表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愁い花  作者: 冷水房隆
26/87

其の二十七

 黒い影が、夜の闇を切り裂いて行く。

 寝静まった安曇アンタン

 影は四つ。

 四つの影は辻で二手に別れた。

 東へ行くのは、安曇に塒を置く馮渉フォンショァ弘敬ホンジィン。西へ行くのは、胡暗ホゥアンに塒を置く侠羽シアユィ葛榴グァリウであり、赤蛇チーショァの団員だ。

 何れも「青年」と呼ぶに相応しい程の、若い男達。

 影達は、頭目の命で、夜陰を駆ける……………


 ………………石均シージュィンはその日、中央官衙に呼び出された。

 用件は、先に起きた胡暗の火災、その火災に遭った被災者の捜索であった。

 災害から一月以上も経っており、また、届け出のない住人もある事から、管轄の役人達では捜索は難航であり、遂には、顔役の石均に御鉢が回って来たのであった。

 

 「で? 大哥ダァガ、引き受けたのですかい?」

 戻って来た石均から話を聞き、その意外な事に目を丸めつつ、侠羽がそう訊いた。

 「先の火災に重きを置き、慰藉して見舞金を振る舞おうなんざ、しかもそれを提起したのが皇太子だってんだから、度肝を抜かれたぜ」

 石均は呵々と笑い、煙草を燻らす。

 「ほう、そりゃまた、稀有な皇族もあったもんだ」

 関心した様に両腕を組み、侠羽は云う。

 「皇族ってのはよ、上等な人間にしか興味ねぇと思っていたが、それを聞いて、その皇太子ってのが気に入ったぜ」

 石均は満足そうに笑った。

 「まぁ俺は、大哥に従いますよ」

 侠羽もふと笑う。


 火災に遭った住人総ての行方を追うのは、役人達が云う程、困難ではなかった。

 胡暗の住人は、特に訳あって流れて来た者達は、御上の狗である役人を毛嫌う傾向にあるから、それ故に非協力的であったのだろう。

 それでも、追うのが難しい者達もあった。

 その中に、白花バイホワ詩雨シーユィの名。

 報告を受けた石均は、その名を聞き、表情を変えた。

 安曇で逢った時を想い出したのだ。

 報告をした馮渉もまた、あの時あの場に居たから、彼も白花の名に気付いてはいたが、それよりも気になるのは、あの時の斉有素チィヨウスゥの存在である。

 人前で、しかも往来の多い場所で、斉有素が因縁を付けていたのは珍しく、だから余計に強く印象に残っていた。

 「………そういや、あれから斉の旦那、安曇で見ねぇな」

 ふと、石均は云う。

 「云われてみりゃ、そうですね」

 その言葉に、はっとする馮渉。

 そして、もうひとり、近頃こそこそと姿を消している者があるのにも、気付いた。

 毛修マオシウだ。

 毛修には大小の前科が幾つかある。

 斉有素の行方も知れない。

 胡暗で大規模な火災が起こった後、財産を失い、路頭に迷う者が多い今、このふたりが結託して、何か後ろ暗い事をやっているのではないかと、つい勘繰ってしまう。

 「………被災者の捜索と同時進行で、毛修が裏で何をやってるのか探れ」

 石均は命じた。

 

 その最中、花京ホワジィンの薬舗に住み込みで働いていた女性、その名も白花が、行方不明になっていると情報が入って来た。

 これは、いよいよ怪しい。

 毛修が犯した大小の前の中には、素人女に身を売らせていたのもある。

 それに、白花と斉有素は昔の因縁もある。そこを毛修が付け込んだのだろうか。

 白花は、素人離れした色気がある。商品としては打って付けだ。

 「毛修の悪癖が擽られたか」

 石均はそう云い、にやりとした。

 頭目のその表情を見て、侠羽と馮渉は、背中に冷たいものを感じずにはいられなかった。

 「被災者の捜索は打ち切りだ。

  毛修と斉有素、それと、白花姐さんの件に関わった者全員を連れて来い。必ず、生きた儘でだ」

 石均の命を受け、早速侠羽と馮渉は、それぞれの弟分である、葛榴と弘敬と共に行動へ移った。


 ………………馮渉と弘敬は辻を東、斉有素のすみかへ駆ける。

 侠羽と葛榴は辻の西、子絽ヅーリュィが面の割れていない毛修の弟分の蜀甫シュウフゥの跡を付け、悪事と共に暴いた隠れ家へ駆けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ