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吸血鬼譚。但し『ドラキュラ』以降を除く  作者: 萩原 學
さまよえるオランダ人
9/19

『さまよえるオランダ人』再び

ハイネの小説に基づくワーグナー『さまよえるオランダ人』タイトルロールは、第1幕第2場で登場する。その時「7年ぶりに」云々というから、何で7年と思っていたら、『70年』をハイネが間違えたか書き直すかしたらしい。ハイネが70年と書いていれば、『さまよえるユダヤ人』そのものであったのに、見え見えなのは嫌だったのか。

さまよえるユダヤ人ヨセフは、救い主イエスを侮辱したため死ぬ事も許されず、100歳を迎える度に主が昇天された当時の30歳に戻される。つまり70年に1度、それまで生きた年月を無かったことにされてしまう訳である。これは主の再臨を待つための「一時的な措置」に過ぎないのではあるけれど、お戻りが何時になるか解らない以上、実質的に「永遠の生命」を授かったのと変わりない。大体、救い主イエスその人がワインを配るに当たり「飲め、これは私の血である」と称したばかりに、今に至るまで「聖体拝領」なんてやっているのだから、吸血鬼なるものの淵源などもはや語るまでもあるまい。

小説の舞台はアムステルダムとされ、当時のアムステルダムにそんな上演記録がないためハイネの創作とされてきた。しかし「さまよえるオランダ人」はイギリスで流行った話であり、ハイネはロンドンへ旅行したことがあり(1827)、その繁栄ぶりに圧倒されながらも批判的であった。

作者不詳『ヴァンダーデッケン望郷の便り』(1821)から6年、「オランダ人」の舞台くらいは出ていたのか。ハイネはロンドンで観た舞台の印象を書き留め、これを自らの小説に持ち込むに当たり、ネタが解るように「アムステルダム」としたのであろう。マリアット『幽霊船』(1839,未訳)はやや遅れるので、そちらから救済のモチーフを持ち込んだのではなく、逆だったのか。

つまり「さまよえるオランダ人」登場の舞台はノルウェーではなく、ロンドンとすべきだったのだ。どうやらカール・マルクス同様にロンドンへ反感を抱くハイネにしてみれば「此奴も解っちゃいねえな」という心境だったのではないか。せめて「7年」ではなく70年にしておけば、その吸血鬼ぶりもより際立ったであろうに。


等と細々した瑕疵もまだまだ多い『オランダ人』ではあるけれども。ワーグナー初期の勢いがあって格好良いオペラなので、文句を言いつつもつい聞き入ってしまう。ところが、これに限らずオペラの録音など売れないのか、次々と廃盤になっていくのは寂しい。これも時代の流れであろうか。

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