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吸血鬼譚。但し『ドラキュラ』以降を除く  作者: 萩原 學
さまよえるオランダ人
7/19

Flying Dutchman とは

ずいぶん今更ながら、「さまよえるオランダ人」とは誤訳だったかもしれない。だいたい Flying とは、「飛ぶように走る」ことの称号であり、例えばフィンランドの運転手はフィンランド・ラリーに於て飛ぶように走るというので、『フライング・フィン』と呼ばれる。ボルボが競走自動車を出したときは、煉瓦のように四角い癖にやたらと速いというので "Flying Brick" と称された。スコットランドの高速列車は "Flying Scotsman" と命名され、これなど完全に意識してのものであろう。我が国に於ても蒸気機関車による旅を、唱歌で「畑も飛ぶ飛ぶ 家も飛ぶ」と習ったのが懐かしい。KLM オランダ航空に至っては、これを宣伝に使い「伝説が形に!」なんてポスターを作った。当時はフォッカー社の機体を使っていたので、フォッカー共々、我こそは "The Flying Dutchman" なりと誇りにした訳である。挿絵(By みてみん)

そうしてみると元来、Flying Dutchman に『幽霊船』の意味合いはなく、「飛ぶように走るオランダ人」と快速を誇る船だったのではないか。ならば、幽霊船になる元の名でもおかしくはない。あまりにも幽霊船として有名になったので、The Flying Dutchman はほぼ『幽霊船』で通用してしまうけれど、この物語がなければ、栄えある船名として伝わったかもしれないものだ。

「さまよえるオランダ人」と訳してしまったが為、わかり易くはなったし、ワーグナーのオペラにはぴったりな表題ではあるものの。そんな快速船が呪われて港へ入れないまま、いつまでも港の沖合から離れられずに居る悲哀は、実感し難くなってしまっていないか。翻訳とは中々、上手い具合には行かないものだ。


『飛ぶように走るオランダ人』号は明らかに遠洋航海用の大型帆船で、乗組員は当時有数の高給取りだった筈。では、その給料は何処へ行ったのだろう。後世の印象は「呑む」「打つ」「買う」ばかりが先行するけれど、『ヴァンデルデッケン望郷の便り』を読んでみると、実際には家族へ送っていたようだ。まあ、それはそうか。船乗りも帰るところがあって、その為に働いていた訳だ。

商家の叔父以外に親類のない航海士、妹を着飾ってやりたい外交員、実は結婚していたヴァンデルデッケン船長。神も悪魔も恐れない傍若無人な船乗りに見えたヴァンデルデッケンが、妻となる人に愛を囁いていたのか。そんな細やかな気配りができる船長だったから、船員たちがついてきたのか。

この話自体は創作にしろ、大航海時代から今日に至るまで、船乗りは家族のために仕事を続け、仕事として世界中の海で、積荷を運んでいるのだ。船乗りだからといって、ロマンスが有り得ないなどということはあるまい。

ワーグナーの『さまよえるオランダ人』は、今日の社会習慣からすると理解しにくいところも多いけれど、二度と戻れないかもしれない船乗りに、生活習慣なことを日常感覚で言う我々の方が、歴史的にはおかしな存在かもしれない。

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