40.吸血鬼さん、凄く嫌そう。
フォルドゥークとの決着がついたら主人公はちゃんと眷属といちゃいちゃします。なのでご安心ください。
俺が真顔で黙って突っ立っていると、急にしゃわわわわと花火が上がり、奥から一人の男が現れた。
裸の上に煌びやかなガウンを羽織り、赤い口紅を唇に塗るスキンヘッドのその男は――フォルドゥークだった。フォルドゥーク・ムンバインだ。
一体なんだあの格好は……?
背筋に走る悪寒がさらに増長していくのを俺が感じていると、フォルドゥークは筋骨隆々なその体を見せつけるようにくるりと一回転してウィンクをした。すると、周囲で歓声が上がった。
「うぉぉぉぉぉ!」
「フォルドゥークさま! あなたのお陰で俺たちは”悪事”ではなく”愛”に生きることが出来るようになった!」
「今宵の相手にはぜひこの俺を!」
周りの人間は正気を失っているようにしか見えないが、しかし恐らくは正常だ。
フォルドゥークのスキルは【格闘の勇者】であり、相手を洗脳したりするような効果があるとは思えないからだ。
愛がどうとか今宵の相手がどうとかいう発言を聞く限り、考えたくも無いが自らの体で”夜の格闘”を行い、それでここまでの求心力を得るに至ったと考えるのが理にかなっている。
俺には理解が及ばない状況ではあるが、そういう事なのだろう。
「さぁ今日このフォルドゥークから光栄すべき”夜の寝技”を二人きりで受けることが出来るのは、一体誰になるのかしらぁん?」
フォルドゥークが高らかにそう叫ぶ。口調が以前とは変わり、まるで夜の仕事をしている女みたいになっている。
男を対象として見るのは知っていたが、そういった趣向まであるのは知らなかった。新しく目覚めたのか、それとも隠していただけなのか……。
まぁそれはどうでもいい。問題はどうやってフォルドゥークを捕獲するかだ。
この場で強引に力づくで浚うことも可能だが、それをすると周囲の人々にも思わぬ怪我を負わせてしまう可能性があるので、俺の矜持を守る為にもそれは出来ない。
あくまで俺は復讐者。関係の無い人々を巻き込むつもりは無い。
「今日の選ばれしメンズの決め方はいつも通り、親衛隊にダンスバトルで勝ったナイスガイ一人きりよ。……そうねぇ今回は隊長のサミュエルに出て来て貰うわ」
まったく参加したくない催しものであるが、これに選ばれた後の”夜の寝技”では二人きりだと言うのだから、恐らくそれが一番安全に捕獲出来るポイントになりそうだ。
平時に狙うのは厳しい。親衛隊をはべらせているのが容易に想像がつき、無関係な彼らを巻き込まないようにするというのも面倒なのだ。
ティティに頼むという方法もあるが、ドラティアの時にも協力はして貰った。そう何度も頼るのも悪い。今回は俺自身でなんとかしたい。
というわけで、どうするかだが……今日は様子見だけのつもりではあったものの、またこんな所に来るのは精神衛生に悪いので、今日中に決めてしまった方が良いかも知れない。
心の底から参加したくないのだが、これは勝負せざるを得ないか。
ダンスはやったことが無いが、俺は高レベルであり、目で見て対戦相手の動きをその場でそっくりそのまま完全トレースすることが出来る。
全く同じを動きをしたのならば、俺にも勝ち目が出て来る。それが最善手だろう。
「――それじゃ私は奥の寝室で待っているわ」
フォルドゥークが再び奥へと消えていくと、入れ替わりで半裸の美形の男――サミュエルが現れた。
「誰にも敗北を喫しなければ、今宵のご寵愛を受けられるのはこの僕。……君たちには負けてやるつもりはないよ?」
復讐をするために必要とは言え、こんな催しに参加するハメになるとは……。眩暈がしてくる。




