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第4章③

 フレイアはここ数日、意識的に城内を歩くようにしていた。フレイアを狙う犯人をおびき寄せるためであったが、副産物として、いろんな声を拾うことが出来た。


 城内ではノエの人気がとても高い。それは女性人気だけではない。男性からも上に立つ人として信頼されているのだ。どうやらフレイアがあのまま目覚めなければ、ノエを養子に迎え入れて王位を継がせるという案もあったとか、なかったとか。この部分は噂の域を出ないが、あながち間違ってもいないかなとフレイアは思っている。両親ともにノエのことを気に入っており、信頼もしているからだ。


 逆にパトリシオの人気はあまりない。あの容姿に惹かれている人もいるが、ナタリーとの噂を知る者には見るだけで嫌だと言われていた。おまけにノエと比べて何もしていない。つまり我が国のことを考えていないということ。パトリシオが王、もしくは王配になったら、もしかしたらパトリシオの母国を優先する政策を取るのではと不安がる声も聞こえた。要するに城内の人気はノエの圧勝だ。


 圧勝過ぎて、心が痛くなる声すら聞いてしまった。フレイアが目覚めたせいでパトリシオが出現したのだ。フレイアが目覚めなければ、ノエがそのまま国王になれたのに、と。


 こうして色んな思いを抱えつつ準備が進む中、フレイアに毒を盛った犯人が捕まった。雇用歴の浅い、使用人の男だった。



***



 誕生パーティーまであと一週間にせまったある日の午後、心痛な面持ちのサーリャと向かい合っている。改まってサーリャが話があると言ってきたからだった。フレイアの自室で二人きり、ドアの外にはアーロンがいるが、大きな声で話さない限り内容は聞こえないだろう。


「それで、話とはなに?」


 深呼吸しては口を開き掛けて閉じるを繰り返しているサーリャに、フレイアは首を傾げる。サーリャがフレイア相手にここまで言いよどむのは珍しい。いつでも伝えたいことはすぐに伝えてくるというのに。


「あの、その、ええと」


 サーリャの視線がさまよっている。そこまで言いにくいことなのだろうか。


「大丈夫、言ってちょうだい」

「申し訳ございません」


 サーリャは深々と頭を下げた。そのまま動かない。


「いえ、謝らなくても」

「違います」

「もしかして、話が謝罪なの?」


 怖々と聞くと、サーリャはゆっくりと顔を上げた。


「……そうです。毒を盛った犯人が捕まりましたね」


 昨夜、確かに父から犯人が捕まったことを知らされた。


「えぇ、雇い歴の浅いものだったのでしょう? やはり身元をしっかり調べるのは大切ね」


 だからこそ、城内の使用人の数はなかなか増えない。そのなかで慎重に増やした人材が事件を起こしてしまうとあっては、頭が痛い問題だ。


「私なのです、彼を雇うと決めたのは」


 絞り出すような声だった。


「えっ?」

「申し訳ありません。私の不注意です。よく調べもせずに、信頼する方からお願いされたので、雇ってしまいました」


 サーリャは当初は母である王妃の侍女、そこからフレイアの侍女になった。つまり、城内の使用人の中でかなり上の地位にいるし、発言権もある。そのサーリャの決定ならば誰も否とは言わないだろう。


「だとしても、あなたのせいではないわ。犯人の男は脅されて仕方なくやったと言っていた。彼を脅した黒幕がいるのよ」


 捕まった犯人には重い病気の子どもがおり、その薬代を稼ぐために妻と共に懸命に働いていたという。だが、その妻が怪我をして療養を余儀なくされ、彼の稼ぎだけでは薬代が払えなくなってしまった。そこにつけ込まれたのだ。


 まずは報酬を見せて依頼してきたそうだ。だが、それを断ると、刃を突きつけられ『素直に報酬を受け取った方が身のためだ。今お前が死ねば、子どもも確実に死ぬぞ』と脅されたのだという。


 彼を脅した相手の声は男とも声の低い女とも言える中性的なもので、仮面をしていて顔は見えず。服装も長いマントに隠されて見えなかったという。


 つまり、実行犯は捕まえたが、真の黒幕は分からないままなのだ。だから、黒幕に不憫にも目を付けられてしまった実行犯のことで、サーリャが謝る必要はない。


「ですが、忠誠心が高ければ脅しになど屈しなかったはず」


 サーリャは青ざめた顔を手で覆ってしまった。


「ねぇサーリャ、あなたの娘とわたくし、どちらかを殺せと言われたらどうする? 娘を殺すの?」

「そ、それは……」


 青ざめた顔が上がる。その表情は絶望が浮かんでいた。


「ね、困るでしょう? 犯人の男も、きっと死ぬほど困ったと思うわ」


 糾弾すべきは、黒幕だ。

 今にも倒れてしまいそうな顔色のまま、サーリャが口を開いた。


「フレイア様。その、もう一つ、あるのです」


 これ以上なにがあるのだと不安に思いながら先を促すと、サーリャは慎重に話し始めた。


「これは事件とは無関係かもしれません。ですから、これは私の考えすぎかもしれない。でもお伝えしないことで後悔はしたくないので」

「分かったわ。ただの事実として聞く」


 フレイアは小さく頷いた。それに安堵したのか、サーリャは少しだけ表情を柔らかくした。


「私が彼を雇ったのは…………ノエ様から頼まれたからです」


 思わぬ人名に目を見開く。



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