48.吸血鬼さん、勇者でもないのにやっていることが一番勇者っぽい。
俺が宙に飛ぶと同時に、アレクは赤黒い光の弾を撃って来たので、手の甲でぺしぺしと弾いてやった。
一見すると威力が高そうに見える光弾だが、実際にはそう強いわけではない。あくまで俺にとっては、と言うだけではあるが……。
普通の人からすれば、アレクの光弾はえげつない威力だろうな。俺が弾いた弾が家屋に当たり、あっという間に倒壊させていることからもそれが分かる。
「くくく、中々やるようだな。だが今のは本気ではないっ……」
「実力差が分からないとはおめでたいヤツだな」
「それはお前だろう悪鬼よ。教えてやろう……今の俺のスキルは”神の末席”! レベルも全盛期を越える165!」
アレクは確かに強くなった。それに加えて、スキルも以前まで所持していた”正義の勇者”では無くなっているようだ。レベルも165と来た。
だがしかし、200を超えるレベルであり、かつ極悪性能な”吸血鬼”スキルを持つ俺の足元にも及ばない。取り合えず、アレクが視認できない速さで一発腹を殴ってやった。
「――がぐぐっ」
「おっとこれは失礼。今のでもだいぶ手加減したんだがな」
「がっ……ぐっ……お、俺に見えないなんて……お前どんな下劣な手を使った!?」
「下劣な手を使ったのはお前だろうアレク。罪無き人々を糧に力を得るなど狂気にまみれたとしか思えない」
「げ、下劣なものか。この俺に力を与えられたことを民衆はむしろ誇りに思っているだろう……何せ俺は神になったんだからなっ! 神が全て! 俺が正しい!」
「謎の理論を展開するな」
目が血走っていて完全におかしくなっていそうだったので、俺は二発三発とアレクの腹を殴る。
風穴をあける事も可能だが、それをすると痛みと絶望と後悔と懺悔を引き出せずに死ぬ可能性があるので、あえて手加減している。
「ががっ……お、おぇぇぇ」
「吐くとは汚いな。こんなザマで一体どこが神だと言うんだろうな」
「はぁ……はぁ……お前のようなやつに負けるものかっ……人々の為に悪鬼のお前を滅する! これを食らえっ!」
アレクは俺から離れると、急激にエネルギーを集め出した。何か大技を繰り出そうとしているらしい。
事前に阻止することも出来るが、俺はあえて立ち向かうことにした。
心を折るには真っ向から打ち砕くのが一番良いからだ。何をしても無駄だと心身に刻みつけてやる必要があるのだ。
「うぉおおおおお! 全てを焦土に変えてやる!」
雄たけびと共にアレクが放ったそれは、流星群の衝突のようにあたり一面に降り注いだ。
予想していたよりも些か範囲が大きいな。
自分自身の体で受けて無傷でいるつもりだったが、これでは干からびた民衆まで巻き込んでしまう。まだ彼らは生きているのであって、こんなものを食らったら一たまりも無い。
俺は即座に対応を切り替え、アレクが放った隕石たちが衝突する全ての領域に対して”ダメージを吸収する”を発動させた。
ダメージを受けた人はもとより、地面も建物もその全てが攻撃を食らうと同時に修復を開始する。街も人も自然もその全てが隕石など無かったかのように、それまで通りの形を維持した。
あるいはこれで人々も干からびた状態から元に戻るかと思ったが……そう上手くは行かないようだ。身体的なダメージではなく、あくまで生命力を吸われた、という状態であるからだろう。
何か治してやれる方法がきっとあるハズだ。しかし、その前にアレクをどうにかしないといけないな。
「な、ななっ……」
自らの放った技が全て無意味と化していることに、アレクは驚愕し目を大きく見開いている。俺は階段を登るようにゆっくりと空中を歩き、そしてアレクの目の前に辿り着くとその頭を掴んだ。
「離せっ! 離せこの悪鬼がっ! 人民の敵が!」
「……見ろ」
俺は掴んだアレクを引きずり回しながら、干からびた人々を順々に見せて回る。
「くそがっ!」
「くそはお前だ。見ろ、と言っただろう俺は。……見るんだ。この人々は全てお前がこのようにした」
「はっ……だからそれは全員納得……」
「見ろ。この女は子どもを庇うようにしている。守ろうとしていたんだ。納得などしているものか。目の前の人々はみな唐突に理解不能な理由で好き勝手したお前に抗った。事実を見ろ」
俺はアレクの顔面を地面に何度も打ち付け、そして再び干からびた人々を見せた。
「痛いっ……や、やめろぉ……」
「……力には責任が伴う。偉大なる力にはそれに見合うだけの大いなる責任が伴うのだ。お前がまだ勇者であり、そして世界を旅していた時、誰もがお前に羨望と尊敬のまなざしを送っていたハズだ。それは決して免罪符などではない。その偉大なる力に当然に付随する”大いなる責任”を履行してくれることを期待していたからだ」
「痛い痛い痛い……助けてぇ……どうしてぇ……俺は神なのに……」
「お前は神などではない。やってもいないことをやったとウソをつき自らの手柄にし、その自尊心を満たす為にはなんでもやる意地汚いゲス野郎だ。……許しを請え」
「ゆ、許して下さい……悪鬼さま……」
「俺に対してではない。我が子を守ろうとしたこの女に、惚れた女に覆いかぶさるこの男に、この場にいる全ての犠牲者に対して許しを請うんだ」
「ごめんなさい……ごめんなさ……あぐぐぐぐぐっ!」
俺は、涙を流し頭を垂れるアレクの背に生えている翼を千切り取って投げ捨てた。こんな翼など必要が無い。高みから見下ろすなどこいつがして良いことではない。
「お前は何の力も無いただのクズだ。芋虫のように地べたを這いずり周り、この場の一人一人に懺悔と謝罪を述べ、己の無力さを認めるんだな」
「お、お願いします、それをしたら命だけは助けると約束を……」
「自分が交渉出来る立場にあると思うな。……やれ」
「は、はい」
アレクは俺の指示通りに、みっともなく芋虫のように動きながら、ミイラも同然の民一人一人に対して懺悔と謝罪を言葉にしていく。
少しでも言い淀んだり、あるいは気に入らないような素振りを見せる度に俺は容赦なく四肢を折ってやった。
全てが終わる頃には、アレクは絶望に満ちたかのようにその瞳からは輝きを失わせていた。




