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3/3

後編

長くなってしまいましたが、一端これで完結です。


 長かった…。記憶を思い出してから約10年間、私は運命を回避するために頑張った。


 まず、反抗的な態度で王家からの反感を買わないことと他家へのけん制として、お母様に頼み込み王妃様のお茶会に招いてもらえるようにした。


 加えて、お父様に頼み込んで、剣術の先生を付けてもらった。適正があったのだろう。今では王宮の騎士と対等に渡り合えるほどの腕前だ。


 また、将来暗殺者を送ってくる政敵の特定も頑張った。お父様の「影」を一部借り受け、めぼしい家に潜入させた。その間不正の証拠を掴むこともあったので、ついでに根回しをして2、3家潰しておいた。そちらの家からはすごく恨まれたけど、自分のためだから仕方がない。人身売買なんかしていたら見逃せないし。


 結局、どの家が私に暗殺者を送ってくるのかは分からずじまいだった。そこはゲームでも言及されていないので本当に手探り状態だ。


 

 「アマリア、誕生日おめでとう!いつも可愛いけど今日は一段と綺麗だね」

 そう、今日は私の17歳の誕生日である。そしてこの甘い言葉を平然と吐きながらプレゼントを渡してくるのは、フィリップ殿下だ。

 「あら、フィリップ殿下。本日はお越しいただきありがとうございます。相変わらずヘラヘラしていらっしゃるのね。もう少ししっかりなさったらいかが?」

 「相変わらず手厳しいね。もう少し私に優しくしてくれてもいいんだよ?」

 「残念ながら必要性を感じませんわ」


 ああ、出会った頃の可愛らしさはどこに行ってしまったんでしょう。この10年間接触するたびに貶してきたはずなのだが、今のフィリップ殿下からはゲームのような気弱さや卑屈さは感じられない。それどころか、どこか自信とふてぶてしさが同居するような青年になっていた。気弱な設定はどこに行ったのか。


 そして今のフィリップ殿下はとてもモテるようになっていた。第二王子という身分と気さくな性格、そして政治的にも有能で積極的に皇太子殿下のサポートをしてるということで、周囲の評価も上々である。そんな優良物件を周囲が見逃すはずもなく、今殿下には大量の令嬢の釣書が届けられているはずだ。早くどこかのご令嬢と結ばれて欲しいが、殿下は一向に誰と婚約する気配はない。もしかしたら、ゲームの設定によってできないようになっているのかもしれない。それならそれでいいのであるが、現実はもっと厳しかった。


 「アマリア、何度も言っているが私と結婚してくれないか。私は君が良いんだ」

 「こちらこそ何度も言ってますけど、私ではなくもっと可憐な蝶がいるのではなくて?あなたに私はもったいないと思いますの」

 「そんなことはない!私のことをこんなに思ってくれるのは君だけだよ」

 あーもう、最近はずっとこれである。彼は私にとっての鬼門なのに。なるべく近づいて欲しくない、ましてや結婚なんて論外だ。


 「本当に何度も言っておりますけども、私殿下と結婚する気はありません。どうか別のお方をお探しになって?」

 「そうか…。」


 殿下は、肩を落としてしょんぼりしている。その様子が捨てられた子犬のようで、思わず胸がキュンと鳴った。くっそ!普段はそうでもないが、落ち込んだ様子は昔の可愛い殿下の面影が前面に出てくる。なんで18の男が可愛らしいのよ!おかしい!絶対おかしい!


 しかしまあ、認めたくないがこの状況は大変宜しくない。フィリップ殿下は確実に私に好意を持っているし、私の方はいつ暗殺者に狙われてもおかしくない。殿下が意外と押しが強のも計算外だ。強引に結婚をさせられる前に一端隣国にでも退避した方が良いかもしれない。うん。お父様に頼んで二年ぐらい留学させてもらおう。丁度最近隣国で馬を使わない車が開発されたらしいし、その技術を学びに行くとでも言おう。


 その日の夜、早速お父様に隣国に留学したい旨を伝えた。お父様には「何もお前が行かなくても…」とか「フィリップ殿下が…」とか渋られたが、私の熱意に負けたのか、1年だけ許してもらえた。最悪17歳の期間さえ逃れられれば何とかなるだろう。私としてはゲーム終了まで退避していたいところではあるが、行ってしまえばこっちのもんで、いくらでも理由をつけて引き延ばせるはずだ。何なら隣国で結婚相手を探してずっと隣国に住んでもいい。


 出発を翌月と決め、翌日から早速準備に取り掛かり始めた。隣国で暮らす家も確保し、半分ぐらい準備が終わったかというタイミングで、王城からお茶会の招待状が届いた。宛名は王妃様だ。私が隣国へ行く前に一度会いたいとのことらしい。私としても、挨拶しなければと思っていたので渡りに船である。


 いつもの通り王城に着くと、普段とは違う部屋に通された。若干不審に思ったものの、大人しく王妃様を待つことにする。十分ぐらい待っただろうか、なぜか扉から現れたのはフィリップ殿下だった。

 

「なぜフィリップ殿下がこちらに?」

 王妃様が来ないことで半ば予期していたが、思わずイラついた声が出た。挨拶も無しにいきなり話しかけるのもマナー違反だが、もはや今更だ。

 「君は隣国に行くそうじゃないか。そんなことは欠片も聞いていなかったから驚いたよ」

 「言ってませんもの。」

 「アマリア、そうつれない態度を取らないでくれ。隣国にも行かないでほしい。そして私と結婚してくれ」

 そんな自分勝手な言葉を聞いて今までずっと耐えていたものが、一気に爆発した。

「ああ、もう!いい加減にしてくださいませ!!私何度もあなたとは結婚しないと伝えましたでしょ!もう諦めてください!私は隣国でいい人を見つけるんです!」

 私は思わず大声で叫んでしまった。ほんっとにしつこい。でもこれで、本気で嫌がっていると分かるはずだ。フィリップ殿下も諦めてくれるだろう。


 「そんな…」

 大声を出されたのがショックだったのか、彼はしばし俯いていた。目には涙が溜まっているようだ。彼は私の前に跪いて手を取り、私の顔を見上げてくる。うっ、可愛い。

 

 「僕のこと、嫌い?」

 目をうるうるさせて泣きそうになりながら殿下は私を見上げる。その様子はまるでチワワのようで、抱きしめたくなる可愛さだ。男のくせに泣き落としは卑怯だぞ!あと僕とか普段使ってないくせに!あざとい!しかし分かってはいるのだが、本能が彼を拒絶できない。私は彼を直視しないように顔をそむける。

 「嫌いでは…ありませんけども…」

 「本当…?」

 「う、嘘ではありませんわ…」



 顔を背けているのも気まずくてチラッと彼の方を向いてみたら、いつの間にか彼の涙は引っ込んでいた。代わりに満面の笑みを浮かべている。

 「やったー!じゃあ私と結婚してくれるよね!もう式の準備はできてて、あとはアマリアの承諾だけだったんだ。」

 殿下は私の手を握ったままブンブンと振り回してきた。反動がすごくて、頭がカクカクする。私は振り回されながら、何とか声をだした。

 「えっ、あの、ちょっと、フィリップ殿下?お待ちください。準備ができているってどういうことですの?あと結婚するとは言ってませんわ。」

 「ダメだよアマリア。既に言質は取った。準備というのはね、リッチモンド公爵からは既に結婚しても良いという許可をもらっていたんだ。アマリアが承諾したらという条件付きで。父上と母上にも既に許可はもらっている。ただ、アマリアの婚期のこともあるから、18歳になるまでに承諾を貰えなかったら諦めろと言われていたんだ。だからちょっと焦ってたんだけど、そうしたら急にアマリアが隣国に行くとか言い出して。もう多少強引でも『うん』と言わせなきゃと思っていたんだよね。でも、今頷いていてくれて良かった

よ!これで私も君に酷いことをせずに済む!」


 なんか恐ろしいセリフが聞こえたが、一端聞こえないことにした。きっと空耳だ。あと私は結婚の了承はしてない。

 「ですから殿下、私、結婚の了承はしていな」

 「さっき、『結婚してくれるよね』って聞いたら頷いていたじゃないか」

 「それは殿下が揺さぶるからで、」

 「頷いていたよね?」

 殿下が、めちゃくちゃいい笑顔で圧をかけてくる。私が何も言えないでいると殿下が耳元に顔を近づけて、ささやいてきた。

 「否定するなら、了承するまで君を監禁して調教してもいいんだよ?」

 「っつ、しました!確かに頷きましたわ!」


 こっっわ!超怖い。殿下ヤンデレ属性もあったのかしら。めちゃくちゃ怖い。


 その後、控えていた文官の持っていた婚姻届けに無理やりサインをさせられ、そのままの運びで結婚することになった。もちろん留学は無かったことにされた。文官からはなんか可哀想な目で見られたが気にしたら負けである。


 その後王家としては異例の三ヵ月で結婚式を挙げ、私とフィリップ殿下は夫婦になった。ドレスがフィリップ殿下によって既に用意されていたのはドン引きした。


 結局、婚約云々すっ飛ばしてスピード結婚したせいか、暗殺者が派遣されることは無かった。どうやらうまくフラグを折ることができたらしい。その後ヒロインにも会ったが、フィリップ殿下は既婚という事で攻略対象から外れたみたいだ。


 「フィリップ様、結婚する際私の評判はとても悪かったと思うのですけれど、どうして結婚できたのでしょう?」

いつの間にか結婚してから5年も経ってしまっていたが、ふと思い返して聞いてみた。


 「君の評判はそんなに悪くなかったよ。ガヤガヤ言っていたのは対立していた勢力の者だけで、王家のなかでも君は優秀な令嬢だと思われていたよ。まあ、私にだけ当たりが強かったけど、それは照れ隠しと思われていたみたいだよ」

 それは心外である。悪女になろうと本気で頑張っていたのだが。


 「君は私のことを貶していたけど、言ってることは正しいことや私の至らないことだけだった。まあ、王族に対する態度はいただけなかったけど、昔っから君は僕に何か言うときはそっぽを向いて顔を赤らめていたからね。周囲にはバレバレだったみたいだね」

 なんという事だ。フィリップ殿下に脳内で悶えていたのは顔にも出ていたらしい。


 「ねえ、僕のこと好き?」

 フィリップ殿下が跪いて私を見上げてくる。


 ああ、この顔にはもう一生勝てないのだろう。


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