46.吸血鬼さん、最後の勇者アレクを怪訝に見る。
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聖都に着いて三日が経過した。だが、アレクの情報は一向に集まらなかった。
ここに来た、という足取りですら完全に遮断されている。それとなく聞き込みを行っているのだが、アレクの特徴に合致する人物を見たという人が一人もいなかった。
しかし、いるのはほぼ確実だ。
誰も見ていないと言うのであればその通りなのでは? という結論はあまりに素直過ぎる。誰も見ていない――実はそれこそが存在していることを示している。
人は全ての記憶を意識して捉えているわけではない。無意識に蓄積している記憶もある。
俺が使う”記憶を吸う”のような効果を当てない限り、記憶と言うのは保持している当人にとっては、特徴的で鮮明なものでない限りあやふやなものだ。
だからこそ、聞き込みは続けていれば、普通ならば何人かに一人は『似たような人物は見たかも知れない』という答えを出す。それが正常なのだ。
だが、それが一切ないのである。全員が口を揃えて「知らない」「見ていない」の一点張り。
これが意味していることは、街の人間が全員グルか、もしくは何らかの記憶操作を広域に行きわたらせることが出来るということだ。
可能性として考えられるのは後者だろうか。よくよく街中を見ていくと、聖水で満たされている水路に何か変な違和感がある。
微力だが魔力が通っている。
恐らくだが、上空から見れば水路そのものが大きな陣になっているハズだ。それで街全体に影響を及ぼしている。
精神操作系の広域魔術陣であると思われ、その中心に位置にする聖都の政府である大聖堂には、かなりの手練れの魔術スキル持ちかもしくは神官系のスキル持ちが大勢いるに違い無い。
秘匿癖がある都と言うのは聞き及んでいるが、なるほど、そう呼ばれるには相応しい装置を持っているらしい。
まぁだが俺にはその効果は全く及ばない。高レベルであることで各種の耐性も非常に強力になっているからだ。
しかし、俺自身には全く効果が無いとしても、これではアレクを探すのも大変だ。街を一通り見ては回ったが、それっぽい人影も無いとなると普通に生活しているわけでは無さそうだが。
隠れ場所として考えられるのは大聖堂の中だが……かなりの探知や結界を大聖堂に張っているのは容易に想像がつくので、潜入して捜索となると骨が折れる。
ティティならば簡単にやってくれそうだが、それはスキルの恩恵の強さゆえだ。俺のスキル【吸血鬼】にはそういった効果の補助が少ないので、あまり得意では無い。
「……あと何日か様子を見てみるか」
ひとまず俺は、安全に潜入出来る場所を探す為に今しばらく聖都をうろつくことにした。
※
二日後のことだ。
それは俺にとっては予想外の出来事であったのだが、何を考えたのかアレクが突如としてその身分を明かして人前に姿を現した。
聖都の街中の人間を集め、勇者アレクがある宣言を行うそうだ。
やはりここにいたかという安堵を得つつも、俺はそれ以上に一体何の宣言を行うのかが気になった。
大規模な魔術陣を使用し、大聖堂と結託して民の記憶を操作してまで自らを秘匿していたというのに、あまりに急すぎる。
そして――俺はアレクの宣言に困惑した。
「魔王は俺が滅した! 俺は世界の民を救ったのだ! だが、この身には大いなる呪いが掛けられてしまった! そこで俺は神の末席に連なることでこの呪いを解こうと思っている! それにはここにいる全ての人々の協力が必要不可欠だ!」
魔王が消えたという情報は、いずれ多方にも渡るとは思っていたが、まさかアレクが自らの手柄と偽って演説に利用するとは。
というか、魔王は滅されたのではなく俺が手中に収めただけなのだが……まぁそれはさておき、神の末席に連なるとはどういうことだ? 頭がおかしくなったとしか俺には思えないが、だがアレクの目は真剣だ。
よくよく見ると、近くにいる何人かの神官と魔術師が不適な笑みを浮かべている。一体何をする気だ……?




