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#1 筋肉ムキムキの子猫・世界一決定戦!


「ニャハッ! ついに来たニャ!」


 ミケはグッと前脚の先を丸めた。

 プニプニのピンク色の肉球とモフモフの三色の毛並みが可愛らしい前脚、いや、腕には、愛くるしい子猫の姿には不釣り合いなムッキムキの筋肉が大きなコブを作ってピクピクと蠢いていた。


 快晴の空にはパンパンと花火が打ち上がり、いろいろな屋台が軒を並べ、移動遊園地が彩りを添える。

 既に会場は満員御礼の大賑わいだった。


 そう、ここは『筋肉ムキムキの子猫・世界一決定戦』の会場である。

 その名の通り、筋肉ムキムキの子猫達の中で誰が世界一かを決める大会がこれから行われる事になっていた。

 そんなニッチな大会に需要があるのかと不思議に思う人も多いかと思うが、ある所にはあるのである。

 もちろん参加者も世界各地からそろい踏みしており、ミケもこの大会の噂を聞きつけて、遠路はるばる参加していた。

 両前脚にそれぞれ100kgのバーベルをさげ、背中にはプロテインの缶やミネラルウォーター、シェーカーが入ったバックパックを背負った、いつものお出掛けスタイルであった。


「えー、ではさっそく、大会のルールを説明させてもらいたいと思います。」


 キーン! というお約束のマイクのハウリングで選手や観客達が一斉に耳押さえたのち、司会者の蝶ネクタイにシルクハット姿の女性が壇上で話し始めた。


「まず、試合は、この会場に設置された専用のリングで行われます。試合形式は、泣いても笑っても一発勝負の一対一の勝ち抜き戦。試合の勝敗は、ノックダウンやリングアウトだけでなく、大体観客の皆さんの反応でアバウトに決まります。要するに、観客を味方につけた者勝ちです。選手の皆さんは頑張って試合を盛り上げて下さいね!」


「あ、後、リングには屋根がないため、雨が降ったら、スケジュールは順繰りに後にズレていきます。皆さん、大会公式のてるてる坊主をご購入の上、良いお天気が続くようにお祈りをよろしくお願いしまーす!」


「なお、大会に参加する選手の方々は、公平を期すため、大会期間中は会場敷地内から出ないようにして下さい。宿泊や飲食などは、会場の中にスペースを用意しておりますので、そちらでたくさんお金を落とし……ゴホン、そちらをご利用下さい!」


 なんだか怪しさ満点の説明だったが、選手をはじめ観客達から特に不満の声は上がらなかった。


「まあ、俺は酒が飲めればなんでもいいや。お祭り万歳、ウェーイ!」

「私は可愛い小猫ちゃんが見られればそれでいいわ。ノーキティーノーライフ、イェーイ!」

「ウェーイ、ウェーイ!」

「イェーイ、イェーイ!」


 現代社会に疲れた人間には、時にはIQをゼロにして楽しむ時間が必要なのである、たぶん。


 会場は、元々ゴミ処理場という名のゴミ投棄場所であった利便性ゼロの郊外の埋め立て地を、大会運営がタダ同然の値段で買い上げたものだった。

 そこに、大会の利益にいっちょ噛みしたいいろいろな企業が形ばかりのなあなあ入札で次々参加し、突貫工事で施設をガンガン建てた。

 一応、大会後の敷地や建物は一般に払い下げられ二次利用が決まっている。

 中に発泡スチロールやらゴミやらが山ほど埋め込まれたずさんな建物が、それまでまともに建っていたらの話ではあるが。

 まあ、とにかくなんか利権が絡んでいる事は間違いなかったが、面倒臭いので誰も追求しなかった。


 そして、ミケは……

 筋肉の事しか考えていなかった。


 ミケは、超レアな三毛猫のオスの子猫である。

 しかし、当ニャンは、自分の毛色など全く気にしておらず、一日二十三時間ぐらい筋トレの事を考えている明るく爽やかなナイスガイだった、まだ子猫だけど。

 ちなみに、残りの一時間は、ご飯の事とか、自分の可愛さの事とか考えていた。

 今回は、大会に参加する事で、世界各国の子猫達の強さ……ではなく、素晴らしい筋肉を間近で見られる事を何より楽しみにしていた。

 まだ見ぬ筋肉達に思いを巡らせると、オスの子猫のくせに授乳出来そうなほど盛り上がった彼の胸筋は、ビクビクと喜びに震えるのだった。

 もちろん、大会で優勝する気も満々であった。


「ムムゥ。大会参加者の名簿に、強そうな名前がたくさん並んでるニャね。これは期待出来そうニャ!」


 ミケは、わら半紙の端をホッチキスで止めた大会公式の一部税別五千円のパンフレットを、ビー玉のような目をキラキラ輝かせて読んでいた。

 なお、ミケはこのパンフレットと大会参加費用三万円ですっかりお財布がスッカラカンになったので、ここまで徒歩で来ていた。

 まあ、元々スクワットとランニングとダッシュを交互に繰り返して来る予定だったので、なんら問題なかった。


「特にこの『ブラックタイガー』って選手が強そうニャ! コイツは要注意だニャ!」


 ただのエビである。

 何かの手違いで大会運営がうっかり登録してしまった、肉厚でプリプリとした触感の美味しいエビである。



 こうして、波乱の予感をドリアンのようにプーンと漂わせながら、第二百二十二回目の『筋肉ムキムキの子猫・世界一決定戦』は幕を開けたのだった。


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