39.吸血鬼さん、思わず真顔になる。
フォルドゥークのところへ向かうにあたっては、俺は眷属を連れて行くことにした。
場所がそれなりの都会なお陰で観光にも適しており、支配者として眷属への労いにも丁度良いと思ったからだ。
しかし、全員を連れて行くことは残念ながら出来ない。
身重のミミには家にいて貰いたいし、王宮から長く離すことが出来ないドラティアも連れてはいけない。
今回同行させるのはそれ以外のティティ、マオ、シャルの三人だ。
「……ミミも行きたかったのです」
「お土産を買ってくるからね」
「……はいです」
ミミはしゅんと力なく耳を倒して項垂れる。
俺としても申し訳なくは思うが、気に入って貰えるお土産を買ってくるつもりなので、今回はそれで我慢して貰いたい。
「……私はいつも蚊帳の外な気がするのですが、気のせいでしょうか?」
「そんなことはないよ。それよりも、いつも助かっている。情報収集ではドラティアにしか出来ないことをして貰っている。ありがとう」
「そ、そう言われると、確かにそうかも知れませんわ。私にしか出来ないことで喜んで頂けているのですから……それだけでも満足すべきですわね」
ドラティアは聞き分けが良さそうなことを言いつつも、ちらちらと俺の顔を見て来た。
簡単に引き下がったのだから、その代わりにご奉仕の時にたっぷりとして欲しい、という暗黙のお願いをして来ているのが分かる。
一人だけ何も無しというわけには行かないし、情報収集では俺自身が今言った通りに確かに日頃から世話にもなっているので、ここは望みを叶える以外の選択は無い。
俺は「帰って来たら、ドラティアが望む形でのご奉仕をして貰うからね。朝まで」と伝えた。すると、満足そうに笑ってくれた。
※
フォルドゥークがいる街は、それなりに遠方ではあるのだが、辿り着くまでにそう時間は掛からなかった。
全員がある程度は俺に付いて来れる状態になっているからだ。
新人のシャルについても、”逆流”を使用してレベルをそれなりの水準まで引き上げたので、特に問題は無い。
「ぬし様と遊ぶのじゃ~」
「自分は二人きりの時間を少し貰えれば……それで満足だ」
「色々と意見はあるかと思いますが、公平に旦那さまとの時間を割り振りましょう。それが一番に不満が溜まらない方法かと」
「それが良いのじゃ」
「自分もそれで不満は何も無い」
どうやら、各々が俺と二人きりになる時間を作る流れになったらしい。まぁそこまで大変なことでは無いので別に構いはしないが。
それにしても、着いて見て分かったがフォルドークがいる街は本当に都会だ。
スラム街が出来るほどの規模、ということもあってか今までで一番である。
街が広いので宿も沢山あるようで、4人部屋の良い感じの空きがある場所を探してみたところ、すぐに見つけることが出来た。
日が暮れて来ているから、眷属たちとの観光は明日からだ。
※
すっかりと夜が更けた。
俺はその頃になって、ティティ、マオ、シャルの三人が寝静まったのを確認すると、元来の目的であるフォルドゥークの様子を窺う為にスラム街へと足を運ぶことにした。
観光をおろそかにするつもりは無いが、それ以上に俺にとって大切なのはフォルドゥークへの復讐だからだ。
どう痛めつけてやればいいだろうか?
色々な復讐方法を考えながら俺はスラム街に入る。すると、そこは煌々とした明かりで満たされており、何やら軽快な音楽も流れ続けていた。
「なんだか妙な雰囲気というか……」
産まれて初めての雰囲気に違和を感じながらも、俺は取りあえず詳細な居場所を掴む為に周囲に聞き込みを始める。
「フォルドゥークさま? それならあそこの奥の一番大きな館だよ」
事前の情報と本人の性格を考慮して、恐らく有名人だろうとは思っていたが、実際にその通りのようだ。1人目からいきなり正解を引き当ててしまった。
それにしても、”さま”と呼ばれているのは一体どういうワケだ? それに、教えて貰った建物も様々な色の光が乱反射する謎の建物だ。
看板も掲げられており、『フォルドゥークのや・か・た』と書かれている。
「なんだか気持ち悪い……」
妙な寒気を感じて肩を震わせながら中に入った俺は、次の瞬間に思わず真顔になった。
まず視界に入ったのは広いホールで、そこでは通りで流れていたのとはまた違うテンポの良い音楽が流れつつ、それに合わせるようにして沢山の男たちが半裸で踊っていたのだ。
なんなんだこの異様な空間は……?
フォルドゥーク編は色々と斜め上な展開になりそうな感じなので、楽しんで頂ければと思います。
復讐相手もフォルドゥークとアレクを残すだけとなり、本作も終わりが近づいておりますが、なにとぞ最後までお付き合いくださいませ。




