080 パーティー当日
後書きに【大切なお願い】があるので、そちらの確認もどうぞよろしくお願いいたします!
第一王女の誕生日パーティー当日。
俺は普段と違い、黒を基調とした正装に身を包んでいた。
正式な祝賀の場ということで、わざわざ俺用の物を用意してもらえたのだ。
ちなみに、数日前に国王ラルクや第一王子のリヒトと再会した際には、彼らから直々にシャロをエスコートするように頼まれていた。
何でも、こういった場で女性が一人でいると声をかけられるため、それを防ぎたいとのこと。
国内の貴族相手なら強気に出ることができるが、今日は特別なパーティーということで他国の王族なども招待しているため、真正面から断るより相手を用意してしまった方がやりやすい――と説明された。
「なら、俺は大丈夫なのかって聞きたいところだけどな……」
そんなことを聞ける立場ではないので、承諾。
こうして当日がやってきたわけだ。
準備を整えた俺は、一人で会場に向かう。
すると、
「お待ちしておりました、レスト様」
入口前の通路には、既にシャロが待っていた(もちろん、隣にはエステルも控えている)。
彼女も普段の服装とは違い、青色を基調とした豪奢なドレスを纏っている。
普段の活発な印象より、王女らしい気品さが強く主張されていた。
と、観察も程々に。
俺は姿勢を整え、シャロに向かって告げる。
「よくお似合いです、シャルロット殿下」
ちなみに人前なので、タメ口ではなく敬語で。
すると彼女はクスリと微笑み、
「ありがとうございます、レスト様。レスト様の方こそ、とても素敵な装いだと思いますよ」
そう返してくれた。
「ところで……」
しかし、笑みを浮かべていたのもそこまで。
シャロはそのまま、困惑した表情で俺の足元に視線を向けた。
「そちらの方は、もしかして先日の?」
「ワンッ!」
そこにいたのは、一匹の犬――を模したガレルだった。
その小さな体は、特殊な布で作られた犬用の服に包まれている。
俺は今日、とある事情があってガレルをこの場に連れてきていた。
そのため、状況を呑み込めず首を傾げるシャロに向かって、事前に用意していた内容を説明する。
「実はあの一件以来、妙に懐かれてしまったようで……ここまで付いてきてしまったんです。なかなか一定距離から離れようとしなくて……」
「そ、そうだったんですね。しかし、いかがいたしましょうか。さすがに会場の中まではお連れできませんが……」
「でしたら通路のスペースを一部お借りできませんか? それならコイツも特に文句はないと思います」
「ワンッ!」
元気よく頷くガレル。
俺の頼みを聞いたシャロとエステルは快く協力してくれ、ガレルは通路で待機することになった。
続々とやってくる参列者たちは、この場に犬がいることに首を傾げながらも、特に気にすることなく会場へ入って行く。
そんな光景を眺めている途中、ふとシャロが切り出す。
「ところでレスト様。レスト様の従者であるラブ様はどちらに?」
「用事があるとのことで、席を外しています」
「今日もですか!? こちらにいらしてから、ほとんど顔を合わせた記憶がないのですが……」
目を見開くシャロ。
まあ、従者が従者としての役割を果たしていないのだから、そんな反応になるのも当然だろう。
とはいえ、魔族のリーベが常に城内にいるというのもリスクだし、俺自身はこの状況に納得していた。
「お嬢様、レスト様、そろそろ」
と、そんなやり取りをしている間にパーティーの開始時刻が迫ってきていたようで、エステルが急かすようにそう告げる。
俺は頷くと、シャロに向かって手を差し出した。
「それでは、シャルロット殿下」
「……ありがとうございます、レスト様。ふふ、何だか少し気恥しいですね」
「意識したら余計に恥ずかしくなりますよ」
普段の関係とは少し異なった状況に、俺たちが抱いた感情は同じだったようだ。
そんなこと考えつつ、俺はシャロの手を引いて会場の中に入った。
すると、
「おおっ、シャルロット様がいらっしゃったぞ」
「隣のエスコートされている人物は誰だ?」
「アルビオン家のレスト様だ。何でも噂によると、【テイム】のスキルを持ちながらBランクの実力を有しているらしい」
「Bっ!? そ、それはさすがに何かの間違いではないか……?」
とまあ、既に聞き慣れた反応が次々と耳に飛び込んでくる。
一気に会場中の注目がこちらに集まる――が、それは一瞬だけのことだった。
カツンカツン
(……来たか)
ヒールが床を叩く音が会場中に響き渡る。
見ると、参列者が入って来た一般入口とは逆にある入口から、二人の人物が会場の中に入って来た。
一人はここフィナーレ王国の国王ラルク。
そしてもう一人。
肩まで伸びる輝くような金色の髪に、知的さを秘めた青色の瞳を持つ美しい少女。
純白のドレスに身を包んだ彼女は、高貴さすら超越し、神聖さを感じさせるような雰囲気を纏っていた。
彼女こそ本日の主役――第一王女、セレスティア・フォン・フィナーレ。
彼女の入場に、会場にいる全員が思わず息を呑む。
「………………」
例外なのは、複雑な表情でセレスティアを見つめているシャロと、その隣に立つ俺だけ。
(――さあ、始まるぞ)
こうして、長い長い、運命の一日が幕を開けた。
◇◆◇
王城にて、セレスティア・フォン・フィナーレの誕生日パーティーが始まろうとしている一方。
王都の城壁を超え、北方に広がる『テアートル大森林』は異様な雰囲気に包まれていた。
辺り一帯には騎士団が出動しなければならないほど強力な魔物の死体が立ち並び、血の匂いが散漫している。
そしてその中心には、人の姿をしていながら、信じられないほど濃密な魔力を有する存在――すなわち魔族が、数十人も集まっていた。
「総員、準備はできているか」
戦闘に立つ黒髪の大男――リーダーを務める魔族のドゥラーク、通称『魔王軍幹部に最も近い男』が集まった者たちに指示を出す。
「今日の任務のため、よくぞこれだけの人数が集まってくれた。魔王様復活を目前に控えた今、この任務は何としてでも達成する必要がある。しかし心配はいらん、これだけの実力者が集まれば王都の攻略など容易。さらに嬉しい誤算として、非常に強力な戦力を得ることができた」
その発言に、集団の中にいるフードを被った女性が小さく笑う。
「この任務を達成した暁には、我に魔王軍幹部の座が約束されている。さらなる力と権威を得て、魔王様のために全てを費やすのだ!」
ドゥラークの言葉を聞き、魔族たちは一気に歓声を上げる。
誰もが自らの役目を理解し、そこに殉ずるための表情を浮かべていた。
そんな部下たちを見渡したドゥラークは満足げに頷いた後、続ける。
「では最後に、確認として今回の作戦内容を伝える」
前置きの後、ドゥラークは王都が存在する方向へ視線を向け――告げた。
「魔族にとって天敵である神聖魔法に目覚めた二名――第一王女セレスティア・フォン・フィナーレおよび、第二王女シャルロット・フォン・フィナーレの暗殺である」
そして、絶望がやってくる。
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