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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day1】終わりが始まった日 /2014.6.18
11/18

【day1】-[2]-(3)

 タオはにやっと笑い

「『やるべきこと』が思いつかないならば、そうじゃなくて君達、『やりたいこと』は今無いのか?」

 そう云うと、「よっこらせ」と大げさに年寄りぶりながら立ち上がった。天を仰ぎ見て独り言のように語る。

「知らぬ間に陽が随分と高くなっているな、というか、とっくに中天を越して傾きかけてるじゃないか。何時間も集中したせいで、体力も神経もすり減ったよな」

 若者達はタオとお互いの顔を見、「それはそうだけど…」と頷き合い、首を傾げ合う。

 タオがくるっと首を曲げて三人を見下ろし、

「さて、腹は減ってないのか、君達」

 そう云うと、――リオンの腹が「きゅるる」と鳴った。

 リオンは、年長者にも強気で物怖じせず云いたいことを云う、「生意気」「やんちゃ」と云える性格をしているが、同時にそれは「素直」とも云える。そんな彼でも流石にバツが悪く、腹を押さえて「うぅ」と唸り、照れたふうに顔を俯かせた。

 タオがにっこり笑って「正直だ」と頷いた。

「チョウが野営に備えてくれていたんだ。――今はそこまでの緊急時ではないから、兵糧を消費するのは勿体ないんで、簡単にビスケットあたりを摘むことにしようか。で、それはそれとして、君達、何か今、他にしたいことはないかね」

 したいこと――と云われても。相変わらず三人は困った顔だ。「欲求」というのは――それこそ食欲を除けば――今、思いつかない。

 チョウは表情を引き締めて領主の顔を見上げ、素直にそれを云った。

「私は、タオ様の部下ですから、現状に於いて()()欲求は出てきそうにありません」

 するとタオは意地悪く口角を歪めた。

「それは甘えだ、チョウ」

 声色にはさほど棘が無い。が、言葉は何のオブラートにも包まずに、タオは部下へ云い放った。チョウは鼻白む。

「指示や命令が無くては何も出来ない部下だと、俺に思われたいのか?」

 大げさにニヤニヤしながら問うてくる上司へ、いいえと首を振りはしたが、かと云ってちゃんと返答は出来ず、チョウはたじろいでいる。

 リオンとアサギの二人が顔を突っつき合わせ、

「チョウさんに、随分厳しいな」

「……直接の部下だからでしょうか」

 そんなことをコソコソ云い合っている。それが聞こえたのかどうかは判らないが、タオは表情をおどけた苦笑に変えて肩を竦めた。

「若い客人二人に悪い見本を見せる訳にはいかんのだよ、チョウ。フリュスの大司祭殿とサヴァナの親方に、人の云うことを聞くしか出来ないような修行をさせたのかと叱られちまう」

 苦笑を浮かべたままチラリと二人を見た後、タオが続ける。

「俺も君に『指示』したいことが無い訳ではない。俺だって、さっきの火の玉が何なのか知りたいのはそうなんだ。だから、すぐに城に戻る必要が無いというなら、今の時間にアレの軌跡を辿ることは出来ないだろうか、と考えている。本当の炎なのかどうかも解らないモノではあったが、それでも俺一人でやるより、〈火〉の友たる君が手助けしてくれれば有り難い気がする。――それを俺が『指示』すれば、チョウよ、君は従うのだろうな」

 勿論です、というふうにチョウは大きく頷いた。だが、タオはまた意地悪く口角を上げ、

「だが、チョウ、俺は帰りも君に〈運転手〉を頼むつもりだったんだが、君はそのつもりじゃなかったのかな?」

「え……、いえ。往復の〈運転〉を任されたつもりでしたが――?」

 チョウが戸惑って首を振る。するとタオが「ならば」とやたら大げさに溜息をついた。

「君ともあろう者が膝をつく程だったのだから、取りあえず今は大丈夫だと云っても、結構、体力も精神力も消耗している筈だろう? ならば帰りに備えて、休息をとっておいた方が良いのじゃないだろうか? 火の玉の追尾へ助力を指示したことで一層消耗し、帰りに事故ったとなったら、それは指示した俺の責任か? ()()()()()しなかった俺が悪いのか?」

 チョウは慌てた顔をしてぶるぶると首を振った後俯き、「そうか…」と小さな声で呟いた。

「俺は、今のこの状況で『ちょっと昼寝したい』という()()を、怠惰と思うほど酷い上司じゃないつもりだが」

 肩を竦めた後、タオはチョウだけでなくアサギとリオンにも視線を巡らせ、一つ息をついた。

「忠実と従順は過ぎると厄介なもんでな。自分で『やるべきこと』を()()ながら命令に忠実であれば、上の人間としては有り難いことだが、命令されたことしか()()()()なら『愚鈍』って云うんだ。――だから、『やるべきこと』が判らないときは『やりたいこと』を()()()みるのも()だってことさ。まあ、世の中には『やりたくないけどやるべきこと』の方が、圧倒的に多いものではあるが」

 さらりと軽い口調でタオは云っているが、若者達は神妙な顔つきで聞いている。

「やるべきことが判らない状態で思いついた『やりたいこと』が『やるべきこと』にもなっていれば、それが一番良いことだ、本人のためにも周りのためにも。だから一旦『やりたいこと』が出てきたら、それが『やるべきこと』か『やっていいこと』か『やってはいけないこと』か、一緒に判断する頭も持ってなきゃいかん。――で、俺は今君らに、『何かしたいことは無いか』と訊いた。それが、周りのためにも満たすべき欲求なのか、()()()欲望なのかは、流石に上司や師匠として俺が判断するから、取りあえず何か云ってごらん」

 最終的にタオは優しい微笑を浮かべて腕を組み、若者達に首を傾げてみせた。

 チョウは直接に、具体例も交えた厳しい言葉を投げられた分、領主の云うことが既に理解出来ていた。よって、年長者らしく、客人二人よりも先に己が領主へ告げた。

「昼寝と云うほどのしっかりした休息は必要ありません。ただ、先の火の玉を探索・追尾するだけの力には自信がありませんので辞退させて頂きます。――私は、城と再度〈通信〉して、先ほど〈装置〉に一旦吐きだしたものと現状とを照合し、タオ様にお伝えすべき情報を整理したいと思います」

 草原にグッと拳をついて頭を下げ、チョウがそう云うと、タオは「うん、解った、頼むよ」と笑って頷いた。

 さて君達は、と云うようにアサギとリオンに目を向けると、リオンが、

「――俺は、サヴァナ(じもと)が気になる。そっちがどうなってるか調べたい」

 と云った。アサギも、

「僕もフリュスの状況を確かめたいのですが――宜しいでしょうか」

 と云った。タオがアサギに苦笑し、

「宜しくない、と俺が云ったらどうするつもりだい、アサギ。それは、現状に於いて極めて適宜な欲求だ。そのくらいに適宜であれば、もっと胸を張って、俺が仮に却下したとしても押し通すだけの『意志』を見せていいんだよ、また、見せる()()だ。そういう判断力と意志の強さを、培うべく修行してるんだよ、君は」

 普段から、引っ込み思案で少々流されやすい部分がある――それが〈マスター〉に至れない弱点だ――という評価を受けるアサギは、ここでもそれを指摘されて若干頬を染め、「は、はい…」と呟きながら俯いた。

「それでは二人に俺から少し頼みがある。俺もサヴァナとフリュスのことは気になるんだが、俺は俺でやることがあるんで、後で、帰りの道中にでも報告してくれるか」

 それは勿論、と若人二人が大きく頷き、タオが「頼むよ」と笑った。

 腕組みを解いて、一度「うぅん」と大きく伸びをし、

「では、先にちょっと何か食おう」

 とタオが宣言すると、再びリオンの腹が「くうっ」と鳴った。



 物資運搬車(トラック)の幌から本来兵士に配給される乾パンとチーズ、水のひょうたんを二人前ずつとりだし、それを四人で口にすることにした。一人につき半人前ということだ。

 が、タオは削ったチーズと乾パンを一きれずつ口にしたところで、水だけをひょうたんの半分飲み、

「残りは三人で分けなさい」

 と云って立ち上がった。もう良いのですか、とチョウが戸惑いの表情を浮かべて上司を見上げると、「年寄りは若者よりも小食なもんさ」と笑った。

 それからチョウの脇に自分の杖を置く。

「さっきの〈情報〉を照合するなら、要るだろう?」

 先ほどチョウが握った場所にうっすらと、指の跡が付いている。焦げだ。師匠であり上司の〈装置〉だからそうならないように気をつけてはいたのだが、やはり加減が狂っていたらしい。それに対して申し訳なさそうな顔をした後、「恐れ入ります」とチョウが云った。が、やはり戸惑いの表情で、

「しかし、タオ様も何か――なさることがあるのでは」

 と首を傾げた。タオは肩を竦め、

「無くても何とかなる。〈装置〉は、あった方が楽、っていう程度のものだ」

 そう云うと手を振り、草原の方へ丘を下っていった。若者達が「ほう…」と嘆息する。〈装置〉が無いと何も出来ない、そんな魔術士は未熟(ひよっこ)なのだと、――タオ本人にはそれを云ったつもりが無いとしても――改めて教授された気がした。

 タオは草原まで下りてしまうことはなく、なだらかな丘の中腹辺りでしゃがみ込んだ。膝を付いて四つん這いになったかと思うと、そのまま俯せで大の字になる。後ろ姿を見ていたチョウが驚いて立ち上がり、

「タオ様!?」

 と叫んだが、タオが顔を動かして振り返り、寝そべったまま「違う違う」と云うふうに手を振った。

「大丈夫! 具合悪くて倒れた訳じゃないよ。杖が無い時は、これが一番いいのさ、俺には」

 心配そうな若者を安心させるべく、声を張ってタオが云う。それから再び、手の平もべったりと草の上に押しつけて大の字になった。――まるで、体全体で大地そのものを抱きしめているかのよう。

 思わず心配してしまう格好ではあるが――直後、ふわり、と感じられた〈魔力〉の気配は、明らかに師匠、地のマスターたるタオの力強さそのものであったので、再び若人は嘆息した。本当に、〈装置〉無しでも()()()()()魔術士で居られるのだ……と。



 ――さっきは随分と驚かしてしまったね、済まなかった。取りあえず、さっき警告した危険は無くなったようなのだよ、ガイアの子供達――

 ――しかし戦が終わったという訳でも無いし、そうなのさ、それとは別の何かが起きたのかもしれないんだ。君達、何か知らないか――〝地〟精霊王が解らないと云うものをどうして知っているものかと? それはそうかもしれんがな……何かを「知らなくても」いいんだ、どこかに何か手がかりはないものかね。君達の〝層〟のどこかに、ほころびは生じていないか、君達の〝層〟には何も起きていないか? あの化け物は出てきていないのか?――

 ――では、〝地〟のマスターたるタオ・サウザーが頼む。草木達、妖精達、さすらう死人達、あの火の玉、火の巨人と異形のもの達は、どっちに向かった? 標を見せてくれないか。見かけた方角だけでも良い、――ふむ、……――

 ――誰もあの巨人と化け物のことは知らない。……では、君達は、何だと()()?――


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