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短編 お勧め順

あなたのための婚約でした。踏みにじられたので、もう助けません。

作者: 紀伊章


 私は、黄泉平坂(よもつひらさか) 凛花(りんか)と言います。

 縁起悪そうな名字ですが、結構な名家です。自分で言うのもなんですが。


 そしてこの度、高校生活の平穏なスタートに盛大に失敗しました。


「うっうっ。怜士朗さーん」

「おっ前、ここには来んなって、いつも言ってんだろーが!」

「聞いてよー」

「……しょうがねぇなぁ。

 愚痴言って気が済んだら、早く戻りな?」


 ここは、あの世の一歩手前、三途の川までもう少しといった場所です。

 

 黄泉平坂家は、代々幽体離脱しやすい体質(?)で、その性質を利用して、巫者のようなお祓い師のような事を生業にしています。

 現代では大っぴらに名乗れる家業ではありませんが、政治家や医師など代々の顧客が有力で、我が家も困窮した事はありません。表向きも大地主ですし。


 私が会いに来ている父の従弟の怜士朗さんは、六年前に事故で頭を打ち、意識不明のまま病院に六年います。

 つまり、生霊として、あの世の手前のここに居ます。


 怜士朗さんに会うために、幽体離脱してここまで来ました。

 今、私も生霊です。


「聞いてよ!崇司(たかし)ったら酷いんだよ」

 藤堂崇司、私の婚約者です。


 我が家をご贔屓にしている政治家の息子で、私と同年です。

 彼の霊感が強い事を心配したご両親が、何かあっても良いように我が家と縁を結ぼうとされました。


 子供の頃の仲はそこそこ良かったです。

 そこら中にいる霊に怯えた崇司が、私達を頼りにしたり感謝したりしてくれてたので。


 死霊はそこら中にいます。

 あの世からのお迎えが死後四十九日経たないと来ないので、待ってる間好きな所にいますから。


 霊は普通、無害です。

 生きてるものの方がずっと強い。

 物理に干渉できる出来る霊はほとんどいないし、出来ても大したことない。


 ただ霊感があって、見えてしまったり、気配を感じ取ってしまったりだと、完全に無害とはいきません。

 何もされなくてもずっと自分を見てる、または、そういう気配を常に感じる。ちょっと精神にきますよね。


 我が家みたいに、霊が見える者は対処法を知っているので、適度に霊と距離を取って過ごしています。


 崇司のように、霊に好かれやすくて霊感が強いと本当に大変です。


 子供の頃から、崇司に群がる霊は私達が対処してきました。

 

 対処法はそんな乱暴なものではありません。

 ご家族の元や生前の未練のあった場所などに移ってもらうだけです。

 ほとんどの死霊は元普通の人なので、普通の話し合いで十分解決出来ます。


 生前から犯罪者だったような性質の悪い死霊だけ、こちらも力で解決します。


「私が高校生活スタート失敗したの、崇司のせいなのにー」 


 私達が対処し続けてきた結果、今は崇司の周りに霊はいませんが、崇司の霊に好かれやすい性質は変わっていません。


 折悪しく、入学式の直後に性質の悪い死霊に目をつけられてしまい、私が幽体離脱して対処してきました。


 私はそのせいで、入学式の翌日から二週間も寝込む羽目になってしまったのです。

 どちらかというと陰キャよりの私が、新しく人間関係を築く最初の二週間に出遅れる。

 それがどれほどのダメージか!


「もう皆、グループになっちゃってるもん。これからずっとボッチなんだ……」

 

「ま、まだ何とかなるって。

 気が合いそうな子のグループ入れてもらったりとか、部活とか入ってみたりさ」


 私を慰めてくれる怜士朗さん。

 血縁としては父の従弟ですが、叔父のような立場です。


 黄泉平坂 怜士朗。

 黄泉平坂家の本家の一人息子でしたから、事故が無ければ跡取りでした。

 怜士朗さんの事故後に、怜士朗さんのご両親も別の事故で亡くなってしまいました。

 今は、怜士朗さんの従兄だった父が、家業を継いでいます。

 

 父は、家業の能力はあるものの、性に合わないらしく、怜士朗さんが目覚めてくれることを願っています。足繫く病院に通って、怜士朗さんのリハビリもしています。

 意識不明で寝ている人間のリハビリ、というとピンとこないかもしれませんが、関節を動かしておく必要があるそうです。

 これをどれくらい丁寧に行っておくかで、その後の回復にも関わってくるとか。


 事故当時、怜士朗さんは十八歳でした。

 高校を卒業して、進学を予定していたそうです。


 私は昔から、優しくて相手をしてくれる親戚のお兄ちゃんだった怜士朗さんが好きでした。


 子供の頃は単純な好意だった気持ちが恋愛感情になってきたのは、崇司がきっかけだと思います。


 始めは、ちゃんと私達に感謝してくれていた崇司とそのご両親でした。

 

 でも、私達の努力によって解決しているのではなく、崇司の成長によって解決しているというように捉えるようになったのです。


 それならそれで、婚約を解消してくれれば良いものを、婚約は継続です。


 崇司の両親がお祓いの代金が惜しくなったんではないか、と私達は考えています。


 一方、崇司の方は、この婚約継続を崇司に惚れ込んだ私の我儘と捉えているようです。

 我が家にそんな権力はねぇよ。


 崇司は、まぁ、イケメンです。

 顔立ちは、誰が見てもイケメン。

 家柄はもちろん良い。

 勉強やスポーツも、結構こなせる方です。

 あと、陽キャ。


 でも、私に対しては最悪です。


 崇司は、外面が良いんですよ。

 崇司の中で、私は崇司に惚れた弱みがある事になっているので、陰でパシリにされます。

 金品を集られることは無いので、ギリ我慢してますけど。


「お祓いの代金踏み倒されないように、霊の対処もしてたし。

 崇司がいい顔しようとして引き受けた雑用、陰で代わりにやらされてたりしてたのに~」


 私が崇司に従ってたのは、崇司への好意ではなく、我が家にちゃんと代金を支払ってもらうためです。

 何せ、法的に堂々と請求出来るとは言い難い仕事ですから。


 とは言え、ストレスが溜まります。

 その愚痴は、家族にも言えません。

 そうでなくても婚約をさせてしまった事を引け目に思っているらしい父達に言う訳にいかない。

 事情が特殊なので、友達にもちょっと。

 話せる友達は一人いるのですが、二年前に遠方に引っ越してしまって。

 連絡は取り合ってますが、前ほど気軽には会えなくなってしまいました。


 仕方なく、幽体離脱しないと会えないけど、怜士朗さんの所に来て愚痴をこぼすようになったんです。


 私の健康を心配して幽体離脱してきた事を咎めながら、ちゃんと話も聞いてくれる怜士朗さん。


 崇司みたいなのじゃなくて、こんな人と結婚したい。

 そう思って見ると、怜士朗さんもイケメンです。

 崇司と違って、陰キャのイケメンですけど。


 好みは分かれるタイプかもしれないけど、私は好き。

 こんな所で色んな死者の話を聞いてるせいか、すごく物知りだし。


 生霊の怜士朗さんは、十八のままです。

 見た目の年齢が近くなってきた時によく会うようになったのもきっかけかも。


「怜士朗さんは体に戻んないの?」


「ちょっとモチベーションが弱くてな」


 幽体離脱状態で安定してしまうと、かなり強く戻ろうと思わないと戻れないそうです。

 きょうだいのいない怜士朗さんは、現世に家族がもう居ないので、どうしてもあの世に引きずられがち。


「戻って来てよ」


「う~ん、まぁ、そのつもりではいるんだけどな」


「戻って来て、崇司と別れるの協力してよ。

 お祓いの代金さえ払ってもらったら、もう別れたいよ。

 アイツ、高校入ってすぐ、彼女作ったんだよ!」


「……は?」


 こっちは崇司に合わせて、行きたくもないお金持ち学校に通う事になったし。

 崇司のせいで、入学式直後に二週間も休む羽目になったのに。

 見舞いにも来てくれなかった上に、スクールカースト上位の女の子とイイ感じになってたんです。


「なんか色々出鱈目な事を言ってくれちゃったらしくて、相手の子に言われたんだ。

『迷惑と思われてるから、止めてよね』って」


 入学二週間後という中途半端な時期に実質的な入学だった私には、特別教室の場所とか、色々戸惑う事が多くありました。

 本当は、中学の友達がいる高校に行きたかったけど、崇司のせいでそれが出来ず、こんな時に頼れる人がいません。

 仕方なく、崇司を頼りに行きました。

 元々、崇司のせいだったし。


 崇司は表向きは相手をしてくれました。

 でも、裏では私の事をまるでストーカーのように言っていたんです。


 崇司はクラスのカースト最上位のグループの中心になっています。

 事情が事情でなければ、私も話しかけなかったでしょう。


 でも他に人がいなかった。

 とりあえず、高校のローカルルールを把握できるまでは頼る事にしたんです。


 ところが、ほんの数日で、崇司と同じグループのカースト上位の女子生徒に言われたんです。

「幼馴染だからって、崇司にいつも纏わりついてるんだって?

 崇司は優しくて言わないだろうから、わたしが代りに言っておくよ。

 迷惑と思われてるから、止めてよね」


 あまりの事に、声も出ませんでした。


 その女子生徒、伊藤亜由美さん。

 私が頼る人がいなくなった第二の理由です。


 彼女が私のクラスの学級委員長なんですよ。

 先生には、彼女を頼るように言われていました。


 でも、何もしてくれない。

 分からない事を聞いても「後でね」とか言われます。


 後でって何よ。

 聞きたい事は、どれも説明に五分もかかりませんよ。

 教室移動とか、初回だけでいいから、一緒に行ってくれてれば。


「もう、学校行きたくないよ……」


 カースト上位に睨まれる事になったので、他の生徒からも少し遠巻きにされだした気がします。


「事情は分かった」

 私の頭にポンと手を置いて、軽くなででくれる怜士朗さん。

 珍しいです。

 魂がむき出しの霊同士の接触は、影響が大きいので、出来るだけ避けるのが鉄則です。

 怜士朗さんのエネルギーがじんわり温かいです。

 本当は戻るのに使ってほしいけど、今だけは甘えていたい。


「お前は先ず、正人に話せ。

 そんでもう、藤堂崇司とは関わるな。

 後は、大人の仕事だ。

 学校は出来るだけ通え。

 ただし、無理はすんなよ」


 怜士朗さんには、やる事が出来たと追い返されました。

 気は進まないけど、怜士朗さんが正人と呼んだ父に事情を話しに行きましょう。


 幽体離脱状態から戻って、両親に話をしました。

 母に抱きしめられ、父に謝られました。


「そんな無理する必要なかったのよ」


「ごめんな。

 怜士朗から、崇司君の事が好きな訳じゃないと聞いてはいたんだけど。僕らに言ってこないって事は、やっぱり崇司君に気があるんじゃないかと思ったんだ。崇司君の事、イケメンって言ってたから」


「私は、崇司君の事は好きじゃないとは思ってたわ。

 でもどの道、婚約なんて強制出来ない事だし、気にしてないと思ってたの」


「お祓いの代金の事は気にするな。

 こんな時のための方法はあるんだから」


 こうして、崇司との婚約は無くなりました。

 

 出来れば転校したいとも言いましたし、いいよとも言われましたが、やっぱり最終手段にしました。


 学校側とも両親が話をしてくれました。

 学級委員長の伊藤さんが、学級委員の仕事をしていない事を把握してくれたので、今は、副委員長の川原君にフォローしてもらっています。


 でも手芸部に入って、クラスメイトの長谷川藍子さんと仲良くなれたので、今はもうそんなに必要じゃないかも。

 クラスでは、長谷川藍子さんとその友達の岡田晴美さんと一緒に居ます。

 やっと友達出来ました。


 手芸部は私を入れて部員十人。部と言ってるけど、同好会ですね。 

 同学年の部員は、長谷川さんと隣のクラスの後藤梓さんだけ。


「凛花ちゃんのお陰で部員十人になって助かったよ」

 予算取りなどの立場が違うそうです。

 こぢんまりした同好会で先輩達も皆、優しい。


 スクールカーストは下の方かもだけど、平穏な生活がゲット出来たので、ほっとしました。


「凛花、器用だよね」

「お守り作るのに、小さい袋作ったり刺繡とかしてたから」

 家業の副業的なお守り作りのお手伝いは、結構好きな事でした。


「そういえば、こないだの藤堂君の断罪劇すごかったね」


 藤堂崇司の事は、もう名前呼びをしてませんし、出来るだけ関わらないようにしてます。


 そして、なんか乙女ゲームみたいな事が起こってます。


 ヒロイン役は隣のクラスの神崎亜里沙という美少女。

 庇護欲を誘う系の見た目です。


 最初は、彼女のクラスメートだけが取り巻きでした。


 どんどん逆ハーレムの輪を広げていって、上級生や他のクラスなど、目ぼしい男子生徒を順調にゲットしていっています。

 魅了魔法が使えるのかと疑っちゃうくらい。

 

 しかも何故か彼女持ちの男子生徒ばかりゲットしていきます。

 彼女が出来るまでは目もくれなかったのに、彼女が出来た途端近づいてくる。

 彼女と別れさせた後、顔とかステータスによって、捨てたりキープしたり。


 まだ一学期終わってないですけど、ほぼ学校中の女子生徒から蛇蝎の如く嫌われています。


 彼氏を奪われた形になった女生徒に囲まれて、

「わ、わたし、そんなつもりじゃ……」

 小動物みたいに震えて見せるそうですが、じゃあどんなつもりなんだよ、みたいな。


 そして、その度に取り巻きの男子生徒がやって来て、さらに騒ぎに。


 こないだは、藤堂が神崎さんと取り巻きと一緒になって、断罪劇をやってました。

 全校集会直前の講堂だったので、私も目撃してしまいました。

「伊藤亜由美!

 俺の婚約者面は止めてもらおう!

 俺の心はこの可憐な神崎亜里沙のものだ!」


 ドン引きですよ。

 伊藤さんの彼氏面してたのはアンタじゃん。

 伊藤さんに対してはちょっとざまぁって思いましたけど。

 神崎さんの腰を藤堂が抱いてましたけど、反対側から他の男子が神崎さんの肩を抱いてたり、さらに他の男子が神崎さんの髪に触ってたり。

 取り巻き男子の異常さに、彼氏を取り戻そうとしてた女子生徒も、目が覚めたみたいになった人が多かったみたいです。

 

 でも騒動が起こり続けてるお陰で、私達みたいなスクールカースト下位は平和です。

 カースト上位の女子が神崎さんに気を取られてるから。


 伊藤さんは今は、地味チェンして、ひっそりしてます。

 あれから、私にも謝ってくれました。

「あんな奴の言う事だけを鵜吞みにして、酷い事言ってごめんなさい」

 学級委員の仕事もちゃんとやってくれるようになりました。

 友達ではないけど、普通のクラスメート位の仲になっています。


 実は一つ、黙ってることがあります。


 神崎さん、めっちゃ霊に好かれやすいんですよね。


 しかも結構、性質の悪い霊に好かれやすい。

 神崎さん自身は、霊感が全然ないみたいで、群がる霊にセクハラされまくってても気にならないみたい。


 藤堂が気付いてないのが不思議ですが、多分、相性最悪だと思います。


 でも、我が家は藤堂家にも、神崎家にも関わり合いになりません。


 お祓い屋家業は、表立って名乗れるものではありませんけど、ちゃんと誠実に働いてるんです。

 だから、料金踏み倒しなんかに対応するために、同業で組合みたいなものを作ってます。


 藤堂の件をそこに知らせました。

 結果、藤堂家は何処からもお祓いをしてもらえなくなりました。

 

 普通の家ならば、別に大したダメージじゃないかもしれません。

 でも、藤堂家は元々、我が家の代々の顧客でした。


 割と悪霊に纏わりつかれやすい家系なんですよね。


 まぁ、精神的にくるだけで実害がある訳じゃありませんから?

 先日父の所に、藤堂家の家長が頭を下げにきましたけど、未払いの料金もまだ残ってますし、我が家も他のお祓い家業の人も新しい依頼は引き受けません。

 踏み倒されると分かってる仕事を引き受ける人なんている訳ない。


 最近、藤堂家の息子さんは言動がおかしい、という噂が藤堂家の家業界隈で広がっているようですが、我が家は関係ありません。

 我が家の他の顧客の方には、料金を払っていただけなかった顧客に出禁になってもらったという話はしてますけど。


 神崎家も、お祓い家業の間では有名な家です。


 私達の目には酷い目に遭ってるように見えるんで、助けてあげた人が結構いるそうなんですが、本人達が無自覚なんで、料金踏み倒されるだけでなく、変質者扱いされるのが常だそうです。

 決して助けてはいけない家系として有名です。ブラックリストですね。


 まぁ、今も本人は困ってないみたいですしね。 

 ちょっと見てられないくらいのセクハラって言うか、痴漢行為されてますけど、見ないふり。


 実際に、神崎さんのクラスメイトの梓が酷い目に遭ったらしいんで。

「鞄のチャーム落としたから拾ってあげたのに『酷いっ』て言われたんだよ……」

 うんざりした様子の梓。


 落としたよ、と渡そうとしたのに。

「そんな、こんな事されるなんて……」なんて言ってフルフルされて。

 あれよあれよという間に、取り巻きの男子生徒から、泥棒呼ばわりされたらしいです。 

 ちょうど直ぐ授業だったので、先生が来てくれて、

「差し出してるのに、盗もうとしたは無いだろう」と冷静に言ってくれて事なきを得たとか。


 私も関わるつもりはありません。

 例え神崎家の人達に心を壊す人が多くいるんだとしても、その数年前に異常に同世代の異性に好かれやすいという現象が起こるんだとしても。

 助けようとした人達は、皆なにか冤罪をかけられて追い払われてますから。

 助けられないって事ですよ。


「終わったら、どっか寄ってく?」


「あ、ゴメン。怜士朗さんが今日、退院するんだ」


「おお、年上彼氏!

 退院、今日なんだ。良かったね」


「良かったね、寄り道はまた今度一緒に行こう」


「あ、ありがとう///」


 怜士朗さんは、あれから体に戻ってくれました。

 リハビリして、今日退院です。


 体に戻る前の身軽な生霊状態で、父や他のお祓い家業の人達に連絡を取ってくれたり、藤堂家の家長に掛け合ったりしてくれたようですが、詳しくは話してくれません。


「ねぇねぇ、何で戻ってこれたの?」


「お前のためだよ……何度も言わせんなよ///」


「だって、嬉しくて」


 戻ってこれなかったのは、もう自分の居場所は無いと思ってたから。

 だから、戻りたいと強く思えなかったそうです。

 でも、私に戻って来てほしいと言われて、泣いてる私を慰めたくて、それで戻って来てくれたそうです。


「戻って来てくれてありがとう、怜士朗さん。すごく嬉しい」


「……あのさ、付き合うの、後悔してないか?」


「してないよ!何でそんな事言うの……」


「いや、戻って来た勢いで、付き合ってくれって言ったけど、落ち着いて考えたら、俺、今、二十四なんだよ。生霊だった時は、事故った十八の感覚のままだったから、十六のお前と付き合うの違和感無かったけどさ……」


「八歳くらいの年の差が何さ……」


「後、俺、高卒無職だけど……」


「大学行くつもりだし、家業継ぐつもりなんでしょ?」


 事故当時の大学の入学は取り消されてしまってますけど、受験しなおす予定と聞いています。

 家業を継ぐのは、その卒業を待って、と聞いていますが、家長を辞められる目途が立った父が小躍りして喜んでたので、今から取り止められると、父が可哀そうです。


「ホントにいいのか?」


「うん!怜士朗さんがいいよ!」


「……そっか。じゃあ俺も頑張るとしますかね」


「うん!うん?何を?」


「内緒」

 フッって感じで笑われました。……い、色っぽい///


 夏休み挟んで、二学期になりました。


「り、凛花!

 頼む!助けてくれ!俺にはお前が必要だったんだ!

 婚約も、し直そう!な?」


 藤堂崇司は、やつれてて、かつてのイケメン振りが見る影もない。

 神崎さんにも捨てられたらしい。


「何の事でしょう?

 何か必要があるなら、ちゃんと代金を支払って、然るべき所に依頼されては?

 後、私と藤堂君が婚約していた事などありません。

 そう、藤堂君も周囲に言っていたではないですか。

 私からの話は終わりです」


「そ、そんな……」


 この期に及んで、婚約し直しとはね……。


 伊藤さんから聞いたんだけど、藤堂は、私の事を、藤堂崇司の自称婚約者を名乗る痛いヤツ、と言っていたそう。

 失礼にも程があると思ってます。

 

 藤堂家も相変わらず、過去の代金を払いきっていません。

 噂では、家計が火の車で、政治家も続けられないのでは、とか言われてるそうですが。


 でも、婚約をちらつかせれば無料で働いてくれるなんて侮辱にも程があると思います。


 せめて、他の同業に代金前払いでやってもらえば良いのに。

 まぁ、協定結んでるから、我が家への未払い分を含んだ代金を吹っ掛けられるはずだけど。


 代金を支払わないという事は、必要ないって事でしょう。無視して良し。


 神崎さんは、相変わらず異常な逆ハーレムを形成してます。

 でも、言動におかしな所が出てきたよう。


 心配した教師に変な冤罪吹っ掛けようとしてたりして、親身になってくれる人はもうほとんどいない気がします。

 通院を勧められているという噂も。


 しばらくして、藤堂も神崎さんも休学になったと聞きました。

 私には関係ありません。


 怜士朗さんは大学入試の準備も順調だけど、その前に小説家デビューしました。

 死者から聞いた話を元に色々書いています。

 確かにそれなら、ネタに困らないかも。


 大学は、国立の社会学部の予定と聞きました。

 そんな、頭良かったんだ。


「うー、私も頑張んなきゃ、釣り合わないなぁ」


「何言ってんだ。好きな事しとけよ」


「でも、釣り合わないのやだ」


「俺が惚れた女のためにやってるだけだ。好きな事させとけよ」


 時々どうしようかと思うほど、今は幸せです。





読んで下さってありがとうございます。


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