081 第一王女セレスティア
「此度は娘のため、祝賀の場にこうして参列していただけたこと、心より感謝申し上げる――」
誕生日パーティーは、国王ラルクの挨拶から始まった。
セレスティアが18歳を迎え成人になったこと、王立アカデミーを首席で卒業する見込みであること。
その他にも彼女に関する内容を語り終えると、次にセレスティアの番となった。
「ご紹介を賜りました、セレスティア・フォン・フィナーレと申します。皆様、本日は私の祝賀会にお越しいただき、誠にありがとうございます。この度、成人を迎えられましたこと、そして王立アカデミーを無事に卒業できますことも、皆様方の日頃からのご支援の賜物です。この場をお借りして、改めて心よりお礼申し上げます」
ドレスの裾を摘まみながら優雅に一礼すると、会場中に拍手の音が響き渡る。
その後、セレスティアの挨拶が終わったことでパーティーは開始。
各参列者は立食と交流を嗜みつつ、順にセレスティアへと挨拶に向かっていた。
「レスト様、私たちも」
「ええ」
当然、俺やシャロも同じようにセレスティアのもとへ向かう。
するとセレスティアは、すぐ俺たちに気付いた。
「シャロ」
「お久しぶりです、ティアお姉様。この度は無事にお誕生日と成人を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます」
先ほどまで浮かべていた複雑そうな表情は収め、シャロは家族に対する愛情の籠った笑みでそう告げる。
ちなみにティアというのは、セレスティアの愛称だ。
妹からのお祝いの言葉に、セレスティアは優しい笑みを浮かべた。
「ええ。ありがとう、シャロ。貴女からそう言ってもらえると、すごく嬉しいわ」
その後、シャロとセレスティアはさらに幾つか言葉を交わしたあと、俺に視線を向けた。
「ところでシャロ、そちらの方はもしかして……」
「はい、紹介いたします。こちらはアルビオン家のレスト様。私の剣友として、普段から親しくしていただいているお方です!」
「剣と……? ふむ、やはりそうでしたか」
剣友というワードに一瞬止まりつつも、納得した様子のセレスティア。
そんな彼女に向け、俺は改めて自己紹介を行う。
「申し遅れました。シャルロット殿下の紹介にもありましたが、私はアルビオン家四男、レスト・アルビオンです」
「シャロの姉、セレスティア・フォン・フィナーレと申します。……実は、貴方とこうして会えることを楽しみしていました」
「……そうなんですか?」
予想外の言葉に、俺は目を瞬かせる。
「ええ。普段から妹がお世話になっていることは噂で聞いていましたから、どういった方か一度話してみたいと思っていたのです」
笑みを浮かべながらそう告げるセレスティア。
そんな彼女を眺めながら、俺はふと、ゲームにおけるセレスティアの情報を思い出していた。
セレスティア・フォン・フィナーレ。
この国の第一王女であると同時に、『剣と魔法のシンフォニア』にも登場したサブヒロインである。
そんな彼女だが、実は作中で最高クラスの才能を有していた。
彼女の保有スキルは【天衣の神子】。
分類としては最上級スキルであり、シャロの【神聖剣姫】やレインの【剣神】と並ぶ。
シャロの【神聖剣姫】が神聖魔法と剣術を高水準で扱えるようになり、レインの【剣神】が超人的な剣術を扱えるようになるのに対し、セレスティアの【天衣の神子】は絶対的な神聖魔法の才能を与えてくれるスキルだった。
シャロやレインと大きく異なる点は、既にその才能が完成しきっていること。
彼女の実力は凄まじく、こと魔物や魔族を相手にした場合は、神聖魔法の特性からSランク級の実力を発揮していた。
(もしかしたら魔物との戦闘においては、今の俺でも敵わないかもな……)
まさに稀代の天才。
レインと同様、メインキャラではないからこそ許された、最上の才能を与えられた存在――それがセレスティア・フォン・フィナーレというキャラクターだった。
その才能は人々に輝きを与える反面、場合によっては影も落とす。
特に、彼女のすぐ近くにいる者には。
第一王子のリヒトは姉と自分を比較した結果、上級スキルを与えられながらもスランプに陥った。
そして同じ苦悩を抱いたのは、リヒトだけではなく――
「…………」
俺はちらりと、隣にいるシャロに視線を向けた。
(シャロも神聖魔法を使えることには変わりないが……その才能も実力も、現時点じゃ圧倒的な差がある。他にも幾つかの要素があってだけど、彼女もセレスティアには複雑な感情を抱いていると、ゲームでは語られていた)
そんなことを思い出しながらも、さらに幾つか言葉を交わし、いったんその場を離れる。
セレスティアに挨拶したいのは俺たちだけじゃないからな。
「……ん?」
そんなことを考えていると、ふと会場に音楽が流れ始める。
どうやら社交ダンスが始まるようだ。
(そろそろ、時間だな……)
踊り始める参列者たちを見ながら、そんな感想を抱いていると、
「レスト様」
俺の思考を遮るように、シャロが俺の名前を呼ぶ。
見ると、彼女はこちらに片手を伸ばしていた。
「……シャロ?」
小首を傾げると、シャロは少しだけ大人びた笑みを浮かべて口を開いた。
「よろしければ一曲、お付き合いいただけませんか?」
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