040 今後の目的
朝陽が差し込む中、俺とリーベは屋敷を後にした。
ガドには例によって『アルストの森』の調査に向かうと告げたが、実際の目的地は別のところだ。
屋敷から十分に距離を取った頃、リーベが疑問を口にした。
「それで、どうして冒険者ギルドなの? 今さらお小遣い稼ぎでもするつもり?」
その問いに、俺は小さく笑みを浮かべながら答える。
「どっちかと言うと、金よりは身分証明書目的だな。実は近いうちに……早ければ今日にでも町の外に出ようと考えているんだ。ダンジョンへ挑戦するために」
――ダンジョン。
それは、様々なギミックやモンスターが出現する隔離空間。
『剣と魔法のシンフォニア』において、ダンジョン攻略は重要な要素だった。
そこで手に入る優秀なアイテムたちは、主人公たちの成長に欠かせない物だったのだ。
「森の魔物を倒して得られる経験値には限界がある。それならいっそのこと、アイテム面からの強化を図った方が効率的だと思ってな」
俺の説明に、リーベは首を傾げる。
「なるほどね……けれど、優秀なアイテムが落ちるダンジョンなんて、見つけるだけでも大変じゃないかしら?」
「大丈夫だ、そこについては考えがある」
リーベの問いに対し、俺は自信を持って断言した。
そう。
何せ俺には、前世のゲーム知識がある。
この世界では未踏破のダンジョンであろうと、内部のギミックや登場するモンスターについてまで全て把握しているのだ。
その知識を駆使することで、効率的にダンジョンを攻略できるはず。
(今までは限られた場所でしか前世の知識を活用できなかったが……行動範囲が広まれば、もっと色んな場面で役立てるはずだ)
期待感とともに頷いていると、リーベが続けて口にする。
「ふぅん。とりあえずダンジョンに行きたいのは分かったけれど、それが身分証明書と関係あるの? アナタは仮にもアルビオン家の人間なのだから、家名を出せば関所なんて通り放題でしょう?」
「そこが問題なんだ。レストのまま動けば、すぐにガドまで情報が伝わる」
「あっ……」
得心がいったように口を開くリーベ。
俺の意図がようやく理解できたのだろう。
リーベが言った通り、確かに俺なら行動を制限されることはないだろう。
だが、それがガドにバレた時は話が別だ。
『アルストの森』調査の任務を無視して何をしているのかと横やりが入る可能性がある。
この問題は、転生した当初から悩みの種だった。
そして、色々と考えた末に閃いた解決策が冒険者ギルドで別名義の身分証明書を作ること。ギルドでは、金さえ払えば誰でも登録することができるからだ。
とはいえ、ここでさらなる問題が一つ。
俺は普段からよく町に降りているため、領民から顔を覚えられている。
このままギルドに行ったところで、正体を知っている者にバレて計画が破綻する可能性が高い。
そうなると面倒なことになるため、しばらくは『アルストの森』でレベリングに励むつもりだったんだが……運が良かったというべきか、リーベをテイムしたことで今は少し事情が変わっていた。
「今の俺には、この技能があるからな」
三体目をテイムしたことで新たに得た技能【擬態化】。
これを使用すれば、全ての問題が解決する。
「ものは試しだな」
俺は近くにある姿鏡を見ながら【擬態化】を使用する。
すると、狙い通り髪色が黒から金へと変わった。
その様子を見たリーベは目を丸くする。
「……驚いたわ。随分と雰囲気が変わるのね」
「だろ?」
アルビオン家の男児は俺だけが黒髪で、それ以外は灰髪。金髪はいない。
そのため、まさか今の俺を見てアルビオン家の息子だと思う者はいないだろう。
「あとはそうだな……念のため、服装や武器も新調しておくか」
そう呟いた後、俺たちは幾つかの店に寄るのだった。
数十分後。
俺は簡易な服装に着替え、腰元には鞘に入ったショートソードと木剣を一本ずつ携えていた。
見栄え的には、駆け出しの冒険者(剣士)といったところだ。
「うん、こんなところか」
改めて自分の姿を確認した俺は満足感とともに頷く。
狙い通り、どこから見ても貴族だとは分からないはずだ。
ちなみにショートソードを追加で購入したのには二つ理由がある。
一つは冒険者ギルドに登録する際、テイマーではなく剣士として登録するため。
もう一つは、メイン武器に木剣を使用する不思議な冒険者がいるという噂が流れないようにするためだ。
「【魔填】の仕組み的に、より多くの魔力を注げる木剣の方が下手な武器より使い勝手がよかったりするんだが、背に腹は代えられないからな……っと、ここか」
そんなことを考えているうちに、俺たちは冒険者ギルドへと到着する。
重厚な石造りの建物は、この街の中でも一際目を引く存在だ。
中に入る前、俺は「そうだ」と口にして振り返った。
「一応言っておくけど、冒険者は基本的に敬語を使わないから気を付けろよ」
「そうなの!?」
ここにて今日一番のリアクションを見せるリーベ。
彼女は冒険者ラブと名乗っていた時、見事なまでに敬語を使っていた。
だが、それは知識のある者からしたらかなり不自然な行動だったのだ。
普段から敬語を使われることの多いガドは気付けなかったみたいだが……
「つまり、俺がもともとお前の正体を知っていたとか関係なく、アレだけでお前が冒険者じゃないと疑われるには十分な理由だったということで――」
「うるさいわ! 過ぎた話を掘り返しても仕方ないでしょ!? とっとと中に入るわよ!」
そんなやり取りのあと、俺たちはとうとうギルドに足を踏み入れるのだった。
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