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4話 取り立て屋、タクミ隊 1

借金回収を決めた翌日、取り敢えず俺は冒険者ギルドでボロ屋が売られるなり取り壊されるなりするのを手付金無しでも3日だけ待ってもらい、ついでにスプリングウッド町の役場でギルドでは詳細がわからなかったボロ屋の資料をもらったり、固定資産税や雑木林の扱いについて確認したりしてから、パンケーキ屋で仲間達と合流した。

他のメンバーは事務系の手続きとか全員嫌いだったからさ。俺も別に好きじゃないけど・・


「ふぁ~、あんまり来たことないエリアだぁっ」


「ケムケム!」


今日もミティだかマティだかピティだか区別はつかないが、回転蟲(ケムシーノ)の幼虫を頭に乗せているチェルシがポカン、と口を開けて言う。

俺達はスプリングウッド町の歓楽街に来ていた。スプリングウッド町は人口こそ7千人ぐらいあって多い方だが、どうってことない田舎町だ。観光地でもない。

それでも北の大都市カシナート市と南東の大都市パピヨンダガー市のちょうど中間にある中継地で、飛行船の空港と、テレポートできる転送門(てんそうもん)の発着駅の近くにはそこそこ発達したホテル街と歓楽街がセットであった。


「よーしっ! 120万ゼムっ。ビシっと回収してやるぜっ」


勢い込むレン。相手は前、率いていた隊のメンバーらしい。


「大丈夫? 俺はたまたますぐ返してもらえそうな相手だったから昨日は言ったけど、120万は大きいよね?」


一般職の平均月収は35万ゼムっ。120万ゼムは急に返せと言われたら犯罪を助長しかねない額だっ!


「大丈夫! あの兎女(うさぎおんな)っ、今、すんごい稼いでるからっ!」


レンはズンズン歓楽街を進んでいった。


「金はともかく、デリケートなとこあるレンの個人的な人間関係には踏み込まんよう気を付けるぞい?」


コッチ先輩が小声で言ってきたので俺とチェルシとチェルシのケムシーノは頷いた。




「いーやーだぁ、ねっ!!」


まだ昼間だから素っぴんに、劇団員みたいな地味な平服の上にブランドのゴージャスなショールを羽織った兎型獣人族(ワーラビット)の女が、高級クラブのソファに座ったまま煙管片手に唸るように言ってきた。

元冒険者、職業は剣士、レベル15。『サリサリー』だ。実は俺ともギルドの教練所の同期だったりする。まぁサリサリーは『派手な女子グループ』にいたからあんま喋ったことないけど・・。


「サリサリー! 金返せよっ。店のナンバー3になったんだろっ?!」


「今はナンバー2だっ。間違えんなよ、レン!」


「3でも2でもどっちでもいいっ! 金返せっ」


「・・来月から分割で払ってやんよ? 今月は、今、激推ししてるホストの子が『3人』いるから、無理」


サリサリーさん?


「3人は多いだろうがっ! 2人にしとけよっっ」


「はぁっ? 属性が違うんだよっ?! 小悪魔弟タイプ、オラオラしてるけどあたしだけには弱み見せてくれるタイプ、インテリだけどちょっとSっ気あるよねタイプっ! まんべんなく育ててんだよぉっ!!」


サリサリー、教練所でファンクラブあったんだけどな・・。


「欲張ってんじゃねーよ! 『舐められたくないけど、ヒモに金持ち逃げされた』って言うから貸した最初の衣装代っ。今、返せっ!!」


「ぐぅっ・・厄介客だよっ、皆! やっちまいなっ!」


「合点です! サリサリー姐さんっ!!」


追い込まれたサリサリーは店の『男衆(おとこしゅう)』をけしかけてきたっ! ・・いやいや、レベル15あるんだから君1人の方が強いでしょうに?


「上等だぁっ!」


レベル16モンクのレンは素手の猛烈なジャブパンチ連打で軽く強面の男達をノシてゆくっ。


「こうなると思ったよ・・」


俺もまぁ向かってきた相手は手刀で昏倒させていった。


「危ないよぉ?」


「ケムんっ!」


チェルシもレベル12の職業『怪盗』で近接結構強い。身軽に立ち回り肘打ちと蹴りで昏倒させてゆく。ケムシーノもスキル『スピンアタック』で回転体当たりを顎に決めたりして善戦してる。

そしてコッチ先輩は・・


「ホイっと」


何気なく指先でチョンっと突いて、男達を次々と昏倒させたいった。コッチ先輩はレベル24の職業『狂戦士』で、もうちょっとちゃんとしてたら田舎のギルドの支部マスターくらいなら普通になれるクラスだからね!

俺達、あっという間に店の男衆を全員ノシてやったよ。


「くっそぉ~~っ! レンっ、コッチ教官連れてくんのズルいぞっ?!」


冷や汗をかいてるサリサリー。

レンはサリサリーの前のテーブルを片足で踏み割って迫った。


「コッチ教官はウチらの隊のメンバーだ! サリサリーっ、貸した! 金! 長い耳揃えてっ、返せっ!!」


「う~~っっ、タクミと、誰だあのチビと虫? ・・・はぁ、わかったよ。払えばいいんだろ? というか、壊したテーブルとか弁償すんのあたしだかんなっ?」


サリサリーは観念した。



少し日が傾いてきていた。

渋い顔で銀行から出てきたサリサリーはスカーフで包んだ物をレンに渡した。中の札束を確認するレン。


「うん、あるね」


「必要なの100万だろ? 20万だけちょっと待ってくれよ? ホストの・・インテリSキャラの子が本命なんだけど、最近隣の店の女が凄い捲ってきてさ、あたしも負けらんねぇっ、つーか」


往生際悪しっ。


「サリサリー。しっかりしろ」


真っ直ぐサリサリーの目を見るレン。サリサリーはワーラビットの長い耳を忙しく動かし、そっぽ向いた。


「・・あーあっ! せっかく築いたあたしの牧場っ。解散解散っ!」


ショールで自分を強目にくるんで立ち去りだすサリサリー。


「サリサリー! あんた、ウチより才能あったよっ。模擬戦で1回も勝てなかった!」


「才能?」


立ち止まるサリサリー。


「あたしの家は代々剣士。でも男が生まれなかったから、子供の頃からあたしは毎日ゲロ吐くまで親父に鍛えられた」


毛皮と肉球の向こうにまだ残っている剣タコを見詰めるサリサリー。右手の小指等は鍛え過ぎて少し骨が曲がっていた。


「レン。あたしはね、もうドラゴンとか、ゴブリンとか、どっかから涌いてくるわけわかんない悪党とかと戦わないんだ。長続きしなくてもいい。あたしは今夜! 華やかに美しくありたいっ。それで満足! ついでに120万くらい、速攻で稼いじゃうけどねっ」


サリサリーは振り返ってニッと笑ってみせ、歓楽街へと歩き去っていった。


「サリサリー・・」


俺とコッチ先輩とチェルシとケムシーノは顔を見合せた。


「オホンっ!」


俺はわざとらしく咳払いをした。


「何っ? タクミっ」


振り返った少し涙目のレンの視線が超尖ってるっ。怖っ!


「なんにせよ、レンの分は回収できたということで、ちょっと夕飯には早いけど、今後の作戦会議も兼ねて豚骨ヌードルの店にでもいかないか?」


「脂ギトギトの物を食べるとスカッとするぞい?」


「血圧、上げようよ! レンっ!」


「ケムんっ!」


「・・・ま、いいけど。ヌードルくらいならウチが奢る。今、お金あるから」


「おーっ!!」


「御大尽様じゃっ」


「レン様ぁっ」


「ケムケムっ」


無事、ミッションを1つ果たした俺達タクミ隊は、ここらで一番美味しい豚骨ヌードル店を目指し出発したのだった。

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