45.吸血鬼さん、聖都に行く。
次のアレクに備えムーンディアの拠点に戻った俺がしたことは、まずはミミとドラティアとの約束を守ることだ。
ミミについては、お土産を買うという約束をしており、密かに買っていた首飾りのお土産を渡した。すると、大変喜ばれた。
「綺麗……」
「約束だからね。お土産を買ってくるって言ったしね」
「ありがとうございます」
俺はホッと一安心しながら、続いてはドラティアに目を向ける。こちらの約束はご奉仕の時に可愛がることであり、それはそのまま履行した。
ドラティアもミミ同様に子を望んでいるということもあり、俺なりに頑張った。ミミに【支援の勇者】をかけて貰いつつ、朝になるまで可愛がったのである。
「ふぁぁ……」
さすがにドラティアも疲れ果てたようで、終わってみればもう満足に喋ることすら出来ないくらいにぐったりとなっていた。
と、まぁこのようにして拠点に残した眷属も含め全員の意を汲んだ俺は、その後も毎日のご奉仕ルーチンの快楽に溺れながらも、聖都へ向かう算段を整えて行った。
整えたといっても大したことはしていなく、せいぜい今の聖都がどういう状況かを探った程度だが。
なんのかんのと言ったところで、聖都については秘匿癖のせいで、現地に行かなければ詳しいことは分からないのだ。
そういうわけで。約一カ月の間を置いた後に俺は一人聖都へと向かうことにした。
眷属を一人も同行させないとしたのは、今回については徹頭徹尾俺のみで俺のこの手で行いたいと思い至ったからだ。
様々な眷属たちの有用なスキルを使えば、よりよく復讐は楽しめるし、最初は俺もそのつもりであったが……これは最後の復讐である。
ならばこそ、純粋に俺のみで完結する復讐を成しえたいと思ったのだ。
俺とアレクのみで閉鎖的に遂げられる復讐が最も素晴らしい結末であり、それ以外という不純物は必要が無い。
そうしなければ、俺はきっと後悔してしまう気がした。これは他の誰でも無い俺の復讐なのだ。舞台の幕を閉じる手は俺の手で無ければならない。
それに、それ以外にもこの間にティティの妊娠が発覚したりと、ミミ以外の眷属たちにも些か状況の変化が訪れていたと言うのもある。
まさかティティが……とは思ったが、やることをやっているのだから、出来ても何もおかしくはないのだ。
「……この子の名前もぜひ旦那さまにお決めになって頂きたいです」
「分かったよ」
喜ばしいことではあるのだが、しかしこの流れだと、マオやドラティアそれにシャルもそのうち子が出来る。
いや、そのうちと言わずとも、まだ気づいていないだけでもう出来てしまっている可能性もあるのだ。
そういった状況であった場合、同行させたことで何かしらのアクシデントが起きて流産になったり等の結末を迎える可能性もゼロでは無い。
それは避けたいという気持ちが当然に俺にもあった。産まれて来る子には何の罪も無いのだ。健やかに育ってこの世界に産まれ落ちて貰いたい。
それにしても、ドラティアとシャルについては出来ても構わないのだが、マオについてはロリという絵面的にやはり俺としても中々に抵抗が……あるのだが、しかし、今の調子だと間違いなく出来てしまうだろうな。
俺も覚悟を決める必要がある。アレクの件が終わったら、そこらへんはしっかりと受け止めるようにしようか。
※
本来であれば聖都までは月単位の移動日数が掛かるが、俺は一日も掛からずに到着した。もはや説明すらも必要が無いことだが、高レベルの俺の移動速度は尋常ではないのだ。
さて、かくして聖都に着いた俺だが、まずその街並みを見て”美しい”という感情を抱いた。
聖水のみを使われた水路が都中を巡っており、どこからでも水の流れる落ち着くような音色が奏でられている。
最後の復讐を行うには些か神々し過ぎる場所だな、とは思うものの、これはこれでアリかも知れない。
神の住まう都――そう言っても差し支えが無さそうな情景のここで、もしも復讐を完遂することが出来たのならば、俺の行いは正当なものだと神々にも認めさせたことになるような気がしていた。
さぁ……最後の復讐の始まりだ。




