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タクミ隊、家を買う買わないでやや揉める  作者: 大石次郎


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8/13

8話 水瓶亭2F会議

「この期に及んで、だと思うぜ?」


ベッドに腰掛けた『忘れている人も多いだろうけど、とにかく引っ越したい女』レンは脚を組み直して牽制してきた。

教会の屋根裏部屋に済んでいるので時報の鐘や聖堂での音楽演奏や斉唱に参っていた。耳のいいエルフ族のハーフである為、余計キツいらしい。


「ワシは屋根と、あとは風呂が近くにあったら正直どこでもいいのう」


『アドレスホッパー』なコッチ先輩。ヒッピー系でもない方のアドレスホッパー界隈は『風呂の確保』のプライオリティはかなり高いようだ。


「あ! わかったっ。皆で、ムルッペのアトリエに住もうよっ?!」


全然違うこと言い出す『実家住まい』のチェルシ! 実は俺も『あそこ空き部屋だらけだ』とは思っていた。


「ケム達は、土と緑のある所を所望する・・」


「ケムは枝から枝に飛び移るのが好きである・・」


「ケムは土を掘ったり埋め直したりするのを好む・・」


集まってしまうと益々どの子がミティだかマティだかピティだかわからなくなるが『自然が好き』らしいケムシーノ達。本来は野外生活してるしね。

・・うむ、ここらで具体的な材料をもう一度提示しておくか。


「前も同じことを話したが、家と土地、合わせて780万ゼムは安いとは思う。平民の通常資産で固定資産税免除も美味しい」


家の場合、商売をしなくてもある程度の大きさや立地によっては通常資産と見なされ課税される。あのボロ屋は町外れとはいえスプリングウッド町の城壁の内側で、雑木林以外も建物と周りの土地はそれなりの広さだ。

リフォームの仕様や用途によるが免除無しだと最大で年20数万ゼムぐらい、家を保有してるだけで徴収される可能性があった!

しかし、だ・・


「だが『雑木林の維持管理』がやっぱり問題だよ。なんか雑木林に関する資料だけ大雑把だし」


結構広い、横に拡がるようなちょっと湿った感じの雑木林の中にボロ屋はあった。


「初期費用はガッツリあるんだからそこまで気にしなくていいって! 雑木林も一回手を入れたら後は難しくないぞっ? ケムシーノが一杯いるから雑草や虫害はそうでもないし」


『草や虫をムシャムシャ食べまくるケムシーノが雑木林に一杯いる』ことが若干御近所トラブルになっているようでもあるのだが・・


「まぁチェルシが土の傀儡兵(ゴーレム)を使役するスキルなんかを覚えてくれたら木の管理は楽そうではあるしの」


「ええ~? そっちの系統、チェルシさっぱりだよぉ?」


前に風の精霊(シルフ)の使役スキルの講習受けていた。土系はちょっと厳しいかな?


「ではムルッペのとこの機械傀儡兵(マシンゴーレム)を買うというのはどうじゃ?」


「いやコッチ先輩。伐採活動できるくらいのマシンゴーレムは業務用の魔工炉(まこうろ)で充填できないと、費用掛かっちゃうッスよ? メンテもありますし」


「ふーむ」


「じゃあ! 皆でムルッペのとこに住もうよっ?」


その案、推すね。


「つーか、チェルシはムルッペのとこに行きたいだけだろ?」


「違うよぉっ!」


赤面するチェルシっ。うむ。


「ウチはあんないつ暴走するかわからん人形がウロついてるとこは、い・や・だっ! ウチは家でリラックスしたいんだ! プールも造る!」


「レン、あそこはほぼ野外だから屋内プールにしないと大変なことになっちゃうよ?」


野生の生物達からすると野外にポツンとあるプールなんてただの『池』だ。


「じゃあ屋内プール造ればいいじゃんかよっ?」


「ええっ? 待ってくれ、屋内だと・・たぶん追加で1000万ゼム以上掛かるよ? 維持もしなきゃだし」


「うう~~~~~っっっ!!! じゃあ、町営プールのサマーチケット買おうぜ?」


プールの話になってきた?


「夏の町営プールはどこも混むぞい? ギルドの泳法(えいほう)教練施設にせんか?」


「あんなとこ行ったらめっちゃ泳法教官にシゴかれるじゃん! リラックスできないじゃんっ?!」


「・・じゃあ、夜、ナイトプール行く?」


サラっと言うチェルシ。


「・・・お、おう」


「・・・まぁ、ね」


「・・・ふむ」


うん、たぶんそれで正解なんだろうけど、俺とレンとコッチ先輩は微妙な反応になってしまった。ちょっとタクミ隊的にはアダルティ過ぎるような??


「ま、プールはオプション的な話だから」


「だよな! 家、家っ! 家買う話しようぜっ?」


「どこまで話したかの? 雑木林??」


ちょっとザワザワしてしまったが、そういえば、と俺は思い出した。


「ミティ、マティ、ピティ!」


「ケムん?」


プールとか興味無かったのか? 俺の部屋の保冷箱を左右に1本ずつ生えてる『頬ヒゲの触手』で勝手に開けて林檎を取り出し、3体揃って噛っていたケムシーノ達。


「君達はあそこの出身だろ? 雑木林に関して手入れするに当たって何か情報ないかな?」


ケムシーノ達を顔を見合わせてから、俺達の方に向き直った。


「林道の跡が何本かある。手入れは容易いだろう・・」


「小さな泉が1つある。水路が壊れてるから、アレを放っておくと雨季になると厄介・・」


森の精霊(ドリアード)の祠がある。忘れられていて、ドリアード本体は眠っている・・」


「おお~っ」


有益な情報が続々と! さすがの地元力っ!


「なるほど! ありがとうっ。雑木林に関してはだいぶクリアになったね!」


「手入れはやっぱ余裕じゃん?」


「いや、泉はちょっと面倒そうじゃ。言われてみればあの雑木林、苔が妙に多い所があると思っておったわ」


「1回祀られて忘れられて休眠した精霊って・・チェルシ、その子、機嫌悪くなってると思う」


「ううん?」


俺達は改めて物件資料を見ながら本格的に話し合いだした。



・・ギルドに行く期限を午後6時半だとして、今は4時30分。今朝は早く、スタンバイソン退治なんかもしたから、さすがに疲れてきたのでティーブレイクしようとなり、クジで負けた俺とチェルシとピティは1階の酒場にソフトドリンクと茶菓子を買いに降りてきていた。


「レンは妙にあのボロ屋に拘ってるよね? 引っ越しするだけなら、あんな手の掛かるとこ行かなくてもよさそうなもんだけど」


簡単に注文を済ませ、ピティを頭に乗せたチェルシとカウンターの端の席に座り、なんとかく話を振ってみた。

レンは同期だが隊を組むまでそこまで絡んだことはなかった。後輩でも同性のチェルシの方が詳しいような気も、しないではない。


「前に、似てるって言ってたよ?」


「似てる?」


「レンは子供の頃、森の中の大きな屋敷でお母さんと暮らしてた。って言ってたよ?」


「へぇ・・」


意外とデリケートな理由、なのか??


「プールは?」


「それはわかんない。子供の頃、家でプール入ってた。とは聞いてないよ?」


「ケムぅ?」


ふん? 整った別荘暮らしでブイブイ言わしてた、ってワケでもなしか。おそらく大金で買った家でリラックス。イコール、プール。という安直な連想だな。レン的ではある。


「お待ちどう! マラサダおまけしといたよっ」


「あ、ども」


元冒険者のベテラン店員が茶菓子とドリンクを盆に乗せて出してくれた。

ドリンクの方が重いので、俺はそっちを持った。2階へ向かう途中でピティを頭に乗せたチェルシが不意にこちらを見上げてきた。つぶらな瞳のピティとも目が合っちゃうよ。


「ん?」


「別にあの家じゃなくてもね、今、拠点にする所は手に入れた方がいいとチェルシは思う。コッチ先輩はフワフワしてるし、タクミも1人が好きだよね? レンは余裕が無くなるとイライラしちゃうし、チェルシもそんなちゃんとしてないから・・『帰る場所』あった方がいいと思う。それが、ずっとじゃなくても」


「・・うん、かもね」


わりとこれが決め手だった。俺が、内心逃げようとしがちな思考でもあった。



午後6時10分過ぎ、俺達は(ケムシーノ達も)スプリングウッド町の冒険者ギルドの応接室に来ていた。応接される側としては中々通されることのない部屋だ。


「はい、780万ゼム。確かに!」


ギルドの資産管理下の職員のエルフ族、ミツネさんが積まれた札束を確認し終えた。


「正直、ギルドも買い手が付くと思ってなかったから、リフォームの資材や業者は安く紹介するからね。祠は今、昔の資料を当たってるから、ちょっと暫く触らないで」


「了解です」


「うん、ミロ」


「はい。こちらです、サインを」


補助に入っているボックル族の若手職員ミロが書類を1枚出してきた。『個人リフォーム施工申請書』だ。無法の野外はともかく、街中で小屋の範囲を越える物を素人が勝手に造るとリフォームでも違法になっちまう。危ないからね。


「全部業者に頼んだ方が簡単だよ?」


「いや俺達、話し合った結果、できるところは自分で全部やろうとなって」


「そう・・まぁ冒険者は教練所で習うから自分で土木作業しがちではあるけどね」


「水周りと火の元、それこら初期工事の倒壊防止は特に気を付けて下さい」


「気を付けまーす。・・じゃあ、俺から」


俺は仲間達に確認し、書類に羽根ペンでサインをした。『タクミ・オータムゴールド』と。


「じゃ、次はウチ」


レンは『レン・ユニコーン』とサインした。


「ワシ、書こうかの」


コッチ先輩は『コッチ・ソッチ・ドッチ』とサインした。


「最後はチェルシね。ケムの皆の分もサインするよ!」


「ケムんっ!」


「ケムケムっ」


「契約の時っ!」


ケムシーノ達が興奮する中、チェルシは『チェルシ・グラスフルート』とサインした。


「は~い。契約と、施工と保険も・・済んだね! 現場にミロもたまに様子を見にゆかすけど、来週末くらい? 役所の人が行くから詳しく決まったらまたミロに伝えさすよ」


「うッス。ミロ、よろしく!」


「はい。タクミさんは水瓶亭の2階ですね」


「そうそう! あんまり部屋にいないけどっ」


「・・・」


ミロに面倒臭そうな顔をされてしまったが、俺達タクミ隊は無事、購入契約と施工申請を済ませた! 一括で買っちまったぁっ。

なんかローン猶予で運用云々して稼ぐ人もいるらしいが、俺達では処理できそうになかった。これで、よしっ!



2日後の午前6時30分。俺達タクミ隊とケムシーノ達はボロ屋の前に集まっていた。


「眠っ、というかちょっと寒くないかぁ?」


「雨降らなくてよかったの」


「ワクワクするねぇ!」


「ケム達の城・・っ!」


「城のケム達・・」


「ケムケムケム・・」


『売約済み』と上書きされた立ち入り禁止の立て札が立てられ、囲いロープも張られていたボロ屋の前の敷地には、昨日の内に業者に資材を運び込んでもらっている。

どれも濡れると不味いので撥水加工の皮シート掛けてもらった。一部は皮シートのテントの中に置かれてた。

素人では難度の高い簡易トイレの小屋も造ってもらった。虫除け獣避けの忌避剤も塗られてる。

野外活動の多い冒険者は『安心して用を足せるトイレ』の重要性を身に染みて知っているからさ。


「よ~しっ! じゃあ、リフォーム、始めようかっ!!」


「おおーーっっ!!!」


俺達は勢い込んで作業に取り掛かった。

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