足音
暗い路地の帰り道。街灯はポツポツとしかなく周りは高い塀の家ばかりで薄暗いところだった。
だが目の前の街灯のところに、前を行く人の姿が見えた。どうやら若い女性のようである。
プロポーションがよく、男なら見入ってしまうようなシルエットだった。
そんな人と二人だけでこの路地を歩くのは幸運だがバツが悪いと、俺は少し距離をとっていた。だが後ろから革靴の音が無遠慮に響いてきた。
カツ、コツ、カツ、コツ。
前を行く彼女は、その音に気付いてか、後ろを振り向く。俺は街灯の下にいたので、目があった。もろに嫌悪な表情。どうやら私だと勘違いされて駆け出されてしまった。
なんとも後味が悪い。
これからも彼女とこの道で一緒になる時は、変な目で見られてしまうかもしれない。後ろの男に文句など言えないが、どんな顔をしているか見てやろうと思い、街灯の下でスマホをいじくる振りをして待っていると、その男は目の前を通りすぎる。
それは『俺』だった。同じ顔で、同じ服、同じ靴……。
後ろから来た俺は、彼女の後を急ぎ足で追う。
俺は、そんな『俺』を後ろから追いかける。
もしもあれが本当の俺なら、何をするのだろう。いや分かる。あんな良い女は滅多にいないもんな。なるほど、つまり──。
カツ、コツ、カツ、コツ。
カツ、コツ、カツ、コツ。