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第三章 小さな実験所
婚約破棄から三週間後。
カルメンは屋敷の地下室に小さな実験所を設けた。
使用人達には「令嬢が変な薬を作っている」と噂され、兄からは「貴族の恥」と怒鳴られたが、彼女は気にしなかった。
魔法では治せない病がある。
飢饉で人が死ぬ。
戦争で子供達が孤児になる。
それなのに貴族達は舞踏会に金を注ぎ、魔法の華やかさに酔っている。
「なら私は違う道を選ぶわ」
彼女は父の遺品の中から『蒸気機関の設計図』を見つけ出し、金属片やガラス管を集めて小さなモデル機を組み立て始めた。
何度も失敗を繰り返す。
蒸気が漏れ、爆発し、手を火傷をした事もあった。
だが、ある夜──
シュッ……ズゴォォン!
小さな機関に命の息吹が吹き込めれるように、自ら動き出す。
「……動いた……!」
カルメンは涙を浮かべながら、その機械を抱きしめた。
わずか数秒の稼働だったが、それは彼女の人生を変える瞬間だった。
これがあれば水を自動で汲める。
農地の灌漑が変わり、工場の力になる。
「魔法に頼らない新しい世界が作れるわ……」