前編
初投稿です。
頭を打って前世の記憶を思い出したら、乙女ゲームの世界で死亡フラグが立っていて泣きたい。
こんにちは。私はアマリア・リッチモンド七歳よ。エアリアドル王国のリッチモンド公爵家の第一子で、三つ下に弟がいるわ。父は公爵、母は元王女の高貴な家系に生まれたいわゆる貴族令嬢よ。
先日私の七歳の誕生日に王家に挨拶に伺おうとしたら、家の階段に滑ってしこたま頭を打って前世の記憶を思い出したわ。前世の記憶が膨大だったせいでその後三日間寝込むというテンプレをやったわ。
私の前世はチキュウと言う世界の二ホンという国で、オーエルという職業についていたみたいね。歳は30歳ぐらいだったのかしら。どうして死んだのかはあまり覚えていない。今の私と違って黒髪黒目ですまほ?という機械でゲームをするのが趣味だったみたい。中でも乙女ゲームと呼ばれるような様々な男性と恋愛をするゲームが好きだったみたいよ。恋人も作らないでひたすらゲームをしていた記憶があるわ。
で、彼女が生前ハマっていた乙女ゲームの中に『さざめく瞳に僕を映して』(通称『さざ僕』)というゲームがあったんだけど、これがどうも私の暮らすエアリアドル王国が舞台のゲームだったみたい。目が覚めてから鏡で自分を見てびっくりしたわ。だって、ゲームで見た美少女が鏡に映ってるんだもの。
でもね、前世でいっぱい見たネット小説みたいに悪役令嬢に転生したわけではないみたい。なぜなら「さざ僕」は悪役令嬢が登場しないゲームだから。だからと言ってヒロインだったわけでもない。じゃあこんなに焦る必要ないんじゃないかって?そうはいかないのよ。なぜなら、私は『さざ僕』の第二王子ルートで、ゲームが始まる前に死んでる設定になっているんだから!
説明終わり!
図書室であらかた資料を読み終えた私ことアマリア・リッチモンドは、深いため息をついた。
頭を打って目を覚ましてから、屋敷の図書室でこの国のことを急いで調べてみた結果、この世界は『さざ僕』の世界で間違いないという結論に至った。
『さざ僕』は前世の乙女ゲームでは異色の存在だった。ヒロインは王宮の新人侍女で下級貴族の娘である。そして、王宮で働きながらヒーローたちとの恋に落ちていくという設定だが、特徴的なのは一般的な乙女ゲームではキラビラしいスーパーヒーローが一人はいるものだが、『さざ僕』のヒーローたちはとても完璧とは言えないような欠点だらけのある意味人間味あふれるキャラクターだったことだ。メインヒーローのエアリアドル王国の第二王子フィリップは、王子であるにもかかわらず気弱で自分の意見も碌に言えないという設定だった。さらに初恋の女性が忘れられない系男子でもあり、事あるごとにヒロインと初恋の女性を比較してくる。
最初の印象が悪いため、ヒロインと恋に落ちた後に見せる男気はそれこそできの悪い子の成長に感動する親並に涙をそそるのだが、そうなる前の彼はうじうじしたうざい感じの男だった。
そして、問題なのはこのフィリップの初恋の女性なのだが、彼女はゲーム最初には既に亡くなっていることになっていた。そう、それこそが私ことアマリア・リッチモンドなのである。
フィリップの語るアマリアは、銀髪はさらりと流れ、目は透き通るような青、口元は涼やかに微笑みを浮かべているような、まさに深層の令嬢といった風である。性格は優しく大人しくて、さりとて気弱なのではなく言うべきことはしっかり言う、芯のしっかりとした女性だったと、どこの女神だ?というような説明がされていた。
しかし、フィリップが18歳、アマリアが17歳の時、リッチモンド家に暗殺者が侵入し、彼女の両親と共にアマリアは殺されてしまった。残されたフィリップの嘆きは凄まじく、かつ、彼の中でアマリアは「誰だそれ」ぐらいに神格化されてしまったのである。
ヒロインは彼の悲しみを癒しながら理解のある女として振舞わなければならないので、彼のルートではなかなかストレスが溜まるのだが、それはさておき。
というわけで、私アマリアは17歳の時に殺される運命にあるのだ。
「せっかく『さざ僕』の世界に転生したのに…、なんで私がアマリアなのー!!」
私はテーブルに両手を打ち付けて叫ぶ。17歳で死ぬとか絶対いや!前世で長生きできなかった分、今世ではおばあちゃんになるまで長生きするんだい!と頭を抱えたものの、どうやって死ぬ運命を回避すればいいのかが分からない。
前世のネット小説で悪役令嬢に転生した人達は悪役として振舞わないようにしてフラグを折っていたが、私の場合はスーパーいい女として殺されるのである。完璧な女性として王子の心に刻まれ、ヒロインの超えられない壁になる存在だ。
じゃあ、逆に悪女になればいいのか…?
いや、ありかもしれない。ゲームの中では、第二王子とアマリアの婚約話が持ち上がっていたらしく、それに危機感を覚えた政敵が暗殺者を派遣したような描写があった。という事は、だ。王子に惚れられなければ暗殺者を派遣されることもなく、暗殺を回避できるかもしれない。
「アマリア、悪女になって王子をいじめます!」