてはいないけどさ。本当なら、蟻塚壊したときにうじゃうじゃ出てくるみたいなのが渦の中に見えておかしくないだろうに、ぽつぽつと()()()()()()()が見えてたんだから。――なのに、戦車とかトラックとか、基地のアンテナとかミサイル発射台とかは、ガンッガン飛び上がってんだ。可笑しいだろ、人間よりよっぽど重い物の方が枯れ葉みたいに巻き上がってんのに。まさか本当に、『基地』に()()()()()()()の人間しか居なかったなんてことだったら、俺達、とっとと攻め込んでって『手を挙げろ』だけで制圧しちまえば良かった、ってくらいなんだよ」

「ふむ――」

 タオは、再び思案げな顔つきになって杖に額を付けた。それからリオンに目を向け、

「君の目には、『まるで、選んで巻き上げているようだ』と映ったか」

 と低い声で云った。リオンが目をぱちくりとさせ、「ああ…」と息を吐いた。

「そうだな、云われてみたら、そんな感じだ。見たときは、何か違和感あっただけだったけど――」

 タオは相変わらず思案げな顔をしたまま背を伸ばし、振り返って窓の外を見た。

 日が暮れようとしている。西から東へ戻っているので、夕焼けのオレンジは既に背後(うしろ)だ。


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