079 迷子捜索
迷子と思わしき女の子のもとに向かう俺たち。
するとシャロは、視線を合わせるように膝をついた。
「こんにちは、お嬢さん。こんなところにお一人だなんて、どうされたのですか?」
「ぐすっ……きづいたら、お父さんとお母さんがいなくて……」
「……そうでしたか。でしたら、私たちと一緒にご両親を探しましょう」
「……お姉さんたちも、いっしょにいてくれるの?」
「はい、もちろんです」
シャロの柔らかい笑みを前にし、女の子はホッとしたように泣き止む。
王女という高貴な立場でありながら民に気を遣うその姿勢は、シャルロットというキャラクターを如実に現した光景のように思えた。
その後、俺やシャロ、エステルはどうやって保護者を探すべきか相談することに。
まず口を開いたのはエステルだった。
「しかし、どのようにして探しましょうか。この人混みですと、手当たり次第探すのは難しいと思われますが……」
「迷子を預けられるとしたら、どこになるでしょう?」
「一応、衛兵用の詰め所がございますが、ここからは距離が離れておりまして……」
この人混みの中で子供を連れて向かうとすれば、30分はかかるとのこと。
両親とすれ違いになる可能性もあるし、何か他にいい案がないか考えることに。
「……ぐすっ」
そんなシャロとエステルのやり取りを見ていた女の子は、また不安が湧いてきた様子だった。
……ふぅ、仕方ないか。
「少しだけ待っててくれ」
「えっ、レスト様!?」
俺はシャロに断りを入れた後、一時的に路地裏へ移動する。
そして周囲に誰もいなくなったタイミングで、小さく呟いた。
「……来い、ガレル」
約一分後。
準備を終えた俺は路地裏を出て、シャロたちの元に戻った。
「悪い、待たせた」
「それは構いませんが、突然どうなされたのです……か……」
途中でシャロの言葉が途切れる。
俺の腕の中にいるそれに意識を奪われたからだろう。
「あの、レスト様、腕の中に抱えていらっしゃるそちらは……?」
「ワンッ!」
「そこでテイムしてきたんだ。人を探すなら、嗅覚のいい犬に頼るのが一番だと思って」
そこには、灰色の毛並みをした小さな犬が収まっていた。
――言うまでもないが、コイツは当然ただの犬ではなく、【縮小化】と【擬態化】を発動したガレルである。
路地裏で異空間からガレルを呼び出した後、調整を行い戻ってきたのだ。
話を聞いたシャロは、納得したように頷く。
「なるほど、さすがはレスト様です! それに大変、可愛らし……かわ……」
「…………」
始めは笑みを浮かべていたシャロの表情が、どんどんと神妙なものに変わっていく。
「な、何でしょうか、この不思議な感覚は。そちらの方を見ていると、妙な胸騒ぎがするといいますか……お犬さんは苦手ではなかったはずなのですが……」
そうなってしまう理由を俺は察していた。
ガレルはもともと、シャロを襲っているところを代わりに俺が倒し、テイムした魔物だ。
サイズや見た目がある程度変わっているとはいえ、シャロの中では何か引っかかったところがある様子だった。
正体に気付かれる前に話題をかえるとしよう。
「き、気のせいじゃないか? それより早く、両親を探さないと」
「そ、それもそうでしたね」
何とか誤魔化すことに成功し、捜索を始めることになった。
その後、女の子はガレルとじゃれ合うことで緊張からほぐれたように笑みを浮かべていた。
ご両親から持たされていたというハンカチについた匂いを辿り、先導するガレルについていくこと数分――
「っ! お父さん! お母さん!」
「メリー!」
「ああ、無事でよかった……!」
女の子のご両親をすぐに見つけ出すことができた。
二人は娘との再会をしばらく喜んだ後、俺たちに気付き姿勢を整える。
「貴方たちが娘を届けてくれたんですね。本当にありがとうございます、何とお礼を言っていいもの、か……」
シャロに視線をやった瞬間、父親の言葉が止まる。
「……も、もしかして、シャルロット様ではありませんか……?」
「はい。シャルロット・フォン・フィナーレと申します」
「っ! 王女様にお手数をおかけするとは、なんて失礼を……」
「お気になさらないでください。この国を支える立場の者として、当然のことをしたまでです……それに」
そこでシャロが俺の腕を掴む。
「こうしてすぐに探し出せたのは、レスト様の【テイム】あってこそですから」
「そうでしたか……本当に、本当に、ありがとうございました!」
頭を下げる父親と母親。
最後に女の子も、名残惜しそうにガレルから離れた後、俺たちに向かって満面の笑みを浮かべる。
「お兄さん、お姉さん、大きいお姉さん、ありがとう!」
そう言い残し、三人は去っていった。
感謝の言葉を告げられた俺たちは、顔を合わせて笑い合う。
人助けができたことによる充実感があった。
「それでは今度こそ用事も終わりましたし、お城に戻りましょうか」
「ああ」
こうして俺たちの王都探索は終わり、帰路につくのだった。
「お、大きいお姉さん……お嬢様と比べてそう申されただけですよね? 決して私が年増だったり、デカ女だというわけでは……」
……後ろではエステルが変なショックを受けていたが……それはまあ、俺もシャロも、特に気にしないことにしておいた。
◇◆◇
そして数日後。
とうとう、第一王女の誕生日パーティー当日がやってきた。
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