090 深夜の会合②
アヴァルスおよび、途中で合流したガレルを【異空間住居】に入れた後、俺は周囲に気付かれないよう王城へ帰還した。
ちなみにリーベは先ほども打ち合わせた通り、別行動で情報提供に努めてもらっている(もちろん匿名で)。
「……騒がしいな」
予想通りというべきか、襲撃があったばかりの王城内は喧騒に満ちていた。
周囲の声に耳を傾けて情報を整理したところ、王女暗殺未遂があったことで当然パーティーは中止。
ただ、最後に内通者が不審な動きをしたことから他に仲間がいると思われ、まだそちらを警戒する必要がある。
そのため即解散にまでは至らず、参列者組と王族組で待機場所を分けられ、事態が完全に終結するのを待つことに。
今はちょうど、そのために各自が移動している最中とのことだった。
(どうりでこの混雑具合か……)
状況が分かったところで、参列者組に混ざって俺も移動しようとしたその時。
「レスト様! ご無事だったのですね!?」
「……エステルさん」
聞き慣れた声に視線を向けると、そこにはエステルの姿があった。
しかし周囲にシャロの姿はない。様子を窺うに、どうやらエステルは他の騎士団員と一緒に参列者の誘導を務めているようだ。
そんな彼女に対し、俺は不在を誤魔化すべく口を開く。
「申し訳ありません。少し席を外したうちに騒動があったようで……」
「いえ、レスト様に被害がなかったようで何よりです」
ほっと胸を撫で下ろしながらそう言った後、エステルは笑顔で続ける。
「すぐにお嬢様の元へ案内いたしますね。レスト様の不在を気にしていらしたようなので、無事のお姿を見せてあげてください」
「え? 殿下は王族用の待機部屋にいらっしゃると聞いたんですが……」
「はい。ですが、レスト様なら問題ないかと」
「…………」
何故か、とはあえて訊かず、俺はエステルに案内されるまま待機部屋に移動する。
扉を開けて中に入ると護衛の騎士や使用人の他に、シャロとリヒトの姿があった。
「レスト様……」
「レスト!」
二人は驚いた様子で立ち上がり、こちらに向かってくる。
「ご心配をおかけしました。実は……」
俺はエステルの時と同じように事情を説明した後、少し気になったことを尋ねることにした。
「陛下とセレスティア殿下はいらっしゃらないんですね」
その問いに応えてくれたのはシャロではなくリヒトだった。
「ああ。父上は現在進行形で騎士団の指揮を執っている。姉上については騒動で大きく疲弊したため、今は別室で休んでいる」
「殿下の命に別状はないんですね?」
「ああ。大規模な魔力行使の反動で体調を崩しているだけ。少し休めばすぐ良くなるはずだ」
「そうですか。安心しました」
俺は心からそう返す。
ガレルの視界を通じて見れたのは魔物は追い払うまで。その後の彼女がどんな状態だったかまでは分からなかったからだ。
リヒトは続ける。
「だけど、その程度で済んだのはほとんど奇跡だったよ」
「奇跡、ですか?」
「ああ。聞いていないかい? 敵が召喚した魔物が姉上を襲おうとした瞬間、突然どこからともなく別の魔物が――」
バタン!
その時だった。
力強く扉が開かれる音と共に、一人の騎士が入ってくる。
騎士は室内を軽く見渡した後、緊張の面持ちで口を開いた。
「ご報告です! つい先ほど、騎士団に匿名で伝達魔法が届きました。内容は〈『テアートル大森林』にて、王城襲撃を目論んでいる魔族の一団が討伐された。至急確認されたし〉――とのこと。それを受け一部の騎士が確認に向かったところ、実際に魔族や魔物の亡骸が数多く存在していた模様です!」
「「なっ!」」
「っ」
リヒトとエステルは驚きの声を上げ、シャロは無言でこそあるもののその目を大きく見開く。
あまりにも想定外かつ衝撃的な報告だったからこその反応だろう。一応、俺もちょっと驚いた顔をしていく。
そんな中、真っ先に反応したのはリヒトだった。
「他にも敵戦力がいるとは予測されていたが、まさかそれが魔族の軍団で、しかも既に討伐済みだとは……とても信じられないが、事実なんだね。それで、匿名というのはいったい?」
「言葉の通りです。名乗りがなかったのに加え、魔力の痕跡を辿ろうにもなぜかうまくいかず……味方であることは間違いないと思うのですが」
「……それはそうだろうね。でなければ秘密裏に魔族と戦う理由も、こうしてわざわざ伝達魔法を送ってくる理由もない」
口に出して状況を整理するリヒト。
ちなみにその辺りについては既に騎士団内でも話し合いが行われていたらしく、まず敵ではないだろうという結論に至ったようだ。
不可解な点こそ多いものの、何者かが秘密裏に暗躍し、魔族たちの襲撃を未然に防いでくれたのは間違いない。
彼らまで王城にやってきていれば、数人の怪我人どころではすまない被害が出ていただろう――と。
(実際、原作ではそうだったからな……)
そんな感想を抱く俺の前で、リヒトたちはこれからについて話し合っている。
まだ全てが明らかになった訳ではないが、ひとまずの収束が見えてきたというの共通の見解。
最低限の警戒をしつつ、まずは参列者たちを解散させ、その後ここにいる者たちも自室へ戻ることに。
俺たちはしばらくこの部屋で待機することになったが、その後は特に何事も起きるなく、順調に進んでいくのだった――――
◇◆◇
「……本当に、色々あったな」
数十分後。
与えられた客室に戻ってきた俺はひとまず普段通りの服装に着替えた後、おもむろにそう呟いた。
誕生日パーティーから魔族との戦いに至るまで、短い時間位様々なことが立て続けに起きたせいか、まだ緊張が張り詰めている。
(……もしかしたら、それだけじゃないかもしれないけど)
心の中でそんなことを考えていた、その時だった。
シュッ
「……ん?」
突如として、扉をすり抜けるような形で淡い光を纏った紙飛行機が飛んでくる。
その紙飛行機は俺の手元に落ちると同時に光を失った。
「これは……伝達魔法の魔道具か」
伝達魔法の魔道具には二種類存在する。
一つは送信用と受信用の魔道具を用いて音声で双方向的に伝達が可能なもの。
もう一つはこの紙飛行機のように、文章で一方的に伝達が可能なものだ。
俺は紙飛行機を開くと、そのまま内容を一読する。
そして、
「これは……」
俺は手紙を握る手に力を入れると、すぐに部屋を飛び出す。
そして、手紙に書かれていたある場所へと向かい始めた。
そこまでの道はよく知っている。なにせ、ゲームで何度も行った場所だから。
入り組んだ通路を歩くこと数分、俺はその場所――王城のバルコニーに辿り着く。
そしてそこに、彼女――手紙の差出人でもあるシャロがいた。
「レスト様、来てくれたんですね」
パーティー用の正装から普段の服装に着替えているためか、先ほどまでよりも少し気安い雰囲気を纏っている気がした。
そんな彼女に、俺は手紙を見せながら告げる。
「もうここで待ってるって書かれてたから、さすがにな。でもよかったのか? あんな事件があった直後なのに一人で動いて」
「……はい。仰られるように、あまり褒められたことではありません。ですが、どうしても確認したいことがありまして……」
どこか物憂げな様子で語るシャロ。
しかし、彼女はすぐに取り繕うような笑みを浮かべると、俺ではなく外に視線をやった。
「そ、それよりも! この場所でこうして話していると、初めて出会った日のことを思い出しますね。覚えていますか、レスト様?」
「……ああ、もちろん」
少し間を置き、俺は頷く。
シャロが言っているのは、アルビオン家のバルコニーで話した時のことだろう。
当時のことに思いを馳せる俺の前で、シャロは続ける。
「なんだか、随分と昔のことのようです。あの日、私はレスト様にガレウルフからこの身を守っていただきました。そして驚くことに、今日はなんとガレウルフがお姉様を救ってくれたんです……まるで、あの日のレスト様のように」
「………………」
「――――レスト様」
数秒の沈黙の後、シャロは俺の名前を呼びかけながら、深い蒼色の双眸でじっと見つめてくる。
その表情は普段の人懐っこい様子とは真逆の真剣なもので、まるでここからが本題だと言わんばかりであり――
「単刀直入にお尋ねします」
――そんな前置きの後、彼女は告げた。
「レスト様の【テイム】は、魔物も操れるのではありませんか?」
俺――レスト・アルビオンの根幹に関わる、その言葉を。
次回『091 レストとシャロ』
超重要回です。
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