078 王都散策
「レスト様! 城下町を散策してみませんか?」
フィナーレ王国の王都『ルミナリア』に到着してから早数日。
基本的にはシャロとの訓練や『深夜トレ』を中心に日々を過ごす中、突如としてシャロがそう切り出してきた。
突然の提案に、俺は確認するように問い返す。
「城下町の散策か……唐突だな」
「実はその……レスト様がいらっしゃってから鍛錬ばかりで、私としてはそれだけでも十分に充実しているのですが、改めて考えるとせっかく王都に足を運んでいただいたのに、おもてなしが足りていないと思いまして」
「……ふむ」
ことの経緯を聞いた俺は納得して頷く。
実を言うと、俺もここ数日、王都内を散策してみたいとは考えていた。
なにせ、ここは『剣と魔法のシンフォニア』の舞台であり、俺にとっては文字通りの聖地。
シャロがこうして提案してくれるのなら、断る必要はない。
「分かった。それじゃ行くか」
「はい!」
そう答えると、シャロは満面の笑みで頷くのだった。
数十分後、準備を整えた俺とシャロ、そしていつものように護衛メイドのエステルと三人で王都に出ていた。
このメンバーで街中を歩くとなると、アルビオン領で起きた魔物の襲撃事件を思い出す。
そのため、俺は確かめるように軽く切り出した。
「この三人だけで大丈夫なのか? 前回みたいなことを警戒するなら、エステル以外にも護衛がいた方がいいと思うけど……」
「問題ありません。王都には普段からよく出かけていて勝手は知っていますし、何よりレスト様がいらっしゃいますから」
「……俺が?」
その呟きに反応したのは、シャロではなくエステルだった。
「一つ申し上げておきますと、リヒト殿下に勝利されたレスト様以上の実力者は王国騎士団にそうおりません。ですのでレスト様がご同行される時点で、十分以上の戦力になっているかと」
「……なるほど」
確かにエステルの言う通りかもしれない。
それにそもそも、前回の主犯であったリーベは俺の配下になったわけなので、同じことはそう何度も起こらないだろう。
ちなみにそのリーベはというと、用事があるとのことで今日は席を外している。
今日というか、王都に来てからはほとんど毎日だが……
まあ、その辺りはいい。
「それじゃ、案内を頼む」
「はい!」
そんな風にして、俺たちはしばらく王都の城下町の散策した。
ゲームの舞台なだけあって、王都には興味深いものがたくさんあった。
アイテム類が購入できるお店や、ゲームでヒロインと主人公が一緒に食事をしていた飲食店など。
ゲームキャラクターが使う武器を作成してくれる鍛冶屋に立ち寄ったりもしたのだが、そちらについては店主が不在とのことで、残念ながら中には入れなかった。
何はともあれ、シャロの案内もあり散策は楽しく進んでいく。
そんな中、最後の目的地は王都の東端にある学園地区――つまり、王立アカデミーが見渡せる高台だった。
「あそこが、王立アカデミーか……」
ゲームで主人公たちが日々を過ごし、そして半年と少し先には俺が通うことになる場所。
あそこを見ると、高揚感と不安が入り混じったような不思議な感覚が湧き上がってくる。
「一年後には、私とレスト様はあそこにいるんですね……」
すると、隣にいるシャロも感慨深そうにそう呟く。
とはいえ、ただ純粋に未来へ思いを馳せているであろうシャロと俺では、同じアカデミー生活についてとはいえ、考えている内容が大きく異なるはずだ。
俺にとってのアカデミー生活とは、つまり『剣と魔法のシンフォニア』の始まり。
主人公たちとの出会いは死亡フラグに繋がりかねないし、俺のうちに秘められた【魔王の魂片】を狙い、魔族たちが命を奪いにくるだろう。
原作でレストを殺したリーベは配下にしたとはいえ、アイツなんてまだ序の口も序の口。
魔王軍内には、Sランクに到達した今の俺でも全く敵わないような化け物も存在する。
ソイツらにさえ打ち勝つため、俺にできることはたった一つ。
「一刻も早く、強くならないとな……」
テイムを駆使し、世界最強を目指す。
結局のところ、レストに転生した当初に抱いた目標と同じだ。
これまでと変わらず鍛錬を重ね、そして次のテイムができるように魔物を倒して経験値を得ていく必要がある。
と、改めてそんな決意を固めていると――
「………………」
「シャロ?」
ふと、隣にいるシャロが、少しだけ神妙そうな面持ちで俺を見つめているのが分かった。
何かあったのかと不安に思いそう尋ねるも、彼女はすぐに首を左右に振る。
「い、いえ、何でもありません。それよりも、王都はいかがでしたか?」
続けてそう尋ねてくる。
何か誤魔化されたような気がしないでもないが……これ以上ツッコんで訊くのも変か。
そう思い、俺はシンプルに質問へと答えることにした。
「ああ、楽しめたよ。王都なだけあって広くて立派だし、王立アカデミーを見たり、興味のあった店なんかも幾つか回れたから」
「興味のあったお店、ですか?」
少し不思議そうに小首を傾げるシャロ。
どうやら、普段から王都に来るわけでもない俺が、その辺りの情報に詳しいのを不思議に思ったようだ。
ふむ、ここは……
「それはほら、アルビオン家での修行中に、エルナさんから話を聞いていて……」
「なるほど。どうりで鍛冶屋や道具屋など、冒険者の方が利用されるお店に興味を持たれていたのですね」
「そんな感じだ」
正確には、ゲームで主人公たちが利用していたからなんだけど……
そこまで説明するわけにはいかなかったので、ここでもとりあえずエルナを引き合いに出して誤魔化しておいた。
後でこのことがバレたら怒られそうだけど。
とまあそんなやりとりもしつつ、少し日も下がってきたということで、俺たちは王都に戻ることになった。
「それでは、そろそろ戻りましょうか」
「ああ」
「先導いたします」
前を歩くエステルの後を追い、俺たちは帰路につく。
それが聞こえたのは、街中を歩いている最中のことだった。
「うわぁ~ん」
どこからともなく、子供と思わしき泣き声が響き渡った。
見ると、街道の隅に一人ぼっちで泣きじゃくる、5歳ほどの女の子がいる。
迷子か何かだろうか。
「レスト様」
「ああ」
俺とシャロは顔を合わせて頷き合うと、その女の子のもとに向かうのだった。
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