第ニ章 追放と孤独
婚約破棄の翌日、カルメンはローゼンバッハ家の屋敷に帰された。
父は既に他界し、母も病床にある。
家督は兄が継いでいたが、彼は王宮に仕えるため屋敷にはほとんど戻らない。
「妹よ。王太子の選択は国益を考えれば当然の帰結だ。君も大人しく引き下がるがよい」
兄の言葉は冷たくも理路整然としていた。
彼もまた、政治の道具としてカルメンを見ていただけだった。
屋敷に戻っても、使用人たちは遠巻きに彼女を見る。
嘗ては『将来の王妃』として崇められていたのに、今は『不要な令嬢』扱い。
噂は早く、数日で『王太子に捨てられた』という醜聞が街中に広まっていた。
カルメンは外に出ず、部屋にこもり本を読み続ける。
彼女が幼い頃から愛していたのは、政治でも社交でもなく『科学』だった。
父が残した書斎には禁書指定された古代の技術書や、異世界の記録とされる『異聞録』が数多く収められている。
誰もが『妄想』と片付けたそれらの本を、カルメンは真剣に読み込んでいた。
『蒸気で動く機械』
『電気と呼ばれる不可視の力』
『病を治す微生物の理論』
どれもこれも、この世界では実現されていない。
魔法に頼るこの国では、科学は『下賤の知恵』として忌み嫌われている。
だがカルメンは信じていた。
──これこそが真の力だと。