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吸血鬼譚。但し『ドラキュラ』以降を除く  作者: 萩原 學
その他
18/19

天翔る公妃 "The Flight of the Duchess" by Robert Browning(1845)

ロバート·ブローニングのこのバラッドに、吸血鬼の存在感はないのだが、Woolford と Karlin の注釈ではコールリッジ『クリスタベル姫』の影響を指摘して

In both, a lady living in a castle is bewitched by an ambiguous outsider, and alienated from her husband/father.

という。また、明確にしないものの、舞台はモルダヴィアの隣国であるワラキアかトランシルヴァニア何れかのように読める。『ハーメルンの斑な笛吹き』でもトランシルヴァニアへ行ったように書かれていたから、詩人にとって東欧は魔法の地に見えていたようだ。

I.

そなた我が友よ。

是なるは、かの公爵の話し相手だった者。

彼のくびきを外す公妃を助けたことも。

ゆえ、始めから終わりまで、ここに語ろう、

心ゆくまでも!


II.

我等が国の大いなることは。

我等が城を上り詰めれば、

見渡す眼の止まる処を知らず。

穀物畑一帯を通り過ぎては、

ワイン畑を離れるや、モコモコ達の詰め合わせ、

羊の囲いに続くは牛の放牧場、

牛の放牧場から狩り場、

狩り場からあの山の裾

その山では葬送の歩調で、

巡り歩くは、しめやかしなやか

1歩1歩、1列1列、見上げれば

松の木並んで生え伸びる、

まるで黒衣の司祭が立ち上がる、

今度は反対側を下ると

別の大きな、荒野のさとあり

広大な赤褐色のわびしい平野、

貫くは何度も枝分かれした鉱脈

そこには鉄の採掘場、銅の処理場。

右見て、左見て、前を見よ

下で採掘、上で精錬

銅鉱石と鉄鉱石の

鍛冶炉、鋳物炉、溶融炉

その他諸々、挙げればきりない

最後にすると、境界線の辺りを

〆る、白砂と潮は大いなる海岸に。

してこの全体まるまる公爵の国!


III.

私が生まれたその日に今の当主もれまし

(歌にしてみれば、もはや今は昔!)

先代の公爵在らせられたその城内に

(私が幸せで若かった日々、今は昔!)

私は小屋に、彼は塔に。

我等にとっては1年も1時間に。

その頃の我が父は猟師だった、

父が口を利くのを聞いた人は無かった、

それが、猪1頭湾に襲来したときだった

5度のうち3度か4度までも、

狩猟槍でやっつけてしまったとか

その止めを刺した傷追うと、

文字通りに眉間を穿つらぬいていたとか?

ゆえ老公も、失うを恐れたは

塩田よりも、我が父だったとか

いつでも呼び出せるようにしていたので

その時も父が広間に立っていた訳で

老公が赤子を抱えてきて

人々に見せようと、そして進むに従い

不思議な幼児がまとわりついて、

外の喧騒最初の始まりだった

皇帝の使者がラッパを吹いたは

赤子生まれてちょうど一月。

「して、」廷吏がのたまう、「跡継ぎ

公爵が得たからには、我等が王子

公爵自身は側仕そばづかえにとお望みだ。」

公はうつむき、たじろいで見えたが

世界中の戦争に思いを馳せた

燃える城、行進する者共に、

倒れる塔、崩れる緑門に。

やがて顔を上げ、しばし目をやって

居並ぶ紋章や盾や旗の(たぐい)

有り余る功績に対するねぎら

御意ぎょい、」と公爵、傲岸に苦味走って。

死んだ方がまだマシと言わんばかり

その次の年の暮れ、天鵞絨びろうどに身を包み、

その手に金箔手袋を、足に

絹の靴下、革のブーツ履き、

伝令官よろしくコート下まで着けて。

控えの間の隣の小部屋に

付き添いと花婿の息が吸えるほど間近に。

嫌な臭いと称したは、香水だったが

遇さるべきは「赤毛のベロルト」として

気狂いじみた誇り高さは取扱注意、焔同等!

気づくべし、若々しく日焼けした彼の頬に

当たった事か、今日のように麗しき日の光!

その拳に止まらせるは、ゴツい脚した小長元坊!

(聞け、風は荒野に吹く、戯れ為さんと!

乃ち、気高きラナーハヤブサに

各々の広い翼を横断幕宜しく繋げと、

風を受けて飛び回り、炎のように踊れと!)

ベルリンからの白ビヤ樽は開けたやら

混じり気ないワインの方がお好みなら

松を見たとき、唇に押し付けてやるがいい、

我々手持ちのモルドヴァ産上物を1杯。

例えばコトナリ、皐月さつきすいばのように緑色

そして甘く粘っこく。……これで1人も文句あるまい。


IV.

そして家には、背高く黄色い具合が悪い

公妃と、その腕に抱いたかの赤子残さる、

誰ぞ知る、神の知り給う娘なること。

そして今や、彼女の部族を再訪する時。

二人で外国へ、遠くへ行ったこと。

我等が民よ、罵り嘲るがいい

火も消えて空っぽの広間にあって、

好きなだけ大声で、しかし無駄に、どこまでも。

長い年月、我々は切望する事になった、

再び公爵と彼の母が帰ってくるのを。


V.

そして帰ってきた彼は最低の猿としか

人として取り得る形への侮辱としか

彼の旅の間中、自身を打ちのめしたもの。

言われるだろうか、我々の無遠慮な古いやり方を彼は嫌ったのだと?

──そうではない!パリではエルフと言われたもの

我等が北の荒地は歌の土地だったと、

酷い日々にも良い事の一つは残ったと。

中世とは英雄的の時代であったが、

我等のような荒々しい辺境にのみ、

依然その極上のものを味わえようかと。

そして見よ真の城、備えるは由緒正しき塔、

心溌剌たる女性、老獪なる男性を、

風俗礼儀は在りし日の如く、今もなお。

そんなこと、老公は全く知りもしないままやってきたし、

この当主は、知れば喜んだことであろうが、そうはならなかった。

自分の楽しみなどではなく、彼が見せてくれるのが楽しみ。

自分の誇りのためでなく、それを見る我々の誇り。

使い古された用法すべてを復活させた、

皆の魂煙吹き上げ、皆の心は引き裂かる。

競馬でも首位、その首は危うかったが

乗騎は痩せぎす、ひょろ長いばかりの脚、

走る骨皮筋右衛門、速いばかりで力なし。

……彼をも「赤いベロルト」とすべきだった

赤目はゆっくり火と燃える、

細い堅い耳は修道院の尖塔のよう!


VI.

さて、そんな彼ではあったが、結婚することになったと聞いた

そして修道院からは書状が届いた。

その貴婦人がやって来たのは春になり。

……今は昔の思い出ばかり、絡みついて離れない!

あの日、そうだ、誓約は1ダースもある

私が身を包んだは厚手の狩猟服

似合うはバイソンやらバッファローやらの追跡に

冬の間、マフラーやらが要る頃に。

しかし当主の考えでは、我等で人影見出さんと、

それで婦人の到着に会えたのだった。

いやしかし、これでは鶴でも大きく見えるぞと!

生きて動く最も小さな女性であった、

自然の狂気が成した一品というか、

小さ過ぎる身体から溢れんばかりの、

生命の謳歌は、ミツバチの巣箱か何かのよう

クマの手も届かない高い木にある

安心して陽気に飛び回る蜂で溢れる。

実際、彼女はあっさり喜ばせられる!

上見て、下見て、草地を回って、

城へ真っ直ぐ、それが最上全く以て

城壁の外から覗き込むには。

「農奴と奴隷」を象った我等としては

彼女の何も言わないまでも、私に何と感謝したことか。

(その目を以て、お分かりか?)

それと言うのは、私が彼女の馬を曳き、労ってやったから。

彼女挟んで向こう側のマックスが言うには、

来る途中に飛ぶ鳥なしと。が、彼女は尋ねた

アレの本当の名前はと、特に疲れた様子もなかった……

彼女見たのは鷲の旋回だったか、……

畑に見えた緑と灰色の鳥は千鳥であった。

時にいきなり公爵現れ、

彼女跳ね降り、小さな足は我が手の上に

非難がましく突っ立って

すると公爵、背骨も外れんばかりに

踏み出すというより脇に寄るように

有らん限りの笑顔で歓迎した。

気をつけよ、彼の母親はずっとその間

冷ややかに後に控えるは、北へ向かう風の如くに

そして上がる、疲れたあくびのように、滑車を以て

動いたは、錆びついた落とし格子、軋みを上げて。

空には悦ばしげに北風唸って、

動きを止めた貴婦人の顔、

その前髪灰色になったかのよう…

いつの日にか、そんな事もあろうとは言うが!


VII.

1日2日で彼女持ち直したは

誰が言ったか「気働きも程々に!」とは

「これは全くの冗談、向かうは神、その名乗りを

我こそは在りつつ有るものなり、と。

彼の目にある喜びを見よ、かく私は喜んでいると」

それで、最初のように微笑むに至ったものと。


VIII.

活発に引っ掻き回した彼女は

倦まずたゆまず燃える火の玉

石にさえ、生命を吹き込んだような!

(私とて、嘗ては愛したこともある)

羊飼いの、鉱夫の、狩人の妻のように。

(私には妻が居たから、解っていて言っている)

世界広しといえども、そんな人はまたと無い!

そしてここでは、手間仕事には困らない。

大から小に至るまで、彼女には出来た筈だが、

まったく何もさせられなかった。

既に是なる者が役職に就いて、

此奴は詰所に居り、彼奴は事務所に詰めるもので。

そもそも公の腹積もりでは嫁の役割など、よく言って

他の戦利品共々、見える所に飾っておくもので。

はや玄関の外に、また中に、

あるいは立ち、あるいは座って、見て、または見られ、

あるべき場所に、あるべき時に、

死が生を別つまで。

さぞ楽しまれた事だろう、それぞれの反則を

(そのうち悲しいことになっていたのだが)

全くの自己満足に聞こえる

若い公爵と年取った女爵に

彼女をして助言させ、批評させ

馬鹿になって、知者を育み

子供にするように、飴と鞭を使い分け。

自己満足を装い耐えたこと。

後に職人よろしく考案したは

車輪の動く絵、生きているような

喜ばしく考えるべきだった、それは彼を打つ動きであろうかと!

かく公爵見出した、彼の母も御同様。

貴婦人は拒絶されたものとは言い難い……

必ずしも軽蔑を伴うものではないが

呪われたにやにや笑いを以て、彼は頷き、拍手した、

襲い来る年取った母猫の爪を遠ざけた。


IX.

小さな貴婦人かくして何も言わなくなり、

どんどん痩せ青ざめていく、

秘めた無念を表すなりに、

しかし当主は、彼女病んだに気づくと、

心中ひそかに「これは我が忍耐を試せるものか、

だが我感じる、我が力の内に事を正せるものを!」

いや、罵るでない。かの老人は、もう長いこと

地獄にある、当主自身も……だから聞き分けよ。


X.

さて、秋の入り、冬の気配が最初に来たとき、

朝、クワガタ虫が彼の足に踏みにじられたとき、

水場が、薄い新しい氷の下から顕れる

日の出まで池に張ってた氷が、日射し受けるや

溶けていった、金色のさざなみ立てて、

次から次へと、だんだん速く、

目を回すほど、水面広くも波打って

その時ちょうど、我等が公の目に止まる

自問していた、この季節の楽しみといったら何かと、

気がついた、にぎやかにする事があると暦が教える、

四の五の言わず、中世式にやれば良いかと

ここはひとつ、狩猟大会でもぶちかまそう。

よくやってるし、古い本にやり方が載ってるし!

往年の詩人たち、語らんとした真意は?

かの詩人たちは言いたい事を言ったとき、

画家が描く絵をどうやって教え導いた?

立ち返らねばならぬ、より適切な方向へ

綴れ織りにした作品や、羽目板に描かれた絵

して寄せ集めたは代々伝わる匠の業物。

ここなものこそ我等が様々なる野心を満たす

それぞれの物に関して、詳しく述べると

——猟犬を奮い立たせるに最も相応しい鳴り物、

または鐙を着ける際の聖ユベールに捧げる至上の祈り——

我等一家が総出で考え、議論したもの。

祝福された背中が、きついチョッキで痛かった

その父親は、森林作業に実に慣れていた

より祝福された彼は、貴族的に声も沈めて「おう」とか

「ああ」とか漏らしつつ、先祖代々のパンツを身に着けるのだった

帽子に縁もなかったならば、何ほどの意味あらん、

ホタテよろしくあるいは前に、または後に傾けように、

はしけとなって海に務めることさえできように、

漆塗りを積み、紅で包まれて在らん?

だからかの4つ足も今や、短い韻を作るには、

猟師に勢子に森番と何でも御座れ、お望み次第で

ただの鉄砲打ちではない本物のマタギまで。

そしてせわしない時となったことか、公の仕立て屋は!


XI.

さて、最初のめまいした時を知らねばならぬ

フラップハットとバフコートとジャックブーツを給わって、

公爵はこう質問をした、公爵の役は承った。

「公妃はその仕事に於て、何か共にしておらぬか?」

かくして2~3人の証人の口からして

確かに全ての一致不一致を見出して。

そして、うち揃って雁首並べ

だれかの帽子によく目立つ羽根

勿体ぶった発表までして漸く彼は

やっと見つけたかの貴婦人の役目

古代の作家たちもこんな戯れ言誘う、

「角笛が合図を吹き、獲物が網にかかったその時に、

城の女爵をして、ジェネット馬を乗り切らせよう、

して水で洗わせよう、家来の両手を一息に

清潔な水差しの中で、きれいなタオルでも付けて、

彼女をして解体の場を仕切らせて。」

さて友よ、あまりに信仰薄過ぎたのか

鷹1羽を捕まえるには、ラナーハヤブサ少々も、

そしてその広い翼を旗印にすると

突っ込むは無作法なハトの鳥小屋。

そして毎日、又は毎週、

その爪を切り、その目を塞いだなら

その翼を絡げ、そのくちばしを縛ったなら

何程の大きな驚きに値するだろうか

彼女に空気を与えることに決めたなら、

彼女に少し準備が要ると分かったら?

……いや、おまえはそんな呪術師でなければならない。

もし彼女が馬小屋にしがみついたら、立腹のあまり持って行こうとしたなら?

貴婦人への態度を決めかねていた公爵だったが、

1日前になって、ここ1番の威厳を見せることにした。

彼女は参加するに当たり、なんと言う喜びに…

それが彼女の目は、大きく見開きまたたくどころか。

長いまつげを押し上げるがやっとのところ、

疲労に押し潰されながら、消えることもならずというように。

公の先見正式に認められたところで、

しかし彼女の健康が話題になり、憂慮さるべきものではと、

昼間の重みと夜間の様子を見てみると、

今やかなり乱れていた、正常であった筈のことが、

それで彼に対して、丁重に狩りを謝絶した。

その振る舞いは、嘗て無かったほど厄介だった?

すべての儀式が済まされて

タオルの用意、水仕舞

磨き上げたは馴染みの水差し

ジェネット馬もご登場、黒白斑で

黒い縞にクリームコート、薄桃色した目玉、―

公爵苛立たすも、まあたまたま

それでも彼女が固執したなら、──

どうやら、ここで告白の時か

女性の部屋が半分ほどは動くものと

バルコニーはどれもじ登るのが難しいものでない

さてヤシンスなる御付のメイドは、準備して待機中

外に呼ばれたままとは、何の関係があって必要?

ヒヤシンスは6月のバラのよう、つまりは情熱向かう先

ヒヤシンスの崇拝者にして、もちろんあなたの召し使い。

もし窓越しに覗き見の癖が彼女にあったら、

どうすれば保てたものか、確実に広い距離を?

それから是非言っておきたい、かの貴婦人の我慢強さを、

公爵は、口もきけない程の驚異に打たれ。

しばらくプスプス煙を立てて憤慨し、

やおら、恐ろしさを湛えた笑みを浮かべて

彼女を振り向かせたは彼の黄色い母親に

何事が礼儀正しく合法とされるか教われと

そして母親は血の香を嗅ぐ、猫のような本能を以て、

彼女の頬は速やかに白く、西洋カリンのチンキに染められ

哀れな貴婦人は真実丸ごと聞かされる羽目に、一度に!

何が言いたい?……彼女は何者?……その義務と身分や、

年寄りの知恵と若さ故の過ち、一度に。

然るべき敬意と適切な関係や……

そうだな、簡単に言えば、地獄の悪魔を全て解き放ち

其奴らを鐘楼で開く大宴会に招き

神官ども50部のカノンに任すとしよう。

それなら、彼女の舌がどれほど回ったか判るだろう!

どうにかこうにか修羅場も過ぎた

猫はヒゲをなめ、彼女は通り過ぎた。

そして彼女はその後、顔つき似せたは

皇帝ネロか、スルタンのサラディンのように、

付き纏ったは公爵その人にも厳粛な優雅を以て

古代の英雄か、現代のパラディンのような、

戸口から階段まで——至っていかめしく

真っ直ぐに立つ脊柱の屈することなく!


XII.

然は然り乍ら、我ら一同日の出に集まる、

そして此方に引き出しを指図する猟師あり、

そしてあちらに彼の紐付き帽子の下、勢子が怒鳴られる、

ウイキョウの枝よろしく湿った羽毛あるにより。

中庭の壁と来たらもう霧で一杯の

斧で丸太を切るように切りたいもの

羊毛は持て余す程の色と膨らみ具合で、

そして公爵乗り切ったは完全に膨れっ面で、

朝食の前、男はむかつきを感じないでもなく

下腹部に何だか嫌な感じがするような

一日を始めるに良くはない前兆か

そして見よ、彼がぎこちなく見回したとき、

太陽が霧へ突撃し、散り散りにした

此方と、そしてあちらは下の谷から。

そして、中庭にあるアーチの向こうに見えるのは、

谷を下って、彼に会うべきもの

ジプシーの一隊が行進しているのでは?

お歳暮が来たに違いない、彼をお祝いするものが。


XIII.

さて、この地に於ては、ジプシー此方へ至るは唯一、

他のすべての土地に行った後。

北へ行き、南へ行き、隊商を組み、あるいは単独で、

とはいえ遠く広く旅するのだから、

是非とも彼等引き留め、其処此処に跡付けよう、

この場所を、はたまたあの場所を、記憶に留めておけるよう。

しかし我等と一緒なら、彼等生えもしよう地面からでも、

見つけ次第これを取る、他のどこにもやらないから、

大地の色も漸く茶色くなったのだから。

出た、間違いなく、養殖する昆虫よろしく

餌にやるつもりの正にその実が。

大地には……望ましくない扱い方は控えて、

あの山の腹で大きくなった鉱石やら、

または、蜂の巣のような採掘場の砂やら、

それをふるいにかけて柔らかくし、焼いたり燃やしたりして……

彼らがあなたを迎え入れるか、例えば、馬の水勒すいろくはみ

枝が付いたら、暴れ馬でも御されるままに。

または錠前、監房の謎にして、選挙区に納まる。

または、仔馬の前足が内股になる癖があるなら、

槌の継手も回って蹄鉄が叩き込まれ

ひづめが縮こまるのは許されない。

それから法螺貝よろしく鐘を鳴らすこと

チリンチリンして牡羊の心を強く保たせんことと

砂の始末は……カワウソのように摘み上げては叩き。

なってもいいか、ジプシーのガラス職人か陶芸家に!

吹き作られるガラスは水晶の透明さの瓶底に、

かすかなバラ色の雲も現れようそこに、

まるで純粋な水に落として死なせたかのように

傷つき黒く血を流した桑の実。

そして別の種類の、彼等が冠る誇り、

内側にはっきりとした長い白い糸があり、

湖の花の根がぶわっと広がりぶら下がるように

そういう長いものを解き、決して絡まないように、

澄んだ水を大胆な剣ユリが切るところ、

そして庭白百合が白い娘たちと共に横たわるところ。

そんな彼らの手になる物はと言ったら

もとは鉄やら砂やらを回したり捻ったり。

そしてこれらが一隊を成し、公爵が突撃と見た次第で

谷の外から彼の城に向かって来たので、

男も女も、蜘蛛の子よろしく連れ立って

来たまえこの朝、我等が騎手に挨拶をして。

みんな緊張した様子だった、濠に着くまで

そこに全員停止した、魔女を除いて

それで私に判ったのは、彼女が1団の足を引っ張ったと

先ずは彼女の歩き方、次に前屈まえかがみな姿勢によって、

そう言えばヤシンスから、うるさく言われていたのだった

その当の魔女から、私たちの運命を教えてもらうのだった。

地上に在った最年長のジプシー、嘗てより。

秋の季節がやって来たのも、これで確定

彼女の訪問、我等への利益や娯楽がためと

そして毎回、彼女誓うは、これが最後と。

そして只今、見れば彼女にじり寄るまで

公爵の方へ彼の手綱に触れるまで、

その鼻先で突然、馬でも立ち上がったかのように

年取った魔女はじっと見上げてきたのだった

使い古された彼女の目にて、というか節穴で

今では役に立たない塩水の溜池

そして始めた歌はすすり泣き溜息

いつも合わせて歌っていたとか、ヴィオールにて

歌っている間、彼等は腰振り

上に、下にと、人の目気にせず

その後、昔ながらに、ハミングの終わりに

控えた彼女毎回のご登場

……極めて甲高い音を出す犬笛とか、

(ただの海岸の石ころに玉砂利1ダース詰めただけ)

または焼物のマウスピース、パイプの端をねじ込むもの、……

これで彼女待ち構えるは恒例の給料を。

しかし今回、公爵ほとんど何も賜る積もりがなく

一言返すのみ。これは駄目だと彼女も感じたか

ベルト辺りに置いた指をけいれんさせた

そこのマツテンのなめらかな毛皮の財布は、

与えられたものを安全に納める積もりだったか、……

あるいは彼の不安を早めるためにか、

おそらくは後からの意図でか、

彼女言うには、義務を果たすために来たと

新来の公妃に、若々しい美しさを見たと。

間髪入れず彼の貴婦人の名を上げた、

すると暗く沈んだ顔が輝きを放ち出した、

今までにない意味で薄笑いが返ってきたので……

彼は打ちのめされた、この子はただ乳離れを望んでいたのかと。

ある者彼女に人生の何たるやとその悲しみを味あわせたなら、

彼女は、今日は愚かであっても、明日にはより賢くあらん。

しかし誰がそんな面倒事の先生になるやら

この腰も曲がった強欲婆なら……相場の2倍か?

故、一瞥したはそのオオカミ皮の服らしきもの、

(さもなければ彼等、あまりに毛むくじゃら

自分の毛を天然の毛皮服にでも仕立てたのやら)

対照的に彼は、その仕草からして平静そのもの

かの貴婦人の生活は、繊細優雅花のよう

この山猫と来たら小汚くむさ苦しく。

貧乏くじを引いたのは私、公爵の手招きするに

群衆の中から前に出て、お側に近づく間

(推測された限りでは)彼はつらつら語った、かの老婆に

ちなみに彼は腰落として彼女の耳に吹き込んだ

用心深さと神秘を伴えるところ、

かの貴婦人来し方の主なところを、

彼女のつむじ曲がりと恩知らずを

当て込んだは老婆の従順な態度を

見て取れたは女の口元、皺も引き締め

その額に認められたは驚くべき知性の輝き、

心からの善意でやってでもいるかのよう

何事も今、彼がやれと命じたことならと、

そして約束したは、かの貴婦人を恐怖のどん底に。

さても、彼女にはただ一瞥くれて

財布の、移植する人の雰囲気以て

アオサギ捕えるタカの翼に何やらを。

彼は私に命じてジプシーの母親を連れて行けと

そして彼女に何か話をさせよと

丘やら谷やら、樫の木やらシダやらの、

退屈な時間を一掃するように

寝室に一人残された貴婦人に。

その心と体は大いに動きたがっているのに

あらゆるマシな気晴らしから逃げている。


XIV.

それから馬に拍車を掛けて、それも騰躍家な良馬、

公爵の駆け出すや、彼のおらぶに続く

馬や猟犬揃って飛び出す、それに召使いや猟師も、

私は背後を振り返り、老婆についてくるよう指図。

何だかよく判らないが、言われた通りに

この妖怪の考え込むに付き合ってきたところ

それがこう、鋭く見回していて、そちらを見守るや

あれよあれよと驚くばかりの急展開に

先ずは彼女の頭1つ分ほど、いきなり背が伸び、

彼女の歩みは私の歩調に早過ぎず遅からず、

年齢が何処かに行ってしまったかのように、

浅ましく見えた態度はガラリと変わった、

顔つきまで丸きり別人に見えてならずに、

そして変身も至れるところ、何がどうなったのやら、

毛深いオオカミ皮マントの飾り付けすら。

ボロ切れがスゲのように垂れ下がっていた所に、

金貨がきらきら縁に輝く有様、

まるでトマン金貨多数を吊された帯

するととばりもペルシャ女性のものならでは

そして額の下、カタツムリの角よろしく

雨の後にうろつく奴のそれそっくりに生えてきた、

紛れもない2つの目玉があるべき姿に

形整え息づくや、皆居た場所の外を見た。

それで皆が行ってみると、入り口にはヤシンスが

貴婦人の部屋を護って歩哨をしていた

私は命令を伝え、私の仲間に引き入れた、

ヤシンスは誰であろうと説明を喜んだ、

というのは昨夜から、相も変わらず、

かの貴婦人は一言も口を利いてくれなかったので。

彼等一緒にそこの皆に加わりに向かった、

時に私は露台に上がって天気を見ていた。


XV.

先にお断りする、それから何が起きたやら、

聞けずじまいで話せない。

ヤシンス悔やんで呪いよ落ちよと、

その小さな頭に、燃え盛れとすら、

判っていればと、そんなにも深く落ちようとは

突然の眠りに、のみならず

不覚にも丸々寝過ごそうとは

イノシシよろしく、我が父刺せる

生命が要塞を置くところの眉間を、

……赦せヤシンス、こんな喩えを!

ここから始めよう私の知る物語を

私が持ち場に着いて間もなくのこと

新鮮な空気を吸うは露台にて、

その頃は鷹の目をしていたもので、

狩りを追い、見廻すは原野一面を、

茂みが薄れて塚に至る処から

木の一本もない平野へと。

その時、一瞬のうちに耳が囚われた

それは……歌っていたのか、語っていたのか、

聞いたことのない楽器を奏でたものか

そこの部屋の中で?……確かめようと

格子を押した、カーテンを引いた、

するとそこにヤシンス眠り臥す、

それでも尚、見守ろうとしているよう、

寝姿は床を進む格好で

その頭は扉に向いて。

そんな最中に、その座を占めたは、

正に女王……あのジプシー女だった、

頭と顔を下げたままで

貴婦人からの頭と顔の凝視に遭って。

女の足元、巻き付いたは安心した子供のように、

かの貴婦人が女の膝の間に座り、

両手を握ってその上に遣り、

握り合わせた手に顎を置き、

見上げた顔は妖怪の顔に逆さまに

合わせた目と目は見開き見開かれ

2倍4倍と目が増えた人さながら

どちらの瞳が仕掛けた遊びか

……彼女の手をゆったりと扇がしたは、まるで、

上に下にと、ガーターカラスの羽ばたきが

天秤量り、または鐘の舌を動かしたような。

私は聞いた、そは祝福なるや呪いなるや、

褒めちぎるものか、茶化すのか?

肉も付かないその手で、その指で?

しかし、助けに飛び込まねばと考えた正に

その時、私は止められた、貴婦人の顔色に。

彼女の目が飲んでいたのは生気だったから

瞬きもせず上の妖怪の広い両眼から、

生命の純粋な火が十全に受けられ、

その心臓に、膨らんでいく胸に

これは言ったか、一滴たりとも残しはせずに……

生気は彼女を満たし過ぎて溢れたのやら

彼女の髪にどんどんと、後ろに伸びて

それぞれの肩の上、緩やか豊かに、

彼女の頭が後に引かれて、白い喉は湾曲を見せ。

長い髪は喜びの中に分ち合われて、

謎めいたあの秤へと動いていて、

その胸が弾むにつれ跳ねていた。

立ち止まった私はますます混乱した、

まだ彼女の頬は紅く、両眼は輝いていて、

彼女よくよく聴き取ろうとして、……

片手が私を引き止めたとき、一気に、

同じ病気が伝染った否応なしに、

時間を合わせた不思議な鈴に、

作り出したは言葉と散文と韻、

音楽が湧き上がるようになるまで

その翼が果たされた任務のように、取り下げられ

最初に推し進めていた言葉の下から、

世界の真ん中、皆放り出して、

手に手を取るよう、言葉に言葉を重ね、

ようやく聞くことができ、理解ができた、

途切れない糸を手にしたその時、

かのジプシーは言ったもの。……

「遂に我等は、之に見出せり我が部族。

 故、そなたを据える、この中心に、

 説き明かさん、皆めいめいに、また全員に

 そなた言うことそなた為すこと、

 我等が長く苛酷な旅を通して、

 そなたが語り行うの用意を全て

 試練のうちに残れるものは。

 皆に辿れる血脈とそれ以外の血脈が

 そなたの額に出会い、また別れては、

 形作るは我等が激流、神秘の印。

 また我が民に精査と証明命ずは

 各々眼窩に嵌る深遠かつ輝かしい球

 うち守れよ親族の火花見出すべく

 その深みに、あまりに愛しく暗く、

 弾けて消える粒々よろしく、

 廻るは真夜中の海の空高く。

 そなたのふっくら若々しい頬に

 その色合いを判らせてやろう、

 それは例えば高価な赤ワインを

 皿に注ぐ時、弾いてしまう

 オリーブ油の1滴、浮き上がり

 一気に拡がる金の薄膜

 銀の皿の上に猶も艶やかに

 混ぜ合わされて尚も透き通り。

 それでそなたを証しよう、皆の衆に。

 ふさわしいと、我が民その胸開くとき、

 印を見、呼びかけを聞くに、

 誓いを立て、試練に耐え。

 これで休める子供が1人は増える。

 胸をはだけて両腕広げ、

 世界は外に広々と。

 見習い修行の課さるは掟ゆえ、

 数多く長々と試練は続く定め

 そなた勝ち抜き耐えねばならぬ、

 その額が本物であり、皆の目確かであるならば。

 さながら宝探しがやる厳密な分析

 山の墓からの掘り出し物につき、

 まず当てるは鑑別用の細い光線

 飛び出すは不穏な暗闇の直中。

 そして鋼と火、役割果たすや

 宝の落ちゆく、掘り当てた者の胸元へ。

 かくして試練に次ぐ試練を過ぎて、

 遂にはそなたも落ちてくる

 息を切らして、夢見心地に

 大いなる救出への感激を伴い、

 我等が腕に、幾久しく。

 そして、そなた知りあふせん。その腕、在りし日そなたに

 巻き付いて在りと。我等、前より知れること、

 愛こそ世界に唯一の善なりと。

 これからは愛されん、心から愛せる限りに

 或いは脳が思いつく限り、手の届く限り。

 立ち上がれ、見下ろすがいい、

 我等の生すら投げ出さん、そなたが足元

 踏み入らんが為、光と喜びの中に。

 我等与えん、生きる力どころか

 欲求叶えん、そなたの本能から来る。

 そなた苗木に添ふる木なれば、

 或いは木に寄り添う蔦葛なれば……

 そなた我等を助くることならずや、我等そなたを助けざるをならずや?

 何であれ被造物の2体が1つになれば、

 世界が為せる以上のことを成すならん。

 それぞれ単体にても弱くはなかったものが。

 そなた等虚しく世界を探したものか

 智慧と力とを求めるが為、

 どこの組合でその権利育めるやら

 かくして、その目的にできるだけ近づくため、

 混ぜ合わせ、……可能な限り、混ぜ合わせ

 そなた我等と共に、または我等そなたと共に、

 蔦葛あるいは添え木のように、

 上から下からそなたを誰か着飾らん、

 花と葉をもて、持ち上げたり引っ張ったり?

 彼の心の果実を留めるはそなたの花冠、

 彼の魂に絡みつけ、ひょうたんのつる張り付くように

 そなたの枝に死んで消え去る

 時に汝が葉は痛まずに有る?

 あるいはまた別の運命在るや、

 そしてそなたは崇拝に値する。

 そなたの驚くべき本性曝け出すからには、

 そして取るや、強き自然の揺らぎを?

 我は予見し、予言ができた

 そなたの来し方、必要かつ十分に……

 しかし情熱的なその両目は正直に、真っ正直に語るもの、

 耳傾けよ、そなた為すべしとさる事共に!

 日常生活に過ぎない筈のこと、

 平時であれ戦時下であれ、

 気づかれずには済まされぬこと。

 我等(ただ)すはそなたが来し方のことごとくを、

 或いは望み、或いは疑い、或いは恐れて尚も、……

 そも、そなた道理を貫こうと曲がろうと、

 我等おそばにはべり居り、そなた赴く道々に、

 我等負うべき責をもて、我等称えるほまれもて、

 我等恥を知りてなお、我等を観せるに誇りもて。

 断じて無関心ならず、悦ぶにせよ怒るにせよ。

 そなた多くを引き連れまいと、

 我等全員思いやり、嫌われ者にも出くわす如き

 ごみごみとした街の恐るべき路地にあり。

 又はそなた一人で踏み込む泥沼

 正気の沙汰とも思えぬ処に

 けたたましきはコウノトリくちばし打ち叩くのみ、

 空気はしんとし、水はとどまり、

 時にオオバン急降下、青胸さらし

 飛び込むや、それきり音も何もなし。

 そのうち、遂に老後も来るならん、

 歳取れば杖引くも相応しからん。

 その他、隠居に何ぞあるべき、

 積もれる想い出、心の内に

 何はなくとも、まずは集めよ

 小さい頃のお祝い事の欠片とか、

 見逃したまえ、探索への熱意を

 なお保ちつつ、冠れる優美を?

 来し方そっくり思い改め

 最期にそなたも横たわり、

 時に黄昏、暮れなずむ

 初めは鮮やか、その色も褪せ

 そしてその全体の輪郭、

 夜の帷を巡る、その枠巻上げ、

 かつて堂々、そなたの魂直面しき。

 そして変わらず、闇の中に光り

 またしても次の朝が明け、

 さながら夢を終わらせる手、

 死が、彼の太陽光線の力もて、

 肉に触れるや、魂が目覚め、

 そして──」

いや、そして本当に、何がどうなって!

何だ?女の声がここで変わって鳥のように、

言葉でなくなりさえずりのように。

我が傍に変わらず在るはヤシンスのみ、

ペンを紙に叩きつけ、音節すべてを整える

あの物知りな書記の十指でもあれば、

忘れた全てと同じくらいに記憶に残るが

私のこの古い頭脳では出来やしない

あなたに与えるこの簡略版でさえ

あがって口篭くちごもり台無しにした演説、

金槌で打ち叩いたよりも酷い有様、

我が身につけた韻律と構文とでは、

やらかした、画鋲と鋲釘を間違えた!

さて逸れた話を戻さねば、……

しかしあなたも印したか、歌が最も甘美な時を

静けさの極みにあって、十全な魅惑を放つ、

それ来た、鳴らしてやるかパチンと…

すると、その魅惑は消え失せた!

私の感覚が戻ると、奇妙なことに追い払われた、

さて、うたた寝から醒めると。

老婆が夫人に魔法をかけていたとは分かっていたが、

ヤシンスは眠っていたし、突き動かされるようにして

窓から降り、正門の辺りに

1分もかけず、入っていって、

扉が開くや、命に関わるまでに

棒立ちに…1つの顔。他は脳内から吹き飛んだ、

美人が、全てそれまでに見たか見せられた…

公妃だ。…雷に撃たれたように動けなかった。

まるきり違う人のよう、楽しげに美しく、

一目で感じた、全て善しと

他に足すべきものもなし、

ただ命令を待つばかり、忠実に慕わしく。

といっても実の所は、命令もなく。

輝ける瞳、見上げれば煌々(こうこう)と、

眉を吊り上げ胸膨らませた、その手へ

この身委ねた、生死を問わず。

望まれたものを見つけるに、

全能の神もお許しに

痕跡の僅少は野生動物の生きる術ならん

為に互いに語るは皆の欲望すべて、

斯くはめいめいその友人要するを知り

指導者もなく言われるがままに為さん。

私が彼女の先に立ち。続いて

老婆が一人黙って。

話しかけても、たまにさざめくばかり

やけに古風に。その両目はこそこそ動いて

眼窩に戻る。その身は縮んだ。

つまり魂は、その体に沈んだ

そろりと鞘に落ち着いた刀さながら。

道行くにつれ、口数は減り。

誰も見ていない庭を横切り。

全世界が跡を追うかのよう、

中庭が砂漠か何かのよう、

仔馬が厩舎を抜け出して来て

可愛いその仔に鞍着けようとし

思い出す、この子が公妃を乗せたときに撫でたのを、

彼女が来て、公爵と結婚したあの日を。

その手のことでは人を手玉に取った

私にしてなお信じられなかった

婦人もそれを忘れていなかった、

彼女の下の貧しい悪魔をよく分かっていた

彼女の奉仕あまりに嬉し過ぎたこと

トルコの修行者よろしく熱い鋤の刃に踊るほど

しかし負うべき税をまともに払えずじまいで、

痛ましさのあまりその見世物に代えられるほど。

しかしながら作業を始めたその瞬間だったか

我が老いぼれ馬の、ベロルトの成したものだからか

(出過ぎた真似ではない積もりだったが)

敷物を移そうとするのを止められた、

すっと指を立てて見せられた、

次の仕草は控え目ながら決定的に、

小さくかぶりを振って、拒絶されてしまった、……

まあそれまでも、私を使いはしなかったが、

あの人が、そして後ろにジプシーが載せられては、

必死に思いを奏で立てずに居られなかった、

声はやや上ずっていたとは思う

普段より、気持ちが高ぶっていた以上、

……何か効果的な、私が用意できていたこと、

神も照覧、いつでも彼女は私を必要としたこと……

すると、分かるか、その顔が見下ろしてきた

王冠でも賜るかの様子に見えた、

あの人は自分の胸に手を当て……よいか、その胸に……

そして、木の花を散らすように、

下ろしてきた……ああ、網でもあったなら

銀の、あるいはもっと悪いことに金の、

それが何故なのか、気がついて直ぐに

実感せざるを得ない……この真心は他に得られないと

何という報い、……自分は家に帰っておくべきだったなと、

ヤシンスにキスして、素面で溺れんばかりに!

お下げ髪の少々をくれたのだ

女子修道院とかで友達とやる

お守り代わりに交換する……

ほら、この胸に着けるこれだ。

いつまでも(ヤシンスの繰り言に遭っても)、

これはいつまでも、この世の終わりの日までも。

それから、……それから。……以下は略する、益体もない。

このような感情など、教育に良くない。

広々と門扉の開くや、手綱が振るわれ、

小馬は跳ねて、……かくして、あの人は行ってしまった。


XVI.

酒呑むに、金盃かねさかずき鳴らす理由は?チリカンと。

伝えるべきは悩ましく、疑う余地なく混乱の

その胸の内は我等が主人、マネキンか?

公の母親、声も頭も黄色いことにも程がある、

その変わりようと来たら鮫に投げてやるほどスペアリブを

水夫たちは一掃すると言う、真珠採りに潜るカリブから

話を聞くや、空飛ぶ重罪人とこれを決めつける程だとは……

子供の遊びのように見えたことでも、

もう居ないあの貴婦人と一緒に皆が語ったこと、やったこと!

そして踊るにつれ、消えてしまった音楽は、

いつも自分を……そして間違いなくお前まで……落ち込ませた。

いや、我が心には、世界が見せる顔はあまりに厳しい

あの優しい姿も裏手からか抜けて消えてしまい

あの人が常に保った暖かいユーモア、

それを止めおくべきだった。これ以上何をすることもあるまい。

しかし世界は他のことばかり思い煩い過ぎ行くばかり、

対して我が頭はあの事にばかり相も変わらず使ってばかり。

その朝から早や30年が過ぎている、

それ等すべてが我が頭を飾ってはいる。

前公妃は光の下に亡くなったという訳でもない、

ご想像のとおり、抑制されたにもかかわらず、

毒蛇すべての自然な終わり

その毒嚢を空にして苦しんでもいない。

しかし、彼女と息子は同意した、私はそれを受け容れる、

誰も物語に触れてそれを目覚めさせてはならぬ、

公爵の見栄に刻まれた傷は燃えるように疼くため、

2人とも捜索もちょっとした問い合わせもしないまま、……

やがて、新人のジプシーたちが訪問してきたとき、私は

その2人が決して好奇心旺盛ではなかったのは判ったが

しかし、公爵は汝等ここに在るをお望みでないと告げた、

速やかに国境を越えるように命じた。

詰まるところ、公妃は去り、公爵はそれを喜んだのだ、

老人が若者に取って代わった、

あの人の代わりに、女主人の地位に収まった、

そしてそのとき家中、それは祝福されたのだ!

人は言うかもしれぬ、用心深くならずやと

あまりに石橋叩き過ぎること、むかつくまでに

認めざるを得まい種々さまざまな色合いで

前公妃のものになる色見本を以て、

その頬の黄色さのまろやかさを高めた。

(手早く済まそうと)ついには公妃

頬を1種の石膏原型にした

乳液や海藻の、単なる白粉使用から

要するに、彼女は頭皮を乳房にしようと

知って震え慄くがよい。


XVII.

そなた我が友よ……

友情とは、なんと果てなき世界であることよ!

どれほどまでに心と魂揺り動かすか

誰かそなたにきらきらしい清流を開けたかのように、

そして注がれた、全く愛らしくキラキラ光る、太陽の下に、

我等が緑のモルドバ、縞模様のシロップ、

年代物のコトナリ、ドルイドの時代並に……

友情こそ相応しからん、その流体の君主に。

いずれも素面の脳を潤す、満たされるは内にも外にも……

人生の砂時計を揺するがよい、細い砂が疑わしいなら

走ろうと止まろうと、保証されようと

時代のすべてが完全な怠惰と不条理な安楽でできているわけではない!

嗚呼もう一度会えたなら、小さな貴婦人に、

ヤシンス、ジプシー、ベロルド、その他に、

前にも申した通り、私には公爵が話した。

私はいつも胸の内をすっきりさせたかった。

そして今や、それは為された……なのに何故、私の心は血を流すのか、ポタポタと

ポタポタと、しかし直ぐに、そんな濁った少滴など

あっさり汲み上げられる、主心室を通し、

そして私を暖かく浮かべる、臓物周りに。

何をしようとしているのか話しておこうか

この者寂しく余生を送るを見届けなければ

……結局のところ、彼は我等の公爵、

そして私は言われる通り、農奴にして奴隷。

我が父この地に生まれ、そして私が引き継ぐ

父の名声、すなわち息子を縛った鎖を。

出来れば一括払いで済ませたいものだが、

しかし、吹き飛ばしてしまえる鉱山など無い、終わりに出来ない。

だから、1巻の終わりまで付き合わざるを得ない。

それは、我等が中世風作法の改作者のため、

喜ばしきにつけ、悲しむべきにつけ

いつの日にか、彼の(こうべ)(かぶと)(こうむ)

胸は鎖帷子に収まり、かかとは蹴り上げられ、

やられたのは激しいしゃっくりの猛攻撃に。

時に、赤いものが公爵の刀の錆になり、

その革の鞘は青い皮で覆われて

次に、我が収穫を掻き集めなければならぬ

見よ、教会の墓地にヤシンス休み居るからには

我等が子等の皆が進むはバラの道……

曲がり角も知れない長い道程(みちのり)……

人は旅立つに要する、多少の用意

丈夫なマントの1つくらいは私から授けようか。

杖1本も、投槍も打払えるような

我が父のイノシシ以てそなた刺し止めたかな?

そして之より、そなた此処に聞く目論見がため、

引き締まったのやふくよかなもの、酔っ払えるもの、コトナリ少々持っていく。

いざ旅に出ん、然して自分としてはごく楽しく!

悲しむは無駄、落胆は罪深いばかり。

人の寿命は幾つまで?急がねばならぬ、それだけのこと。

1日のうちに詰め込むべし、彼の若者が1年かかったものを。

労働なんぞと気にするようになったなら、もういい年だというだけのこと……

メトセラは何歳だったか、彼のサウルを授かったとき?

そして最後に、波に揉まれる船数隻が見えるほど、

(北部から遠い道程を、潤滑油など積んで来て)

我が望みはこの混乱から無事に抜け出して

そしていつの日か、ジプシーの地に到着する程に、

我が貴婦人を見つけるか、その消息を聞くか

年老いた泥棒やルシファーの息子などから、

額に緑の花冠した、ホップのリースぽいもので

エチオピア人のように日焼けして。

我がコトナリ回って効き始めたら

悪党の舌も回り出すこと悪しからず、

酒に酔う顔、初め緊張したのが、各々笑窪、

そこに落としてやろう、ちょっとした事故

「おまえには判るまい、事の全てがどう終わったのか、

出会した運命は幸か不幸か

かの小さな淑女、そなた等の女王が友達になったか?」

……自分にそう言われたら、さて何が残るやら?

この世界は、すっきり説明するには難しすぎた……

同じ者が馬の事では賢明な判事と化した

ほっそりした4歳馬がお好みとか

全能なるベロルドの骨太なる家畜よりか、

強いコトナリに代えてフランスの弱いワインを召しつつ。

其奴また如何にも、とある淑女の嫌われ者ならん!

滑らかな肌のヤコブは家庭的なエサウを貪る

上に、下に、揺れる世界はぎっこんばったん。

……では、ちょうど良い隅を見つける

生け垣の下で、木の騎士オルソンのように、

振り返って、世界におやすみを言おう

深い眠りをずっと眠ろう。ラッパが鳴ったなら

起こしてくれ(司祭が我々素人を騙すのでない限り)

もうこれ以上、投げることのない世界が来たなら、

真珠を、値打ちの判らない豚の前に。アーメン!

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