094 決意
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本日、魔王城跡地で行われる攻略戦において、エルナが死ぬ。
これまで得てきた数々の情報から考えて、それはまず間違いないだろう。
しかし同時に、大きな疑問が一つ浮かび上がってくる。
自分自身がSランクの領域に到達した今だからこそ、はっきりと分かる。
エルナの実力はSランクの中でも最上位。それこそ、現存する人族の中で最強と言っても過言ではないだろう。
そんな彼女を果たして、一体誰が殺せるというのか。
(ゲームでも、この事件には軽く触れられただけで、誰がSランク冒険者たちを殺したかまでは語られていなかった。その情報を持っていなかっただけかもしれないが……いずれにせよ、今ある情報から推測するしかない)
幸い、状況から逆算すること自体は可能なはずだ。
なにせ、魔王軍の中でエルナ以上の実力者がいるとすれば、それは三人だけ。
一人は魔王。だが、こちらは復活前であるため論外。
もう一人は四祖の一人、竜王ジークヴァルト。しかし奴もまた、物語開始前の現段階ではまだまともに動ける状態じゃないはず。
だとするなら、残りは一人しかいない。
「――――影王」
俺の口から、その名が零れ落ちる。
影王。魔王が封印されている今、魔王代行を務める実質的な最高指導者。
もし魔王城で待ち構えているのが奴であれば、エルナを含めたSランク冒険者たちが全滅するのも納得できる。
しかし同時に、それがどうあっても変えようのない未来であることを裏付けており――
「どういうことですか、レスト様!?」
「――ッ」
――その時、俺の思考を遮るようにシャロが声を上げた。
考えに没頭するあまり気付けていなかったが、どうやら先ほどから何度か呼びかけられていたらしい。
目の前には、困惑を隠せない様子で俺を見つめるシャロの姿があった。
俺は一度、深く息を吐く。
シャロの前で口走ってしまった以上、今さら隠しようはない。
そしてもう、その必要もなかった。
「実は――」
困惑するシャロに対し、俺は語る。
魔王城跡地で待ち構えているのは、おそらく魔王軍の最高幹部であること。
そして、このままではエルナたちが敗北するであろうことを。
語り終えた俺を、シャロはしばらく無言で見つめていた。
どうしてそんなことが分かるのか。当然、そう問いたいはずだ。
けれど、
「どうしてそのようなことを知って……いいえ、今は問いません。他でもないレスト様の言葉ですから、間違いないのでしょう」
それでも彼女は、俺の言葉だからと信じてくれたようだった。
そのままシャロは、すぐさま解決策を考え始める。
「しかし、それが本当なら一刻の猶予も残されていません。今すぐ隊を編成し助けを送らなければ……」
「……難しいだろうな」
俺は首を振る。
「騎士団を送ったところで戦力差を覆せるわけじゃないし、そもそも魔王城跡地までは距離がありすぎる。今から向かったところで正攻法じゃ間に合わない」
「なら、本当にどうしようもないというのですか……!?」
「……いや、一つだけ、向かうための方法に心当たりがある」
「本当ですか!?」
歓喜するシャロの前で、俺は思い出していた。
魔王城は遥か遠くに存在するが、一つだけ、あの場所へ向かうための手段はある。
しかし同時に、その方法には大きな欠点が存在していた。
「けど、その方法で向かえるとしても、俺一人だけになる」
「っ、そんな……」
打って変わって、絶望的な表情になるシャロ。
それは彼女だけでなく俺も同じだった。
なにせ、
(俺が助けに行ったところで、いったい何になる?)
結局のところ、最大の問題は何一つ解決していないのだから。
これまで俺は、必死に鍛錬とレベルアップを重ねてきた。
その結果、想像を遥かに上回る速度で成長し、Sランクにも到達できた。
魔王軍幹部の中堅クラスが相手なら、対等以上に渡り合える自信もある。
だが、所詮そこ止まりだ。
影王は違う。他の幹部とは次元の違う力を有している、正真正銘の化け物。
俺が向かったところで力になれる保証なんてなくて、無駄死にする可能性の方がはるかに高いだろう。
それに、だ。
そもそもエルナたちが殺されたところで、世界が滅ぶわけじゃない。
それどころか、【魔王の魂片】を持つ俺が無防備にあの場所へ向かうことの方が、よほどリスクは高いだろう。
……そんなことは、分かっている。
だけど。
それでも、俺は――
「――レスト様は、どうなさりたいのですか?」
「……シャロ」
気付けば、シャロが俺の手を握っていた。
震える俺の手を、包み込むように。
だけどよく見れば、シャロの手もまた震えている。
彼女は困惑と動揺を隠し切れないまま、それでもと言葉を続けた。
「本当は悔しいです。私だってエルナ様を助けに行きたい……でも、分かっているんです。私が行ったところで、何の力にもなれないって」
声が、僅かに揺れる。
「だけど……レスト様は違います。エルナ様の助けになれるだけの力がある……それが分かっているからこそ、悩んでいるのではありませんか?」
「…………」
「本当は行ってほしくなんかありません……ですがそれ以上に、レスト様には自分自身に嘘をついてほしくないんです」
シャロは握る手に力を込め、真っ直ぐに俺を見つめる。
「だから聞かせてください――レスト様は、どうなさりたいのですか?」
「……俺、は」
シャロの言葉を受け、俺は改めて考える。
自分にとって、エルナとはどんな存在なのか。
思えば不思議な相手だ。
出会った回数は二桁にも満たず、本当の意味で彼女のことを知ったとは、とてもじゃないが断言できない。
だけど――
『だが――心意気だけは悪くない』
『当然だ。私は君の師匠なのだからな』
『本当に……君が私を超える未来を、楽しみに待っているよ』
俺がレストに転生して、何もかも手探りの状態で歩き続ける中。
エルナは初めて、他でもないただの俺自身を認めてくれた相手。
彼女の言葉を心の支えにすることで、俺はこれまで迷わず歩き続けることができた。
だからきっと――この答えは、初めから決まっていたんだろう。
「どれだけ可能性が低かろうと、絶望的な状況だろうと……俺は絶対に、エルナさんを諦めたくはない」
「っ! レスト様……!」
「そのためにも協力してくれ、シャロ。エルナさんを助けに行くためには、シャロの力も必要だ」
「はい、もちろんです!」
俺の決意に、シャロは力強い笑みを返してくれた。
――――こうして、俺は挑むこととなる。
影王アトロス。
原作においてノワールやアヴァルスを支配し、幾度となく主人公たちの前に立ちはだかった存在。
魔王軍最強とも謳われた、『剣と魔法のシンフォニア』のラスボスに。




