03.吸血鬼さん、優しい。
ミーアで楽しむ前にまず色々と聞かなければならないことがある。
尋問等とまどろっこしいやり方はせずとも、俺のスキル【吸血鬼】の新たな効果の一つの”記憶を吸う”を使えば簡単に情報は集まるが……しかし、これは今はまだ使うつもりが無い。
理由は単純で、記憶を吸うと吸われた本人がその記憶を失ってしまうからだ。
勇者に関する情報を抜けば、パーティーに同行していた俺のことも当然に忘れる。そうすると、ミーアはワケも分からずに監禁され、よく分からない男に乱暴されていると認識してしまう。
それでは何も面白くない。だから、”記憶を吸う”は最後の仕上げで使う予定だ。
「それでは尋問の開始だ。まずお前はなぜ盗賊をしている?」
「……他に出来ることが無いからよ」
「出来ることが無いとはどういう意味だ?」
「……レ、レベルが下がったの。なんでか分からないけど、勝手に下がってくのよ。呪いでも無い魔法でも無いよく分からない現象で」
「ふむ。それで?」
「それを世の中には公表出来ないと判断したわ。してしまったら、役立たずの勇者と言われてしまうから。……力が無いとなれば求心力を失い、今までは勇者だからで許されていた事が許されなくなる。私たちへの憧憬は消えて、覆い隠せていたこれまでの横暴に気づかれて償いを求める声が増える」
「……なるほど。マトモに魔物と戦えない状態に陥ったが、それを世間には公表出来ない。今までして来た行いの因果応報を恐れるあまりに、世間で壊滅だの全滅だの言われても反論が出来ず表にも出れず、ド田舎で戦う力も無さそうな通行人を襲って生計を立てている、と」
「そうよ……」
大筋の流れに不審な点は無いし、ウソを言っているようにも見えない。
恐らくは全て本当のことだ。
「となると、残りの七人も生きていて、お前と同じような感じのことをどこかでしているワケだ?」
「生きてはいるとは思うけど……同じことをしているかは知らない」
吉報だ。一人残らず生きているらしい。胸が高鳴る。
「……しかし、それにしても驚きだな」
「……何が?」
「今までの自分が何をして来たのかの自覚はあるんだな、と。そんな良心があるとは思っていなかったよ。笑いながら人の尻に鉄の棒を突っ込むくらいだからな」
俺がおどけながら言うと、ミーアは軽く舌打ちをして横を向いた。
「……っていうか、なんであんたあんなに強いのよ。スキルだってゴミみたいな【運び屋】なくせに間違いなく全盛期の私たちの誰よりも強い。いくら私のレベルが下がっているからって、動きが全く見えないなんてありえない。……なんか隠してるでしょ?」
舌打ちをされたのも気に入らないが、それ以上に俺の秘密を探ろうとするその態度が気に食わない。
俺は来る時に用意していた棘がついている鉄の棒を手にした。
「な、何よそれ。何をする気よっ」
「何って……なぁ? 俺にこういうのを突っ込む時にお前いつも笑ってたと思ってな。笑うぐらいに好きなんだろ?」
「ちゃ、ちゃんと言われたことに答えたじゃない。やめて、やめてよ……そんなもの突っ込まれたことなんて無いのよ私……それに散り散りになったから回復スキルが使えるユスハはいないし……」
ユスハは強力な回復スキルが使える勇者の一人。弄ばれ体がエグい事になった俺を回復させる役割を担っていた。
ミーアはユスハが居ないことでかなり動揺している。
経験したことの無い類の痛みが迫りくる恐怖と、何かされても治らないと思う絶望でいっぱいなのだろう。
しかしながら、ミーアの心配は杞憂だ。
スキル【吸血鬼】の使い方の中の一つに、瀕死だろう何だろうが生きてさえいれば完全回復させることが可能なものが新たに追加されている。
ダメージを吸う、というものだ。吸ったダメージは蓄積して攻撃の時の追加衝撃として使用が出来る。
だから、俺はニッコリと笑った。一回二回遊んだくらいじゃつまらない。何度でも飽きるまで遊ぼうじゃないか。
※
「……」
ミーアが虚ろな瞳になり喋らなくなった。きちんとダメージを吸って傷を治しながら楽しんでいたのだが……これでは面白くないな。
「……反応が無いとつまらん。もう少し工夫を加えてみるか。もっと激痛が走るように」
俺がそう呟くと、ミーアはびくりと震えて泣き出した。
「やだ。痛いのもうやだ。やめて。なんでもしますから。やめてください……」
「うん?」
「お願いします。お願いします」
「……まぁ俺も鬼ではない。じゃあこうしよう。お前には犬の真似をして貰う。俺が納得出来るくらいに犬にそっくりだったら待遇を良くするように考えてやらんでもない」
「わ、分かりました」
俺はミーアを降ろすと鎖を外してやった。
反撃の心配は必要が無い。
レベル差があり過ぎるので普通の攻撃では俺は傷など負わないし、変な動きをしたら即首を刎ねるだけだ。
ミーアもこの短時間で俺との力量差は理解したようで、変な行動を起こす素振りは見せず四つん這いになって歩き始めた。
「はっはっはっ……くぅーん、くぅーん」
人を傷つけることに躊躇いを持たず、むしろそのことに感謝しろ等と頭のおかしいことを公言して憚らなかったミーアが、犬の真似をして俺のご機嫌を伺っている。
その事実に俺の心がすぅっと晴れて――
「こ、これで良いでしょ」
――行きそうだったのだが、突然に犬の真似を止められたことで逆に一気に曇った。
「なんで犬が人間の言葉を突然喋るんだ?」
俺の冷たい視線と言葉を受けて、ミーアは「しまった」とでも言いたげに一瞬押し黙り、しかしすぐさまに再び犬の真似を始めた。
「あぉぉぉん、あぉぉぉん」
「そうだな。お前はメス犬だ。ただのメス犬だ。……しかし、なんだか発情期みたいな鳴き方になったな。なんだそういう感じなのか?」
「な――」
「うーん。困ったなぁ。犬と人間では会話が成立しないからな。しかし先ほども言ったが俺も鬼ではない。犬が発情期なら助けてやろうと思う。よし……」
俺はミーアに近づくと、鳴き声で求めて来たことを叶えてやることにした。俺なりの優しさというヤツである。
※
さてそれから。
ミーアで色々と遊ぶ日々を過ごしていると、村の若者を街まで連れて行く日が来た。
半ば押し切られる形でしてしまった約束だが、しかし了承した以上守るべきである。
俺は出かける前にまずミーアを鉄球の付きの鎖の首輪に繋いだ。今のミーアでは動かすことすら出来ない枷だ。
それから急いで村へと戻り、若者たちを馬車に乗せて走らせた。
ガラゴロ、ガラゴロと車輪の回る音が響く。
いつものように重い荷を乗せているわけでもなく、積雪が始まったもののまだ薄っすらということもあってか、喜ばしいことに通常なら片道三日は掛かるところを二日程度に短縮が出来そうである。
「揺れるから気をつけて下さい」
俺がそう言うと、若者たちは元気良く頷いた。
街まで行くのが本当に楽しみらしい。
純真無垢な彼ら彼女らを見ていると、じんわりと心が暖かくなって行くのが分かる。
世界は勇者たちのようなクズどもでは無く、こういう若者たちの手によって支えられるべきなのだ。
俺は強くそう思うよ。
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