067 踏み入れた領域
Aランク上位指定のネームドモンスター:破壊の亡将。
ソイツと今、ガレルはたった一人で戦っていた。
「くそっ、何でガレルがルインブリンガーと……!」
状況は不明だが、こうしていられる余裕はない。
経路を辿れば、ガレルたちがどこにいるのかはすぐに分かった。
「行くぞ、アヴァルス!」
『ゥゥゥゥゥ!』
俺とアヴァルスは【永劫の千魂墓所】を抜け出し、ガレルの元に向かう。
ほんの一分足らずで目的地にたどり着くことができた。
『ヴォォォォォオオオオオオオオ!』
「ガルゥゥ!」
現地では、ルインブリンガーとガレルによる激しい戦闘が行われていた。
優勢なのはルインブリンガー。
俺やアヴァルスはもちろん、ガレルの体長をも超えんばかりの大剣を連続で振るっていく。
ガレルは素早い動きで攻撃を回避しながら、時折、風魔法を放つことによってなんとか均衡を保っていた。
とはいえ、その対応策も完璧ではないようだ。
大剣による直撃だけはなんとか避けているものの、風圧によって背中から地面に叩きつけられ、時には飛散した石の塊をその身に受けていた。
致命傷という程ではないが、ダメージは甚大。
するとその直後、再び大剣による風圧によって、ガレルの巨躯が勢いよく吹き飛ばされた。
「ガレル!」
俺は背後に回り込み、力尽くでガレルを受け止めてみせた。
一時的にだがルインブリンガーと距離が開いたので、この時間を使って状況の整理に努める。
「ガレル、どうしてお前がルインブリンガーと戦うようなことに……」
「……ルゥ」
弱弱しい声を漏らしながら、ガレルは俺――ではなく、その後ろからこちらにやってくるアヴァルスを見て小さく笑う。
それを見た俺は、どうしてこんな状況になっているのかを理解した。
「ガレル……もしかしてお前、俺とアヴァルスの決闘を邪魔させないよう、コイツを足止めしてくれていたのか……?」
恐らく俺とアヴァルスの戦闘中、それに気付いたルインブリンガーが【永劫の千魂墓所】に近づいてきたのだろう。
だが、俺がアヴァルスをテイムするためには1対1の決闘に勝利する必要があり、ガレルはその邪魔をさせるべきではないと考えた。
だからこそ、経路を通じて俺に助けを呼ぶこともせず、一人で足止めを買ってくれたのだろう。
「……まったく、無理しやがって。だけどありがとうガレル、お前の気持ちは伝わったよ」
「バウッ!」
感謝を伝えながら、ガレルの頭を撫でる。
すると、
『ヴァァァアアアアア!』
けたたましい咆哮。
ドシン、ドシンと音を鳴らしながら、ルインブリンガーがこちらに近づいてくる。
そんなヤツを見上げながら、俺は思わず顔をしかめた。
(さて――問題は、ここからどうするかだ)
ルインブリンガーはAランク上位指定の強力な魔物。
基礎ステータスは文句なしの高水準。
デストラクション・ゴーレムほどの頑丈さはないが、代わりに保有している技能【魂喰い】が非常に厄介である。
HPが減ると周囲のアンデッドモンスターを喰らい回復する他、一時的にステータスまでもがアップするのだ。
討伐するとなれば長期戦は必須で、こちらのHPやMPを大きく消耗する。
ゲームで回避用のギミックボスとして扱われていた訳だ。
とはいえ、所詮はAランク上位指定。
万全の状態なら、今の俺たちでも倒すのも十分に可能だ。
そう、万全の状態なら――
俺はガレルとアヴァルス、そして自分自身を見て苦笑いを浮かべた。
(強がりでも、とても万全とは言えないな……)
ガレルは見ての通り満身創痍。
アヴァルスは魔力切れで、剣や鎧もまだ回復していない。
そして最後に俺も、テイム時に得たほんのわずかな魔力しか残っておらず、現状では真正面から相手にするのは厳しい。
となると、最善策は逃走に思えるが……
(デストラクション・ゴーレムと違って、コイツにはスピードもある。今の俺たちの状態じゃ、逃げ切ることはまず不可能だ)
一応、ガレルとアヴァルスを異空間住居に入れた後、俺一人で逃げるという手段もあるが……それでも結局は同じ。
この残魔力量では途中で身体強化が切れ、追いつかれてしまうだろう。
となるともう、残された選択肢は一つしかない。
堂々巡りにはなるが、俺たちは今ここでコイツを倒すしかないのだ。
……そう。誰一人として万全の力を振るえないこの状態で。
「――覚悟を決めろ」
深く息を吐いた後、俺はガレルとアヴァルスに視線を向ける。
俺の意志が伝わったのか、二人もコクリと頷いてくれた。
「ガレルは隙を作るべく遠距離から陽動を。アヴァルスはこの剣を使って、ルインブリンガーに接近戦を仕掛けてくれ」
「バウッ!」『ゥゥゥゥゥ』
俺は鉄槌剣をアヴァルスに渡し、自分は木剣を握りしめる。
ちなみにより頑丈な鉄槌剣を渡した理由は単純で、アヴァルスが木剣を使うと一瞬で折ってしまいそうだからだ。
『ルァァァァァアアアアアアアア!!!』
さて、そうこうしているうちにルインブリンガーがすぐ手前までやってきている。
俺は素早く残りの準備を終えることにした。
この魔物相手に長期戦は不利。短期決戦で仕留め切るしかない。
【魔填】、【浮遊】、【纏装・風断】。
持ちうる技能を出し惜しみせず発動していく。
そして最後。普段なら身体強化を使うところだが――代わりにコレを使用する。
「【蒼脈律動】」
アヴァルスをテイムしたことで得た新技能【蒼脈律動】。
これで身体能力が100%上昇する。
さらに、
「【蒼脈律動・轟】!」
【蒼脈律動・轟】を発動し、150%上昇に変更。
恐ろしい勢いで魔力が減少していくが、そこは受け入れるしかない。
今の状態で戦えるのは、せいぜい15秒程度だろう。
(いけるか……? いや、やるしかない!)
全力で斬りかかれば、二桁の斬撃を叩き込めるはず。
相手が【魂食い】を発動する前に戦い自体を終わらせるのだ。
それ以外に、俺たちが生きて帰還する手段はない!
グッ、と力強く地面を蹴りながら。
俺は、眼前に君臨する黒の亡将に対し威風堂々と宣言する。
「いくぞ! ルインブリ――――」
――――――刹那、世界から音が消えた。
「――――え?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
集中のあまり聴覚をそぎ落としたのか、それとも気付かぬ間に敵の攻撃が俺に命中してしまったのか。
困惑の中、俺は眼下にそれを見た。
視界に映るは、10メートルに達しようとする亡将の頭頂部。
そう。俺はいつの間にかルインブリンガーの上空にいた。
ルインブリンガーの巨躯を両断する巨大な剣閃の痕がその場には残っており、遅れてキィィィィン! という甲高い斬撃音が響く。
そして、
『ァ、ァァァァァ』
断末魔の声を上げながら、左右に分かれたルインブリンガーの胴体がゆっくりと崩れ落ちていった。
瞬間、俺の体は浮遊感とはまたことなる不思議な感覚に包まれる。
レベルアップ特有の感覚だ。そしてそれは今、俺が大量の経験値を獲得した証明でもあり――
つまるところ、俺はたった一振りでルインブリンガーを討伐したのだ。
「…………マジで?」
頭では理解できていても、感情が追い付かない。
ルインブリンガーとの戦闘を選んだのは苦肉の策であり、勝てない可能性も十分に覚悟していた。
しかし実際の結果は圧勝も圧勝。
戦ったという記憶が残らないほどの瞬殺劇だった。
決してルインブリンガーが弱かったわけではない。
俺がアヴァルスをテイムしたことで上昇したステータスと、【蒼脈律動・轟】による強化があまりにも強力過ぎたのだ。
音が遅れて聞こえる――すなわち、音速を超えた動きが可能となるほどに。
「おっと」
そうこうしているうちに地面が迫っていたので、スッと華麗に着地する。
それから数秒後、体中を包み込む全能感が途絶えた。
魔力が尽き、【蒼脈律動・轟】が切れたのだろう。
戦闘開始から、既に15秒以上経過していることになるが……
「……結局、1秒もいらなかったな」
そう呟いた直後だった。
「バウッ!」
『ゥゥゥゥ!』
立ち尽くす俺の元に、ガレルとアヴァルスが駆け寄ってくる。
ガレルは勝利に喜び、アヴァルスは自分の役目を奪いやがってと、どこか不満げな様子だった。
……相変わらずの戦闘狂だ。
そんな二人に対応しながらも、俺の脳裏は別のことで埋め尽くされたいた。
Aランク上位指定のルインブリンガーを瞬殺することのできた俺は、もはやその枠には収まらない。
Sランクの実力を名乗っても申し分ないはずだ。
Sランク。
それはずばり怪物たちの領域。
【蒼脈律動・轟】発動中という条件付きとはいえ、俺は確かにその領域に足を踏み入れた。
けれど決してここがゴールではない。
あくまで入口。俺の目標はここから遥か先に存在する。
「さあ――このまま駆け上がっていくぞ」
というわけで、とうとうレストの単体戦闘力がSランク到達です。
アヴァルス戦をガッツリやったので、ルインブリンガー戦はより爽快感のある、かっこいい瞬殺劇をイメージしました。
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