036 エピローグ
屋敷への帰路、俺はふと思い浮かんだ疑問を口にした。
「さて。リーベをテイムしたはいいが、今後はどんな理由で側に置くべきか悩みどころだな」
一応、経路を通じてある程度の命令や拘束が可能とはいえ、もしもの場合に備えて(裏切りとか、謀反とか、ポンコツなやらかしとか)、できる限り管理下に置いておきたいのが正直なところ。
「一番簡単なのは、ガレルと同じようにこの中で生活してもらうことだが……」
俺が異空間住居を発動しながらそう呟くと、リーベは露骨に嫌な顔をする。
「はあ!? どうして私がそんな辺鄙な場所で暮らさないといけないのよ!」
「バウッ!」
「きゃっ、何よ!?」
実際に異空間住居で生活しているガレルが、不満たっぷりといった様子で吠え、それにリーベが狼狽える。
親交を深めているようで何よりだと思いながら、俺は次の案を口にした。
「うーん。だったらもう、この森で野宿してもらうしかないか……」
「絶対嫌よ! そんなことならいっそ、町の宿でいいじゃない!」
ごもっともだ。
……というのは冗談として、俺は真剣に今後を見据えつつ、乗り越えるべき大きな壁について話し始めた。
「生活圏が離れるって意味では森も町も同じだし、やっぱりできるだけ近くに置いておきたい。【異空間住居】が嫌ならもう屋敷内で生活してもらうしかないが、それにだって幾つか面倒な問題がある。一番はやっぱりガドの存在か。どうにかうまく説得できればいいんだが……うーん、確かお前の話では、もともと暗殺者を雇おうとしていたところに割り込んだんだったよな?」
「ええ、そうよ。【遷移魔力】を使ってね」
ここでもその力の名が出てくる。
【遷移魔力】の真価は、その応用力の高さにある。
それは戦闘だけに留まらず、あらゆる場面で威力を発揮するのだ。
例えば魔力の性質を相手に同調させる、通称『波長合わせ』という技がある。
これを使えば相手の本能を逆撫でしない程度に、思考の誘導や洗脳が可能となる。
オーガなら戦闘本能を刺激して縄張りの外に出させるとか、ガドなら暗殺者を雇う目的に添った提案をして抵抗なく受け入れさせる――といった具合に。
他にも領都での魔物襲撃の際みたいに、魔物の魔力を周囲に溶け込ませて気配を消すことだってできる。
……まあ、そういった応用法については、また後でゆっくりまとめるとして。
今一番の問題は、俺を殺そうとしているガドをどうにかすることだ。
「にしても……ガドが俺を警戒してるのは知ってたが、まさか暗殺者を差し向けるところまでいってたとはな」
血の繋がった実の父親がここまで冷酷だとは、呆れを通り越して笑うしかない。
原作のレストがあれだけ歪んだ人格になったのも、少しは分かる気がしてくる。
だがその事実を知った今、俺にも考えがある。
向こうがそういう手を使ってくるというなら、こちらもそれ相応の対応をするまでだ。
◇◆◇
屋敷に戻った俺たちは、早速ガドの執務室に向かい『最深部には特に異常は見当たらなかった』と報告した。
その言葉に納得がいかない顔をしつつも、ガドは詳しい話を聞くためにリーベ(もとい、ラブ)だけを残すよう命じる。
しばらくして部屋から出てきたリーベは、得意げな笑みを浮かべていた。
「どうだった?」
「ええ、上手くいったわ。『今日の調査中はレストに警戒されてて隙がなかった。当面は護衛だけじゃなく使用人として仕えながら信頼を勝ち取り、隙を見て暗殺を試みる』――って伝えたの。そしたらすんなり信じ込んでくれたわ。【遷移魔力】を利用したとはいえ、随分と簡単で拍子抜けしちゃったくらいよ」
「……そうか、ならいい」
これでひとまず、リーベが屋敷に留まる大義名分は作れた。
そう遠くないうちにガドも違和感を覚え始めるだろうが……その際はまた別の方策を講じればいいだろう。
とにかく今はこれで、一通りの懸案事項をクリアできたことになる。
俺はホッと胸を撫でおろすのだった。
その日の夜。
自室に戻った俺は、疲労の溜まった体でベッドに倒れ込んだ。
「今日は、いろいろありすぎたな……」
レストにとって因縁の相手であるリーベが唐突に現れたり。
オーガとリーベとの連戦が始まったり。
特に最後、リーベがテイムできると判明した時は、あまりにも想定外だったためかなり驚いた。
「でもその分、得たものは大きい」
リーベをテイムしたことでステータスはさらに上昇し、新しい技能まで会得できた。
恐らく今の俺の実力は、Aランク上位からSランクに到達できるかどうかという水準にまでなっているはず。
元々想定していたよりも、遥かに急激な成長速度だ。
だが、まだこの程度で満足するわけにはいかない。
俺はベッドから身を起こすと、そのまま腰掛けて自分の右手を見つめる。
「この世界のSランク以上の連中は、まさに化け物揃い。主人公に魔王、幹部にその他も……今の俺なんかじゃ一溜まりもない強者が山ほど存在している」
その事実に、俺の背筋がゾクリと震える。
だがそれは恐怖ではない。これから俺がその難関を乗り越えていくのだと、想像して湧き上がる昂揚の戦慄だ。
こんな場所で立ち止まってなどいられないのだと、強く実感する。
前世で好きだったゲーム世界に転生するも、転生先は中盤で死ぬ悪役貴族で。
与えられた力こそ【テイム】というぶっ壊れスキルだが、それだけじゃこの身を守れないことは原作のレストが証明している。
だからこそ俺は決意した。ただ与えられる力に頼るのではなく、自分自身の手でこの体を鍛え上げてみせようと。
主人公でもない俺が、この世界でどこまで這い上がれるのかは分からない。
けれどここまで数々の強敵と渡り合い、乗り越えてきたことで目標は定まった。
転生初期にはおぼろげにしか見えなかったそれが、今では少しだけはっきりと見えている。
だからこそ俺は、レストとして歩んできたこの日々を胸に力強く誓う。
「待っていろ、主人公や魔王共――俺はお前たちを超えて、必ず世界最強の座に辿り着いてみせる」
『ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた』 第一章 完
これにて第一章『悪役貴族への転生編』完結となります。
連載開始から今日でちょうど3週間。約10万字という分量をこれだけの期間で書き切れたのは、皆様の応援があったおかげです。
本当にありがとうございます!
本作はもともと、最近流行りの『悪役貴族物』をベースとしつつ、私が大好きな『外れスキルによる最底辺からの超速成長×最強主人公による圧倒的無双!』という二つの要素を足し、爽快感のある物語を皆様に楽しんでいただけたらいいなと思い執筆させていただきました。
もしそれが叶っているのであれば、作者としてめちゃくちゃ嬉しいです!
第二章からはさらに物語は加速し、レストによる成長×無双をお届けできるかなと思っております。
ぜひ楽しみにお待ちください!
それでは改めて。読者の皆様、ここまで本作をお読みいただきありがとうございます!
最後に一つだけ大切なお願いがありますので、こちらもご協力していただけると助かります!
【大切なお願い】
第一章が完結した今、皆様に大切なお願いがございます。
もし本作をここまで読んで、
「第一章が面白かった!」
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