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#14 ベストフレンドフォーエバー!


「ニャハッ! じゃあ、僕はそろそろ帰るニャよ。」


「あんまり遅くなると、子猫の僕をパパとママが心配するニャからね。……うーん、帰りはトレーニングを兼ねてほふく前進で進むとして、まあ、一時間もかからずに家に着くはずニャ。」


 ミケは、プロテインやシャーカーなどが入ったバックパックを背負うと、100kgのバーベル二つを腰に紐でくくりつけた。

 いつしか太陽は建物の向こうに落ち、空はまだ明るかったが、西の空に一番星が輝きだしていた。

 サクサクと帰り支度を整えるミケの様子を、何やらモジモジしながら見ていたジミーだったが、いよいよミケが地面に伏せてほふく前進の態勢に入ろうという時、慌てて声をかけてきた。


「お、おい、ミケ! お前、なんか大事な事忘れてないか?……眼鏡クイクイッ」

「なんニャ?」

「……ほ、ほら、お前は、その、控えめに言って、僕の親友だろ? 心の友と書いて『心友』でもあり、『ズッ友』いわゆる『BFF』ってヤツでもある。まあ、今回のマリリン、じゃなく、エリザベスの事は残念だったけど、お前と知り合えたのは、結果的に良かったなって思っててさ。これも一つの運命って言うか、前世からの縁って言うか、宇宙の法則って言うかさ、ハハハハハ。……眼鏡クイクイクイクイッ」

「……」

「それなのに、お前、まだ僕と連絡先を交換してないじゃないかよ。ハハッ、お前って割とおっちょこちょいだよなぁ、こんな大事な事をうっかり忘れて帰ろうとするなんてさ!……あ、これ、僕の住所と電話番号とメアドな。それから、今やってるSNSとソシャゲの一覧書いておいたからさ、家に着いたら、即連絡してこいよな! それから、全部のSNSとソシャゲにフレンド登録も忘れんなよ!……眼鏡クイクイクイクイクイッ、クククイクイッ!」

「……」


 ミケのバックパックの後ろのポケットに勝手にメモを突っ込み、視線を落ちつきなくさまよわせながら、いつも以上にエア眼鏡をクイクイさせて早口でまくし立てるジミーを、ミケは死んだ魚ような目で見つめていた。


(……重っ!……)


(……嫌な予感がしたから、わざと何も言わずに立ち去ろうと思ってたのに、気づかれてしまったニャンねぇ。困った事になったニャ。……)


 ミケは内心の焦りを感じさせないように、子猫の可愛らしい顔でニコッと笑って言った。


「ニャハハッ! ごめんニャ。知らない人には教えちゃいけないってパパとママに言われてるニャ。」

「いや、お前、大会会場で話しかけられた女子高生達にホイホイ教えてたよな? マリリン……じゃなく、エリザベスとアレックスとも、ニコニコ笑って連絡先交換してたよな? 僕は誰ともしなかったけどさ。」

「……変な所だけ良く見てるニャねぇ。……」

「ほら、僕の連絡先も教えたんだから、お前のも早く教えろって! 連絡先の他にも、年齢、誕生日、血液型、身長体重、今通ってる学校、卒業した学校、筋トレ以外の趣味、プロテイン以外の好きな食べ物、後は、僕以外の友達が何人居て、それぞれどんな性格でお前とどれぐらい仲がいいかも詳細に教えろよな?」

「……」


 ミケは、全く空気を読まずにグイグイ距離を詰めてくるジミーを、腐乱した魚のような目で見つめた。

 そして、再び、ニコーッとまぶしい太陽の笑顔で答えた。


「悪いけど、ストーカーに教えるのは危ないからやめとくニャ!」

「はぁ!? 俺のどこか粘着メンヘラストーカーなんだよ? 僕は至って常識的だろうがっ? 僕と友達になると、いい事だらけだぞ! 僕は友達が一人も居ないから、今なら、僕の友情を独り占め出来るっていう特典がついてくるんだぞ! まあ、その代わり、お前の友情も僕が独り占めさせてもらうし、お前には今居る友達とは全員絶交してもらうけどな! ああ、誤魔化そうとしてもムダだぞ? お前の携帯は毎日チェックするからな! 追跡アプリも入れるし、なんなら僕自身が物陰に隠れてお前の後を追跡するぞ!」

「……そういう所が粘着メンヘラストーカーなんニャよねぇ。自覚が全然ないのが困りものニャよねぇ。……」

「な、なんだよなんだよ! お前だって僕の事が大好きなんだろ? だから、マリ……エリザベスの事で傷ついてる僕を、あんなに親身になって励ましてくれたんだろ? そうなんだろ? そうだよな? 絶対そうだよな? 僕の事大好きだよな?『BFF』だよな? な?」

「あれは、そういうんじゃないニャよ。」


「転んで倒れてる人が居たら、助け起こすニャよね? ご老人が重い荷物を持ってたら、代わりに持ってあげるニャよね? カルガモの親子が横断歩道を渡ってたら、車を止めて待つニャよね?……そういう、ごく当たり前の優しさニャよ。君もそれぐらい分かるニャよね?」

「……」


 ジミーは、しばらく腕組みをして考えた後、心底不思議そうに首を横に振った。


「いや、全く分かんないけど。僕は誰も助け起こさないし、誰かの重い荷物なんて代わりに持ちたくないし、車通りの多い道路を渡ってるカルガモの親子はハタ迷惑なだけだと思うけど?」

「……ぐうぅ。話すだけムダだったニャねぇ。……」


 ミケは、使い終わったティッシュのようにクシャッと顔を歪めたものの、すぐに気分を切り替えて、サッと前に向き直った。


「じゃ、バイバーイニャー!」

「あ、ちょ、コラ待て、ミケっ! まだ、話の途中だろうがっ!……ってか、速っ! お前、ほふく前進でバーベルも二つも引っ張ってるくせに、なんでそんなに速いんだよっ!」

「ニャハハハッ! またどこか会えたらいいニャねー! 元気でやるニャよー、トムー!」

「え?『トム』? え?……」


 ゴ、ゴゴゴ、ゴッと重い音を立てて100kgのバーベル二つを引きずりながらも、ほふく前進でシャカシャカ遠ざかっていくミケの姿を、ジミーは宵闇に包まれはじめた街角に佇んで、しばらく呆然と見つめていたが……

 やがてハッと我に返ると、振り上げた腕を頭の上でブンブン振り回して、慌てて駆け出していた。


「オイ、コラ、ミケぇ! お前、僕の名前、覚えてなかったのかよう!……ハッ! そう言えば、お前、今まで一回も僕の名前呼んでなかったような?……ウッソだろ、お前! 親友の僕の名前を覚えてないなんてぇ! ゴラァ、待てぇ!」


「……って、オイ! 今、僕の連絡先を書いたメモが落ちたぞ! これ! これこれ! お前にとって命と同じぐらい大事なものだろう? ゴミみたいに捨てていくなよ!」


「……ゼイ、ゼイ……ちょ、ホント、マジ待って! 僕はお前みたいに、体力がないんだっての! って言うか、お前、おかしいぐらい速いぞ! ヤバイ、マジ速い! 全然追いつかないっ!……もう、息が、切れ……ミ、ミケえぇぇー!!……ヒィヒィ……」


 こうして、『筋肉ムキムキの子猫・世界一決定戦』をきっかけに知り合った、ミケとジミーは……

 熱い戦いの拳を交わす事もなく、固い友情を結ぶ事もないままに、アッサリと別れたのだった。

 秋の終わりの澄んだ宵空には、一番星がキラーンと輝いていた。


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