3話 購入資金を確認しましょう。 後編
「ちょっと待っててくれよ?」
ガラスカバー付きのランプの灯った部屋の前の廊下で3人をとどめ、俺は素早く部屋に入り『この速さなら下位飛竜2体はソロで倒せる!』という神速の手際で中を片付け、廊下に戻った。
「ふうっ、軽く掃除が済んだから、どうぞ?」
「『変な本』とか隠してたろ?」
「変な本じゃろうなぁ」
「変な本なのぉ?」
「ケムっち、な本っ」
疑惑の視線!
「違うよっ?! はっ? 掃除しただけだしっ。早く入ってくれる?」
余計なことばかり言う仲間達を俺はどうにか部屋に入れた。
「狭っ! ウチの屋根裏部屋より狭いぞっ?」
まぁワンルームだよ。トイレと洗面所は共同。風呂は水瓶亭が提携してるサウナがすぐ近くにある。1階は酒場だし、こんなもんさ。家賃は月、4万ゼム。安い。長期契約者はサウナと酒場の割引も利く!
「ここには寝に帰るだけだよ。椅子も1つしかないから、えーと・・チェルシ以外はベッドに座ってよ」
3人をそれぞれ座らせ、俺は棚からポットとカップとハーブ茶を取り出し、給水タンクの水も使い、加熱石のコンロで湯を沸かしてハーブ茶を淹れた。
ピティには保冷箱から小さな蕪を1つ取り出してやった。
「さて、あのボロ屋、マジで買うなら780万だ。リフォーム代や雑木林云々も考えると1500万は総額はいると思う。分割も、可能だろうけど・・。なんにしても! 全員の資産、話せるかい?」
通常、隊を組んでも個人資産にまでは早々踏み込まない。だが、共同で家を買うとなれば話は別! どれくらい、本気の話なのか? ということさ。
「ウチは購入に出せそうな金は300万ゼムが限度!」
お、あっさり言った。
「ワシはギルドの補完庫に預けてる、使わない戦利品やらなんやらを売れば400万ゼムにはなると思うぞい?」
貯めてる! 賃料浮かす、アドレスホッパー貯金っ?!
「チェルシはねぇ・・330万くらい!」
活動期間短いが、さすが実家暮らしっ! 貯めてるぅっ。
「・・皆、言っちゃうんだな。俺も400万ゼムくらいだよ? ソロでコツコツ素材集めするのわりと好きだったから」
「暗っ」
「なんか言った?」
キッ、と睨むとレンに知らん顔された。
「ま、いいや。買うとしたら今だと1人300万だろうね。というかレンは300きっかり大丈夫か? 保険とか」
レンの職業は『モンク』基本的には前衛職でリスキーだから保険料は高めだ。俺もだけど。
「フフン、余裕持って300万ゼムだぜ? 屋根裏部屋、人気無いから家賃安いんだ」
なるほどね。
「ふーん。じゃ、仮に300万ゼムずつだとして、ちょっと足りないよね? 皆、人に金を貸してる、とか? なんか当てある? 俺は100万ちょっと貸してんだけど」
「ワシも実は150万ちょっと友達に貸しとるの・・」
「ウチもまぁ、120万くらい貸してる・・」
「チェルシは200万ゼム貸してるよ・・」
「ケムん?」
3人とも、チェルシまで! 擦れっ枯らしの劇画調の顔付き変わってしまったっ。開けちゃダメなドア開けた??
「うん、その・・回収できたら100万ゼムずつで少し余裕を持って買えそうではあるけど、正直、狭くはなるかもだが、中古の分譲物件とか」
「嫌だ! どうせ大枚はたくならのびのびしたいっ!! プールも造ろうぜっ?!」
「ワシも、これを機会に長年なぁなぁにしてきた人間関係を正そうと思うぞいっ」
「チェルシの200万ゼムっ! 回収するっ!! アイツぅっ! 騙されたんだよぉっ!!」
「ケムーっ!!!」
「・・・」
微妙に主旨の屈折が見受けられるワケだが、俺達は取り敢えず次の目標を『債権回収』とすることが決まった。
まぁ俺も、そろそろ金返してもらおうとは思ってたけどさ・・




