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074 主人公の友人ポジ

 リヒトからの突然すぎる申し出に戸惑いつつも、思考する時間を稼ぐように俺は口を開く。


「手合わせ……ですか?」


「ああ。もちろん、君さえよければだが……」


 そうは言われても、第一王子からの打診となればほとんど強制に近い。

 リヒト本人にその意思がなかったとしても、周囲に騎士ギャラリーがいる以上、俺に拒否する権利はないも同然だった。


(さて、どうするか……)


 俺がシャロの招待を受けて王都までやってきたのは、物語に登場するキャラクターと交流するためなどではなく、ある目的を果たすため。

 そのためにも今、下手に目立つのは避けたいところなんだが……


 っ、そうだ。


「……? レスト様?」


 いい解決策を閃いた俺は、隣にいるシャロに視線を向ける。

 この申し出を断れるとすれば、俺ではなく彼女だけ。

 元から修行するという約束をしていたため、理屈としても筋は通っている。


「(シャロ、頼む)」


「(…………!)」


 シャロに目配せすると、彼女は状況を把握したように頷く。

 やはり、こういった時には頼りになる相手――


「大丈夫ですよ、レスト様。私との特訓は後で構いません! お兄様との立ち合い、見学させていただきます!」


 ――全然違った。



 ◇◆◇ 



 数分後。

 騎士団の練兵場にて、俺とリヒトは向かい合っていた。

 俺は右手に木剣を、リヒトについては両手にそれぞれ木剣を握りしめている。

 そして、周囲にはシャロやエステルの他、大勢の騎士ギャラリーが集まっていた。


 突然の事態に戸惑っているのは彼らも同じようで、俺たちを見ながらボソボソと話し合っている。



「リヒト様が立ち合いをされると聞いて来たんだが……相手は誰だ?」


「アルビオン侯爵家のレスト様だ。何でもシャルロット様と同い年でありながら、ガレウルフを単独討伐できるだけの力があるらしい」


「その年でCランク魔物を単独討伐!? それはとんでもないな……アルビオン家でその実力ということは、もしや【剣聖】のスキルを?」


「いや、俺は風の噂で【テイム】を授かったって聞いたけど……」


「テイム!? 非戦闘用スキルで、どうやってCランクを倒したって言うんだよ!」


「そんなこと俺が知るか! どの道、この立ち合いを見ればはっきりするだろ」



 このように、俺の素性を確かめる内容や、実力を疑う声が多い。

 すると、目の前に立つリヒトが申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「すまない。彼らに悪気はないんだ、どうか聞き流してもらえると助かる」


「慣れているので平気です。それより、リヒト殿下は私を疑っていないのですか?」


「……シャロにあれだけ力説されたら、疑う気にはならないさ」


 なぜか遠い目をして呟くリヒト。

 おいシャロ、お前いったいどんな話をしたんだ。

 そうツッコミたくなるが、残念ながらそれが許してもらえるような状況ではない。


 後でしっかりと問いただそうと考えていると、リヒトが続けて口を開く。


「しかし――いや、だからこそと言うべきだろうか。妹の信頼を勝ち取った君の実力を自分自身で見てみたいと思ったんだ。本気でかかってきてくれ、レスト」


「――――――」


 真っ直ぐな視線に、力強い声。

 嘘偽りない発言であることが分かる。

 しかしそれは俺にとって、少し驚くような出来事だった。


(さっきから少し思ってたが、ゲームの()()()()()とはかなり感じが違うな……)


 ここで少し、『剣と魔法のシンフォニア』に登場した、リヒト・フォン・フィナーレというキャラクターについて整理することにする。



 リヒト・フォン・フィナーレ。

 ゲームでは主人公の友人ポジションとして活躍し、パーティーにも入れることができた。

 しかし、彼は決して初めから主人公に対して友好的だったわけではない。

 登場直後――通称『初期リヒト』は、もう少し陰のある人物だった。


 そうなった経緯には、彼の持つスキルが関係している。

 リヒトの保有スキルは【剣舞双聖けんぶそうせい】。

 分類としては上級スキルで、一言で表すなら【剣聖けんせい】の双剣バージョン。

 言うまでもなく優秀なスキルであり、獲得するだけで騎士や冒険者として将来の成功が約束されるようなものなのだが……リヒトの場合、少し事情が違った。

 彼にとって、【剣舞双聖けんぶそうせい】は決して理想的なスキルではなかったのだ。


 というのも、だ。

 まず、戦闘用スキルは大きく四つの分類に分けられている。


 下級スキル(例:剣士)。

 中級スキル(例:大剣使い、双剣使い)。

 上級スキル(例:剣聖、剣舞双聖)。


 ほとんどがその三つに分類され、極稀に突き抜けた最上級スキル(例:剣神けんしん神聖剣姫しんせいけんき)が出現する。

 最上級スキルには共通して神の名が冠され、女神の力をそのまま宿すほどの力だとされているのだ。

 しかしリヒトは第一王女や第二王女シャルロットと違い、最上級スキルを与えられなかった。

 それが彼の劣等感を生み出す一つ目の火種となる。


 それだけならまだ耐えられたかもしれないが、リヒトが劣等感を抱くようになったもう一つの火種として、()()()()が関係していた。

 魔王の復活が近くに迫っていると言われている中、魔物や魔族の弱点となる神聖魔法の使い手は、それだけで貴重。

 いや、貴重どころか、そのスキルを与えられることこそ、魔王討伐を担う者としての責務と言えるだろう。


 その点、世界最高峰の神聖魔法の使い手として名高い第一王女や、剣と神聖魔法を高水準で扱えるシャルロットは、王家の立場も合わさり英雄の資格を有していることになる。

 対し、最上級スキルも神聖魔法も持ちえなかった自分など、初めから役に立たない落ちこぼれだと思い込み、リヒトは長いスランプに陥った。


 しかしアカデミーの二年から三年への進級直後、ある一人の新入生――『剣と魔法のシンフォニア』における主人公との交流戦にてその流れは変わる。

 スランプに陥っているとはいえ、【剣舞双聖】を有するリヒトはその時点でCランク上位の力を有しており、ゲーム開始当初の主人公よりは遥かに格上だった。

 勝ち目のない上級生との勝負。にもかかわらず主人公は、諦めることなく何度も立ち上がりリヒトに食い下がると、最後に一撃を浴びせてみせた。


 決闘こそリヒトの勝利に終わったが、そんな主人公の姿を見てリヒトは自分の甘さを自覚し、スランプから抜け出すこととなった。

 その後、リヒトは真っ直ぐで凛々しい性格に戻ると、主人公の友人兼ライバルとして励み、最後にはスキルと一部属性の魔法を組み合わせた()()()()()()()()()を築き上げる。

 その結果、最終的には主人公やヒロインたちにも引けを取らない強力なキャラとなるわけだが……



(……やっぱり、初期リヒトの印象とは少し違うよな。それとももしかして、まだスランプになっていないだけなのか?)


 ゲーム本編が開始するまで、まだ半年以上ある。

 それだけあれば、性格の一つや二つ変わるだろう。


(って、それよりも今はこの立ち合いについてだ。俺が本気を出して目立つわけにもいかないし、適度にやり過ごしたいところなんだが……)

 

 現在、俺はアヴァルスのテイムによってSランクに足を踏み入れた。

 だが当然、その実力を曝け出すつもりはない。

 以前にもとある魔族(リーベ)が罠を仕掛けてきたことから分かるよう、非戦闘用スキルしか持たない俺が戦いで目立つというのは、そのまま不審な目を向けられるきっかけになるからだ。


 そして、それは魔族だけでなく人族からも同じことが言える。

 なぜ【テイム】しか持たない俺がそれだけの力を持っているのか追及されることになるだろう。

 しかしそこで、素直に【魔王まおう魂片こんぺん】があるからと答えるわけにもいかない。

 【魔王の魂片】によって魔王の力が増すという確かな事実がある以上、俺の意志に関係なく敵性分子として扱われる可能性があるからだ。


 この事実だけは誰にも……シャロであっても明かすことはできない。


(とはいえ、俺がガレウルフを討伐したことが広まっている今、ただ何もできずやられる方がおかしいだろうし……しばらく剣を打ち合った後、タイミングを見て降参するのが一番カドが立たないか)


 ゲームの設定から逆算し、現在のリヒトの実力は最高でもCランク上位。

 Cランク下位~中位とされるガレウルフを討伐してから数ヵ月たった今、俺がリヒトとしばらく打ち合えるくらいなら不自然じゃないはずだ。


(よし、決まりだな)


 他に問題があるとすれば、Cランクの水準で戦うのが久々過ぎて、その感覚を忘れていることだが……

 ひとまずしばらくは、向こうの動きに合わせて出力を調整するとしよう。



「けど、本当に戦いになるのか? 仮にレスト様がガレウルフを倒したって話が本当だったとしても、リヒト様はつい先日の任務でBラン――」



「……ふぅ」


 深く息を吐き、集中状態に入る。

 リヒトだけに意識を向けたことにより、観客ギャラリーの声は削ぎ落されていった。

 そして、



「「よろしくお願いします」」



 とうとう、俺とリヒトの立ち合いが開始するのだった。

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>リヒト様はつい先日の任務でBラン――」 >リヒトだけに意識を向けたことにより、観客ギャラリーの声は削ぎ落されていった。 オワタ\(^o^)/
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