7話 取り立て屋、タクミ隊 4
転送門を使って、俺達タクミ隊は『グリーンベース2』に来た。
ここは3ヶ所あるスプリングウッド町の外部食料生産地の1つ。
朝靄の掛かる発着駅前に出てくると靄の向こうに広大な農地が広がっていた。
広過ぎて農地を多重に囲んでいる魔除けの城壁が見えないくらいだ(野外はモンスターがいるから農地を拠点化する必要がある)。
グリーンベース2では主に穀類、食油用作物、綿、畜産が行われている。この辺りの子爵以下の共同荘園(煙草、甜菜なんかを独占栽培してる)と、貧民福祉や刑務所や軍隊を含む公的機関用食料の生産も行っていて、そっちは甘藷、燕麦、大葉、蕗、ミルワーム、川海老等が作られていた。
「いい眺めじゃの」
「広~い、初めて来たよぉ」
「ケムも初見だ・・」
コッチ先輩達は景色に気を取られていたが、俺は軽くストレッチを開始する。レンは馬借や乗り合い馬車の案内所に気を取られていた。
「じゃあ、『ラシカルさん』のファームまで走るか?」
「おっ? タクミ、馬借りないのかよ??」
「転送門はギルド割引でも全員合わせて片道8万5千ゼム! 節約しないと。よしっ、行こう!」
俺はとっとと走りだした。他のメンバーも慌てて続く。
「朝イチ走るのダルいぜっ!」
「お腹空いたから駅前でなんか食べてこうよぅっ」
「チェルシ、ファームなら何か食べれるかもしれんぞいっ?」
「ホントにぃ?」
「ケムぅ」
そこそこ不満もはらみつつ朝靄の中、俺達は、俺が100万ゼムちょっと貸しているラシカルさんのファームへと駆けていった。
「はい、お待ち。おチビちゃん」
「やったぁーっ!」
相変わらずムキムキのマッスル体型だが、接客用の清潔な服にエプロン姿のラシカルさんが『暴れメルメル鶏のオムライスモーニングセット』をチェルシに出した。
ラシカルさんは褐色の肌の人間族の元冒険者! 俺が最初に所属した隊のリーダーだった人で、職業は大盾士。レベルは18。今はこのファームを営んでいる。肉体労働だからかレベルは落ちてないね。
俺や他のメンバーにもワゴンからテキパキと出してくれた。ミティ(マティかと思ったらミティ!)にはメルメル鶏のチーズオムレツとサラダのミニセット。
駅から馬の駆歩くらいの速さで30分程走ってラシカルさんのファームに着いた俺達タクミ隊は、ファームの母屋でやっている民宿の食堂に通されていた。
・・歓談しながら素朴でボリューミーな食事を続けていると、二組いた客の一組がサンルームを使ったサロン室に茶を飲みにゆき、もう一組が朝の散歩に出掛けたのを見計らって、ラシカルさんはたっぷりのファームの商品と布で包んだ物を入れた大きな編み鞄持ってきた。
「タクミ! 去年の台風の時は助かった! ありがとよっ。ウチの商品も付けといたからなっ!」
台風で被害が出たタイミングで奥さんが産気付き、従業員が大怪我したり身内の不幸で出勤できなくなったりするのが重なって去年、ラシカルさんは余裕がなくなった時期があった。
俺はその頃、気軽なソロで、素材集めも上手くいっていたのでちょっとだけ融通した次第だ。
「あざーすっ。こんなに・・なんか、悪いッスね」
「美味いっ、て町で言いふらしてくれよ?」
「うッス。・・あ、こっちのバイト」
そう、事前に水晶通信(ちょっと高いが、映像と音声で通信できる)で、グリーンベース2で俺達向きの『バイト』がある、というので全員で現地に来ていたんだ。
「おうおう! その前に、ウチのベイビーと『鶏ちゃん達』も見てくれよっ?」
「了解ッス」
俺達は食事を済ませると母屋のプライベートスペースで、まだ授乳期だから寝不足の奥さんに恐縮しながら、なんとなくラシカルさんっぽい赤ちゃんに挨拶させてもらい、それからもう朝靄の晴れた『暴れメルメル鶏』の放牧場に案内された。
「クォケェーーーーッッッ!!!!」
「ケェッケェッケェッッッッ!!!!」
「クォケェエエエーーッッッ!!!!!」
その名の通り暴れ狂うメルメル鶏達から、柵(忌避剤が塗ってあるから鶏は出られない)の中で攻撃されまくる作業着のラシカルさんっ。
暴れメルメル鶏は体長1メートルはあるから一般人ならズタボロにされるところだが、さすが元大盾士! 盾持ってなくても圧倒的頑強さで無傷でニコニコしているっ。
「ほら、コイツら。すっかり俺に懐いてるだろ? 可愛いよなぁ、うふふふっ」
「・・ッスね」
「マジか?」
「チェルシ、ノーコメント」
「ケムぅ・・」
「ふ~む」
ともかく飼育しているメルメル鶏達を一通り紹介された俺達は、内容を確認してからバイトの方に向かうことになった。
因みに『柵の中でメルメル鶏との触れ合いを楽しむ』ことも勧められたが、丁重にお断りしておいた・・
場所はグリーンベース2の端の内部城壁で隔離された開拓休止エリア。途中まで開拓が進んだが、方針や権利で揉めて、もう10年は塩漬けになったエリアだ。
管理が甘く、2週間程前に外周城壁の破損からモンスターが侵入していた。城壁自体は補修されたがモンスターはまだいくらか残っている。俺達はその群れの1つを叩く! ・・というバイト。
想定される出現ポイントまで少しあったが、荒れた農地を歩きながら警戒は怠らない。俺とレンはそれぞれ既に武器を装備していた。
「ラシカルさん、マジ濃い人だったな・・」
「頼りなるリーダーだったよ? 明るいし。最初の隊がラシカルさんの隊だったのはラッキーだった」
楽しかったな、ラシカル隊。等と思い出に浸っていると、
「タクミは教練所で単独行動気味じゃったから、ワシがギルドにタクミはラシカル隊がいいと、勧めてみたんじゃ」
「っ?!」
衝撃っ!
「マジっすかっ?? えっ? えっ??」
「特に言うつもりはなかったがの。もう、お主はラシカル隊ではないし、ワシがタクミ隊に入ってしもうたし、これも機会じゃから言ってしまおうかと思ってのぉ」
「ちょっ?! ええっ、なんか恥ずかしいんだけどっ??」
今年一のダメージだっ!
「オイオイ~、タクミぃ、ゴマメだったのかよぉ?」
「手の掛かるお侍さんだねぇ!」
「ケムケムケムっ」
ニヤニヤしまくるレン、チェルシ、ミティ! くぅっっ、
「とっとと、バイトのターゲット倒そうっ! 迅速にっっ」
「ウチがお友達になってあげるぜぇ? タクミちゅあ~んっ」
「チェルシはママだよっ」
「では、ケムはパパで・・」
「もういいからっ!」
「ふーむ」
少なからず混乱したが、俺は先を急いだ!
・・・ブッ壊された資材小屋の近くにデカい図体の『スタンバイソン』が7体、気持ちよさそう眠っていた。俺達は近くの風下の茂みから伺う。
電撃特性の牛型のモンスターだ。単純に倒すだけならどうってことないが、今回は少しばかり面倒があった。
「グリーンベース2の運営は、損傷が少なければ1体9万ゼムで買い取ってくれるからね? 損傷が少なければ1体9万ゼムで買い取ってくれるから、ね?」
「2回言わなくていいよ。というか、ウチだけに言うなよっ」
さっき絡みがクドかったので、レンをイラつかせてやったが、スタンバイソンは結構売り物になる。肉は念入りに下処理が必要だが、角、骨、筋、皮、蹄、血液、脳、心臓、目玉が素材としてそれなりに価値がある。
今回、討伐その物に報酬は出ないが、素材の買い取りは保証されていた。
「ふんっ。・・脳か、心臓か、血液、いずれかは諦めよう、チェルシとミティは1体。あとは2体ずつ。油断は禁物だ!」
「了解!」
俺達はタイミングを合わせ、茂みから飛び出した!
「せぇあっ!」
「どぅらぁっ!」
スタンバイソン達はすぐに目を覚ましたが、まず俺が打ち刀『ナマクラ・改』を1体の首に打ち、レンは打撃用護拳『フルゴング』を1体の眉間を打ち込んだっ。
「エンチャント・ウィンド!」
モンスター達が俺とレンに気を取られた隙を突き、チェルシは2本で1対の双短剣『飛燕』に風の属性付与魔法を掛け、1体のスタンバイソンに飛び来んだ。
「ケムんっ!」
これにミティが回転体当たりスキル『スピンアタック』で怯ませ、チェルシは双手の突きで体内に旋風を撃ち込み、1体仕止めたっ。
「ほいっ」
チェルシに近い個体に回り込んだから出遅れ為に、体勢を整えたスタンバイソンの1体からスキル『電撃』を喰らったが、まるで気にせず、素手の張り手の一撃で首を破壊するコッチ先輩っ。
「スキル・『祟り辻』っ!」
「スキル・『マッハダック』っ!」
俺は緩急を付ける加速技で、レンは低い姿勢の加速技で電撃を躱し、間合いを詰めた。
「せぇっ!」
「らぁっ!」
俺は峰打ちでスタンバイソンの眉間を打ち、レンは強烈な正拳突きを胸部に打ち込んで衝撃を心臓まで伝え、それぞれ仕止めたっ。あと1体!
「ンモォオオッッッ!!!!」
最後のスタンバイソンは全身に電撃を纏いスキル『スパーククラッシュ』をコッチ先輩に放ったが、平然と角を掴まれて止められ、ゴキッ! と首を破壊されて倒された。
「片付いたの」
「ッスね!」
あとは換金、換金!
スタンバイソンは7体合わせて52万ゼムになった。
さらに、手早く運営の専門家が下処理してくれたスタンバイソンの肉6キロをサービスくれたので、挨拶に寄るだけの予定を変更して、ファームの他の従業員3人と民宿のお客さん2組も交えて昼食に皆でバーベキューをすることになった。
「俺のファームの鶏ちゃんも食べてくれっ!」
「そこは普通に食べちゃうんだよな・・」
「あ、奥さん、座って下さい。俺らがやりますんでっ」
「あら、ごめんね」
「だぁーだぁーっ」
「お肉はまだ早いぞい?」
「チェルシ、マシュマロ焼いていい?」
「ケムは焼きソバを所望する・・」
ワイワイとバーベキューを楽しんだ俺達だった。そして・・
午後、転送門を使ってグリーンベース2からスプリングウッド町に戻った俺達は、銀行で金をおろし、再び水瓶亭2階の俺の部屋(狭い)に集まった俺達タクミ隊は、『最終的な会議』を開こうとしていた!
テーブルには集めに集めた1600万ゼムの札束が積み上げられていた。ミティだけでなく、マティとピティも部屋に来ているっ。
「・・役場の手続きも考えると、夕方にはギルドに手付金だけでも支払わないといけないし、そうなると後戻りは難しくなる」
俺は腕を組み、閉じていた両目をカッと開いた!
「ここで改めて、ハッキリさせようじゃないか! あのボロ家をっ、ホントに買うのか買わないのかっ?!」
俺は、議論の口火を切ったっ!!!!