実写版「秒速5センチメートル」に対する雑感
予告編を観て感じたことをツラツラと。
アニメ映画「秒速5センチメートル」は微妙なバランスの上で成立している作品だと思っています。心情のモノローグ、風景描写、キャラクタ設定などが絶妙に配置されており、あれ以上何かを足したり、引いたりすると鑑賞時の心の居心地が悪くなると感じます。
そこで今回の実写映画です。実写化に当たって、ストーリーや登場人物、セリフなどを変えるなと言いたいわけではありません。
むしろ、一本の映画として成立させるために、アニメ映画との差別化は積極的に行っていくべきです。アニメ映画をそのまま実写にすることは出来ないのですから。
実写映画とアニメ映画は根本的に別ジャンルの作品だと考えています。もちろん、参考になる部分はお互い積極的に活かせば良いと思いますが、0から絵を作り上げていくアニメ映画と、現実に存在するものを基に作り上げられる実写映画は、鑑賞者に与える印象が大きく異なります。アニメみたいなストーリーやキャラクタ設定の実写映画、また、その逆もありますが、完成した映像の違いは一目瞭然です。アニメにはアニメの、実写には実写のそれぞれ適切な表現があるのです。
本編公開前、予告映像が出ている段階なので、役者の演技がどうとか、役柄にあっているのかなどは現時点で言及すべきでは無いでしょう。ストーリーについても同様です。
ただ、本編に関わる内容で、予告編の時点で明示されていることが一つあります。それは劇中で山崎まさよしさんの「One more time,One more chance」という歌が流れるということです。主題歌は別に用意されており、劇中かという表記からも、本編中に流れることは確実と見て良いでしょう。
気になるのはその歌が流れる場面です。アニメ映画版の終盤、この歌は非常に印象的な使われ方をしています。まるでミュージックビデオのように歌と映像がシンクロし、主人公二人がそれまでに辿ってきたそれぞれの人生をテンポ良く、かつ印象的に表現する様子は一度観れば記憶に焼き付くことが必至です。本編を観たことが無くても、この歌、このシーンは知っているという人もいるのではないでしょうか。
この映像的快感はアニメーションだからこそ成立したものであり、もしもこの一連のシーンを実写で再現すると違和感が生じるのでは無いかと危惧します。基本的に作り手が絵をコントロールできるアニメとは違い、実写の場合、役者の表情やロケーションなど、完全なコントロールが不可能な要素があります。さまざまな加工技術もありますが、作り手の考えるものが100%そのまま表現されることはないでしょう。カメラワークにしても、アニメの撮り方をそのまま実写映画に落としむと、映像が鋭くなったり、鈍くなったりする部分が出てくるはずです。
クライマックスとも言える劇中歌のシーンが、実写映画として咀嚼されたものになっているのか、それとも、アニメ映画のパロディに終始するのか、期待半分不安半分な気持ちです。いっそ、全く違う使われ方をされても面白いかも知れません。
勝手なことを書きましたが、蓋を開けてみないとどのような出来なっているかは分かりません。映画ファンの一人として、10月の公開を楽しみに待ちたいと思います。既存のファンの顔色を伺うようなものでなく、一つの作品として筋の通った作りとなっていることを祈りながら。 終わり