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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day1】終わりが始まった日 /2014.6.18
10/18

【day1】-[2]-(2)

「そうだ。置いとく。『全く理解の及ばない何か』ではある。だが、『核』と違い、『得体の知れない強大な破壊の力』()()()()、『知らない』『解らない』わけだ。()()()()()()()()()()()()()ものなんだから、たった今は、考えるだけ無駄だ」

「……そういうもんか?」

「そういうもんだろう。『俺達は全く知らない何か』なんだから、今ここで議論したところでちゃんとした答えは出ない、想像や仮定が乱れ飛ぶだけだ。たった今、その議論は無駄だなあ」

 タオにも疑問はある。いや、それどころか、恐らく若い三人とは違う、興味や好奇心が漲っている。だが、それを解消、あるいは満足させるための()()を、今、この段階で執ることは不可能であり無意味だ、と云っているのだ。

「云ったろう。今やってるのは、目の前にあることの、確認と整理だ。()()()()やっていく」

 渋い顔をしつつも、リオンはわかったと頷く。チョウとアサギもこっくりと頷いた。

「じゃあ一先ず、大きな確認をしてそれを結論づけようか。――核の矢は確実に飛んできた。それを()()()()()()()()()()()包んで、核の矢は()()()。これは事実として認めていいか? 少なくとも、この四人の間で」

 タオが三人の若者に視線を巡らせて云う。

 アサギは「そうとしか思えません」と戸惑いがちに云い、リオンは「それ以外の事実があるとすれば教えて欲しい」と口を尖らせ、チョウはただ大きく頷いた。

 タオも、うむ、と厳かに頷いた。

「では()()、ここで出来る範囲で、『あの火の玉は何か』を確認しておこうか」

「想像の域を越えられない、と仰っていたのでは」

 アサギが「えっ?」と首を傾げると、タオはにっこり笑った。

「一つだけ、事実を云えるだろう。すなわち――、少なくとも、たった今、自分自身に向けられている破壊の力()()()()、それだけは確かじゃないかな」

 弟子と云える若者へ意見を求めるようにタオが云うと、また三人は顔を見合わせ、曖昧に小首を傾げたり、小さめに頷いたりした。

「――ということは、()は、『敵』ではない。どう? 事実として受け入れられるか?」

「うーん……。でも、『味方』とも思えないけど」

 リオンが腕を組んで首を捻ると、アサギが、

「でも、〈核の矢〉を消してくれたのはそうですよ」

 とリオンに云った。心から反論したい訳ではないから、口調があやふやで声が小さくなった。

「敵か味方か解らないから不気味なんだ」

 チョウがボソッと呟く。アサギとリオンが不安げな顔を見合わせたが、タオは苦笑した。

「そう、敵か味方かは解らない。だが、不気味と云っちまうのは、既に偏りが生じてる証拠だな」

 タオが肩を竦めながら軽く云うと、チョウは僅かに眉を寄せた。タオから咎められた気がして、しかしそれが不本意であったらしい。

「たった今自分に向けられている破壊の力ではないことが明らかな上に、さっきだって、()()()()()()()()()()()()()?」

 首を傾げながらタオがチョウの顔を覗き込む。

「警戒はすべきだが、最初から()()を持つ必要は無い。『警戒』が感情的になると疑心暗鬼が育つ、いつも云ってるだろう、チョウ」

「……」

「疑心暗鬼が育つから、いきなり『敵意』が生まれる。最初から敵意を持っているのがプンプンしている者と対すると、悪意など持っていなかった者、それどころか好意を持っていた者でも大抵()()とするもんだろ? つまり、敵か味方か判断が付かない者を()()()()のは、自分自身だ。――世の中の殆どの()()は本来自分の敵でも味方でもない。敵か味方か解らないものに対して好意を持つことが無理ならば、努めて『無関心』を貫き、孤独を喜ぶ強さを持て。無関心という言葉の響きが悪けりゃ『ニュートラル』『無感動』だ。それが出来ない人間が、打算なしの味方を作れず、無条件の敵を作るんだ」

「――はい」

 最初は軽い口調から始まったが、師匠の言葉は次第に訥々と、しかし真剣なものになった。チョウも神妙に頷く。――自分たちが戦争をしている相手は、そうやって「精霊を敵にしてしまった」者達だ。

 再びタオの口調が柔らかくなり、「まあ、そうは云っても」と云って髭を扱く。

「あんな巨大な火の玉を目の前にして『怖い』と思うのは当たり前だ。あんな火の玉に飲まれたら自分が死んじゃうからな。その分、最初から『印象が悪くなる』のは仕方ない。それに、チョウ――君は特別、『得体が知れない』気分になったんだろう、違うか」

 チョウがタオの顔を見て「お気づきでしたか」と呟く。タオが、「うん、そうなんじゃないかな、と」と応じた。

「君は〈火〉の友だ。()()()、あれが『何なのか解らない』ことに、怖れを感じたんだろう」

 タオの言葉に、こくっとチョウが頷くのを、リオンとアサギも神妙な顔をして見ていた。

 そんな二人にもタオが声を掛ける。

「君達はどうだ。リオン、あれが()()()〈火〉の玉であれば、君はチョウより余程に怖れを抱いて然るべきだと思うんだが?」

 〈風〉の性であり友人であるリオンは、本来〈火〉に苦手意識を持つ。無論、力の強弱や規模の大小、他の精霊のバランス等にも依るが、あの火の玉が本当の〈火〉の玉であれば、リオンの現在の〈力〉であれば、誰より先に「ゾッ」として当たり前なのだ。

 リオンは腕を組み、「それが……」と首を捻った。

「何て云うのかな……、あれは、()()()()()()には思えなかったっていうか……。あれが()()()火の玉だったら、俺、『凧』は揚げてられなかった筈なんだよな。どっちかっていうと……チョウさんやサンハル隊長さんが扱う〈火〉じゃなくて、違う〝層〟の……、()()()()とか鬼火とかの方が、まだ近いような……」

 思い出し思い出し、リオンが首を捻りながらたどたどしく云う。ふむ、とタオは鼻を鳴らし、「ではアサギは?」とそちらに顔を向ける。

「君は? 一番早く()()()の状態から抜け出せたのは君だったと思うが、あれが〈火〉だから、〈水〉性の君は早く復帰出来た、ということだろうか?」

「いえ……」

 アサギも曖昧に首を傾げ、最初に否定する言葉を出した。

「僕は――アレが、火の玉にしか()えなかったから、『僕が動かなければ』と、()()()だけで……。僕の力が有効だという自信があった訳では無いんです――というか、あれが本当に〈火〉の玉であったなら、僕の力は大して役に立ててなかっただろう判断の方が、出来ていた気がします」

 言葉通り自信なさげな声にタオが苦笑する。それは根拠の無い自嘲では無かったから、タオは苦笑を浮かべつつも頷いていた。

「あれがもし、訓練対戦でサンハルさんの作った火球だとしたら――僕は即、『参りました』と宣言したと思います。僕にはまだ、あんな火球に対応出来るほど――『消す』ほどの力はありません」

 サウザー領の魔術士隊長サンハルはチョウと同じく〈火〉の友であり〈マスター〉でもある。アサギの予想に誤りは無い、タオが頷く。リオンが茶化すように、

「チョウさんが作った火球だったら消せてたのか?」

 などと云ったが、チョウはそれを聞いて大きく頷いたので、目をしばたたかせる。

「リオン君、俺にはあの大きさの()()()火球は作れない。作れたように見えても恐らく相手を怯ませる目的だけのフェイクとなるだろう。アサギ君にはそれを判断出来るだけの()が、既にある筈だ」

 チョウが真面目に語りかけると、リオンは鼻白んで「そうなのか…」と呟き、隣りに座ったアサギの顔を見つめた。アサギは首を左右に傾ぐ。チョウの言葉は褒め言葉でもあるから、少し照れた風情が見えた。

「でも、その判断も付かなかったので……。だから、『()()()()やっぱり僕は何かしなくては』と思った、だけです」

 おずおずと、俯き加減に呟くアサギに、タオはにっこりと――いや、目尻に笑い皺を作り、歯を見せてニカッと笑い、胸の前で両手をパン!と鳴らした。

 驚いて三人がタオに顔を向けると、タオは笑顔のまま腕を大きく広げた。

「宜しい。()()君達の師匠でもある俺としては、君達に花丸を上げよう。君らの〈識〉はバッチリだ!」

 三人の若者が呆気にとられていた。

 タオは胡座をかいた膝を掴んで、若者達に視線を巡らしつつ続ける。

「俺にも『アレが何だったのか』は到底解らないから、何を以て『正解』を云うことは出来ないが、『アレが何なのか解らない』という迷いが君達に生じていることは、()()()()()()()。万が一、サウザー(うち)の部隊にアレを()()()()()()()()()()()向かって行く〈水〉術士が、逆にアレを極度に恐れて退却する〈風〉術士が居ようものなら、俺は修行をし直せと怒鳴り飛ばしているだろう。君達の〈識〉――()()はバッチリ合格点だ」

 若者達は困った顔を見合わせた。思い出してみれば、そもそもタオは、地のマスターであるが他三精霊とも〈友〉である。よってチョウ達三人それぞれに先ほどのような質問で意見を求めることは、本来必要無かった筈だ。ということは、それを問うてきたのは――「あの火の玉を三人の若者が正しく〈識別〉したか」、本当にその試験のようなものだったのだろうか。

 四精霊全ての〈友〉、地の〈マスター〉……そんな「師匠」から、評価して――褒めて貰えたのが嬉しいのは本音だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今は、生死に関わる「実戦」にあった筈……だ。故に、師の言葉が随分と暢気、場にそぐわぬものに思えて、三人は戸惑いの表情を浮かべていたのだった。

 そんな若者の心中を察しているのかいないのか、「さて!」とタオはまた()()()声を出し、パチン、と音をさせて膝小僧を握り直す。

「そういう訳で二つ目の確認だ。あれが何かは解らない。だが、たった今は、自分に向けられている破壊・攻撃の力ではない、よって、今現在は『敵ではない』、宜しいか?」

 リオンとチョウは未だに釈然としないという顔をしていたが、一応は頷いた。

 タオが苦笑してから、「では」と、三本指を立てて云った。

「三つ目、最後だ。さて、となると、俺達はどうしよう?」

「……」

 三人の若者は小首を傾げて無言である。

「正体不明の火の玉が〈核の矢〉を消した、アサギの言葉を借りれば『消してくれた』。じゃあ、俺達が最初にやろうと思っていたことは、もうやらなくて良くなった。そうだよな?」

「――。タオ様が、『やろうと思っていたこと』は……、()()()()()のではなく、()()()()()()()ということですか?」

 タオの「確認」の言葉に返答する前に、チョウの方が「確認」するように質問を返した。タオが、肩を竦め「しまった」とおどけて舌を出す。

「語るに落ちてしまった。実は、そうだ。俺がやろうとしていたことは、火の玉から奪われてしまったらしい」

「――そうですか……」

「まあ、それはそれとしてだよ。三つ目の確認に戻ろうじゃないか、じゃあ、俺達はどうする? やるべきことが今の段階で無くなったよ? チョウ、城には『しばらく戻らなくて良い』……というか、戻られると困るんだよな?」

「困る訳ではないでしょうが……、戻ってもやることが無いのかもしれません」

「じゃあ、どうしようかね、ここで」

 タオが肩を竦めてみせると、若者達は小首を傾げたり腕を組んで唸ったり、……要は、具体的な回答が無かった。


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