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10話 リフォーム編っ! 2

「ここで最後じゃの」


「出なかった、よね?」


俺とコッチ先輩とチェルシとケムシーノ達は周囲の窪地の水溜まりを全て木屑で埋め終えた。

全員で固まって行動したが、森の精霊(ドリアード)は何も干渉してこなかった。


「暇潰しくらいのことでリスクを取りたくない、とか??」


「ケムん?」


「特段『邪悪』という記録は無いようだがの?」


「ミロが来たら、ギルドの調査部に話を通すよう頼むよ。取り敢えず補助無しのまま単独で林に入るのは当面控えよう」


切り上げて雑木林から出た。ほんとは発酵臭対策に木屑を撒いた場所に木灰なんかも撒きたいんだが、保留だ。


「疲れちゃうから魔法、解くよぉ?」


「うん、助かったよ」


チェルシは念の為に全員に掛けてもらっていた魔力耐性を高める『レジストサークル』の魔法を解除(魔力に反発したりすると円状の魔法式が可視化する具合)して、魔力活性剤(エーテル)を飲みだした。


「少し作業が遅れとるぞい?」


「だね! よし、チェルシとケム達は屋根の仮補強と撥水シートを被せてくれ。シートは後で俺が運んどく」


「りょうか~い」


「ケムケム」


「ケムんっ」


「俺とコッチ先輩は壁と柱周りの仮補強済ませちゃおう!」


「うむ、昼までに済ますぞいっ」


俺達は改めて作業に取り掛かった。



・・専門家じゃないが、一通りの大工作業はできる。特にコッチ先輩は年季が入ってる。何より体力は一般人の比じゃない! ケム達の作業効率の高さも侮れなかった。

無事、昼までに作業ノルマを終え、屋根も撥水シートですっぽり覆われた。皮製の方が水を弾くが高価で重く通気性も悪いのと、買い取りになるから、麻を加工した物を被せてる。

とにかく午前の作業は終わったので、3人とケム達で結局少し早めになった昼食を食べていたが、


「ごちそうさま!」


コッチ先輩は早々に切り上げ、テントの資材置き場へ向かいだした。


「コッチ先輩~、もういいの?」


「うむ、レンが戻って来たら気にするじゃろうから、チェルシが探知した残ってる虫の卵を殺虫剤で始末しておくぞい。薬のガスがそっちに行ったら風を起こして払っておくれ」


コッチ先輩はマスクとゴーグルと噴霧器を装備した。


「あ、オレもやりますっ」


立とうとしたが、


「道具は一組だけじゃからいいよ」


「あ、はい・・」


ぼんやりしてた。コッチ先輩、作業系はテキパキしてるんだよ。なんか悪いなぁ。


「頑張って~」


「ケム~」


コッチ先輩は確かな足取りで仮補強済みのボロ屋へと入っていった。見た目は完全にベテランの業者の人っ。


「殺虫剤はケム達にも悪いだろうから、終わったら念入りに風で払って拭き掃除もしよう」


「わかったぁ」


「ケムぅ!」


残った俺達は昼食を続け、そろそろ片して作業再開するかという辺りで、俺が枝打ちしたボロ屋への林道の向こうに気配を感じた。

ゆっくり近付いてくる。チェルシとケム達は気付いた。

荷物を乗せた子馬くらいの気配。いや人が乗っている。子馬くらいのモノに小柄な人が乗った気配。・・知っている気配だ。


「ミロだな。驢馬(ろば)かなんかに乗ってる」


「うん、早かったねぇ」


程無く林道から驢馬ではなく騾馬(らば)に乗ったミロが現れた。辺りとボロ屋を見て目を丸くしていた。


「ミロ! お疲れっ」


「ドーナツあるよぉ?」


「タクミさん、作業は今日からですよねっ? もうここまで進めたんですか??」


騾馬に乗ってポクポク近付いてくるミロ。鞍の背に何やら防水シートでくるんだ機材を積んでいる。


「俺達、中級冒険者の隊だぜ?」


得意気に言ったが、ドリアードの件を話しておかなくては!


「それよりミロ、祠のドリアードなんだが」


「ああドリアード! こちらで古い資料に当たってようやく少しわかりましたよ? このスプリングウッド町の前身、『桜郷(さくらごう)』を守護する精霊であったそうです」


「おお・・」


切り出しそびれた。調べてくれてたんだ。


「いつからスプリングウッドと町の名が変わったかについては諸説ありますが、桜郷は400年程前にこの地にあったボックル族の小さな隠れ里だったそうです」


「チェルシやミロちゃんの御先祖?」


「ケムぅ?」


「かもしれません。・・ドリアードはその里に祀られていたようです。やがて戦災難民や行商、当時の冒険者達等がここに集まりだし人口が増え、桜郷からスプリングウッド町に発展したと」


ボックル族の桜郷やドリアードに関することはともかく、スプリングウッドの町の成り立ちはなんとなくは伝わっていた。『小さな森の里に少しずつ人々が集まり、スプリングウッドとなったのです』くらいの大雑把な物だったけど。


「現在の町の守りは魔除けの城壁等で行われているので、時代と共にドリアードの祠は役割を失って忘れられていったんでしょうね」


「そう、なんだ・・」


チェルシとケム達と目配せをして、騾馬の上で分厚い紐綴じメモ帳を取り出してまだまだ予習した蘊蓄(うんちく)を語り続けそうなミロに俺は今度は先制した。


「ミロ、実は俺と、ケムの1人がそのドリアードにさっき襲われそうになったんだよ?」


「ええっ?」


「いや、襲われたというか、正確にはちょっかい掛けられた、って感じなんだが」


「ケムも驚いた」


「そうですか・・そういったことでしたら、少々残念な気もしますが、『桜郷のドリアード』の討伐の手配を」


討伐というのは早計な印象があったから、まずはギルドの調査部に本格的な下調べを、と訂正しようと思ったその時!

前触れ無くっ、雑木林の茂みから多数の『木の触手』が爆発的に噴出してきて、俺達とミロも騾馬ごと捕らえ、猛烈な勢いで雑木林の中に引き込みだしたっ!


「きゃああっ??!!!」


「もごごっ??」


「ケムんっっ」


「ケムっ」


「不覚ケムっ!」


「マジかっ!」


チェルシは腕と口を塞がれ魔法の詠唱ができず、俺も手足に何十にも触手を巻き付けられ、身動き取れなくされたっ。騾馬もギュウイィッ! と悲鳴を上げている!

一度脱出できたから『家の敷地内は安全』という思い込みがあった! くそっ。レンはまだ暫く戻らないっ。コッチ先輩は異変やミロの悲鳴に気付いてないのか??

なんにせよ、俺達へ猛烈な速さで雑木林の一点に吸い寄せられていった! 木々の向こうに枯れかけた桜の木と一体化したようになった、苔むして崩れかけたチェルシの背丈くらいの石の建造物が見えたっ。ドリアードの祠かっ?!


「くっ、『マナ・レイ』っ!」


実戦で使うのは半年ぶりくらいの(教練所で攻撃魔法が必修だったので覚えたが、刀があれば通常は不用っ!)熱線魔法を放ち、過ぎ行く木々のなるべく広範囲に焼き付けた傷を付けた。

ドリアードの雑木林の木々への干渉力がどれくらいかわからないが、一筋でも残ればレンかコッチ先輩が追う手掛かりになるはずだ!


「ぶつかりますっ?!」


「もごぉっ!」


「ケムよ、さらばっ!」


「いやっ、『中』だ!」


崩れかけた祠の正面に桜の花弁が逆巻く波紋のような空間の歪みが生じ、俺達はその中に引き込まれていった・・。



気が付くと、俺達は奇妙な妖しい燈の灯る夜の街にいた。そこら中で仮面を被り奇妙な扮装をした人々が歩き周り、大道芸をし、あるいは同じような扮装の人々が開いている屋台で売っている飲食物を飲み食いして楽しげに歓談していた。

種族も様々、老若男女いた。あちこちにケムシーノも多くみられたが、頭部等に桜の花を咲かせていて『リーフケムシーノ・亜種』のようだったが、一様に目が据わっていて様子はおかしかった。


「ここは、内部? ドリアードの『異界(いかい)』か??」


「ケムが呼び掛けても、リーフケムシーノ達に言葉通じない・・」


「ケムぅ?」


「この空間の摂理と一体化してるケム」


俺とケム達が困惑していると、


「ミロちゃんいないよ?!」


「あっ」


そういえば、ミロとその騾馬の姿がなかった!


「チェルシ、補助魔法!」


「うん・・レジストサークル!」


チェルシは俺達全員に魔力耐性魔法を掛けた。


「そんなに広い異界を造れるとは思えない。中心に向かおう」


「大丈夫かなぁ?」


「殺すつもりなら林の木々にぶつけまくるだけで殺れたはずだ。少なくとも対峙するつもりはあるんじゃないかな?」


「う~ん?」


この場で考えて結論の出る疑問でもなかった。俺は『ナマクラ・改』をチェルシは『飛燕(ひえん)』を手に、俺達にまるで構わない祭りの最中らしい仮面の人々の波を避け、不気味な程静かにしているリーフケムシーノ亜種達の姿が目立つ、建物の屋根伝いに中心と奇妙な街の中心に見える、光を目指して進んでいった。


「桜だ」


「綺麗、だけど、ちょっと怖いねぇ」


広場になっていた奇妙の街の中心には妖しく輝く満開の桜の巨木があり、その歪んだ幹にめり込むようして固定された長椅子の玉座に、桜色の道化染みたドレスを来た、人と変わらない背丈の、しかし背に4枚の蜻蛉の羽根のような翼を生やし、それを柔らかく畳んでいる美女が、しなだれ掛かるように横になってクッションに身を預けて煙管を吸って煙を吐いていた。

固有の特徴が強いが、ドリアードの進化種『森の上位精霊(ハイ・ドリアード)』だ!

幹の根元には騾馬が花咲く桜の木の触手を身に纏って跳び跳ねて踊り狂い、近く鞍に負っていた機材は桜の触手まみれで『花の塚』のようにされ、その塚に埋もれるようにしてミロが座らされて眠っていた。

桜の巨木の周囲には奇妙な扮装の楽団がグルグルと踊りながら奇妙な音楽を奏で、ハイ・ドリアードを際限も無く讃えていた。

よく見れば桜の巨木の枝には無数のリーフケムシーノ亜種達が潜んでいる!

これは、『城』だな・・。


「ミロちゃんだ! 騾馬ちゃんもっ」


「ケムんっ!」


どう考えても完全に把握されている。奇襲は不可能。ハイ・ドリアードのレベルは30前後っ! コッチ先輩でも単騎じゃ勝てない。それにこの状況・・腹を、括るか。


「チェルシ、ケム達。交渉だ。油断はしない」


「・・わかったよぉ」


「ケムも覚悟を決めた」


「覚悟の(とき)っ!」


「まだ幼虫だが、スリリングな生涯であった・・」


俺達は屋根から飛び降り、演奏も踊りも止めて道を開けた奇妙な楽団の間を抜け、ハイ・ドリアードと無数のリーフケムシーノ亜種が見下ろす幹の前に進み出た。

騾馬は引き続き踊り、ミロは桜の中で眠っている。

煙を吐きながら、眠そうにこちらを見下ろすハイ・ドリアード。

俺はさら1歩進み出た。


「桜郷のハイ・ドリアードさんですね! タクミ・オータムゴールドと申しますっ! 引っ越しの挨拶が遅れましたっ」


「・・桜郷、懐かしい呼び方ね」


ハイ・ドリアードはクッションから身を起こした。


「あたしはハイ・ドリアード『イブキ』、ここはずっとあたしの森。わかる?」


「そう・・・・ッスねっ! ハハっ」


取り敢えず笑ってみたが、どうだ? 交渉いける感じか??


「ここで暮らす人のごとき者どもは、年月の中、この地で落伍し、滅びた者達ばかり。生きてる内に苦しんだのだから、ここではいつまでも、楽しませてあげている。わかる?」


この街の住人、全部死霊で支配下かっ!


「寛大ッスねっ! イブキさん。ハハっ」


「ところで・・」


ハイ・ドリアード、イブキは目をスッと細めた。


「お前達はあたしを『討伐』するんだって?」


「いやっっ、違いますよっ???? ねっ? チェルシ君っ?」


「・・うん。チェルシ、喧嘩しないよ?」


チェルシは一対の飛燕を腰の左右の鞘にしまい、俺より前に出た。たぶんマティが跳んでチェルシの頭の上に乗る。


「喧嘩しないから、ミロちゃん達返してほしいんだ。『イブキおばさん』っ!」


ちょっ?!


「おば、・・さん??? っっっ!!!!」


ハイ・ドリアード、イブキは凄まじい魔力をはらんだ桜吹雪を周囲に巻き起こし始めたっ!!


チェルシぃ~~~~っっっ?!!!!!

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