38.吸血鬼さん、最後の眷属を迎え、そして次なる獲物を追う。
全てが終わった後、俺はミオーネも眷属にすることにした。体液は既に摂取させているので、記憶を吸うだけで何の滞りもなく眷属化には成功した。
俺は吸い出した記憶を、スキル関連以外のものは破棄しようと考えていた。いまだ所在が不明のアレクに繋がる情報は無かったからだ。
しかし、それが中々出来ずにいた。ミオーネの記憶は俺のことでいっぱいであり、そのせいでどうしても躊躇われたのだ。
どうしたら俺に振り向いて貰えるのか――それを毎日悩んでいたのが分かる。
レベルが下がってから、アトルの村を中心に弧を描くように転々としていた時に、ミオーネは方々を追い出されていた。
さすがにレベル1では、勇者のスキル補正があってもそこまで強くは無いからだ。
だが、そんな大変な時であっても、俺の存在を心の支えに日々を生きて来たのが伝わって来る。
無論、だからといってミオーネが俺にしたことを許せるわけではない。
どんな気持ちであろうが、首輪をつけて外に連れ出したり、問いかけに黙る俺の体を痛めつけてでも反応を引き出そうとして来たりと、やりたい放題はやって来たのだ。
ただ、それが無知であったからの行動だと知って、俺も少し悩んだだけである。
もしも状況が違えば、何の変哲も無い普通の恋人同士になれたのかも知れないと、僅かにそう思ったに過ぎない。
「もっとご寵愛を……」
「分かった」
とろんとした瞳になったミオーネは、俺の言葉による誘導すら必要とせずに、その想いの丈を不思議と残していた。
愛して愛されて繋がりたいと、そう訴え掛ける衝動までは消せなかったらしい。
記憶だけではなく、全身全霊での好意であったのだとそこから分かる。
俺に出来ることは、眷属化によって真の意味で無垢になったミオーネに対して、誠実に向かい合うことくらいだろう。
「そういえば、名前を考えないとね」
「自分に名前を下さるのですか……?」
「無いと不便だしね。……そうだね、それじゃあシャルと言うのはどうだろうか」
恒例である安着な発想だが、ミオーネのフルネームはミオーネ・シャクネルであるの、シャクネルの初めと後ろの部分を取って”シャル”としたのだ。
「シャル……」
ミオーネ改めシャルは、噛み締めるように自分の新しい名を反芻すると、言葉ではなく行動で気持ちを伝えて来た。今度は俺が唇を奪われる側になってしまった。
喜んでくれたようで何よりだ。
ちなみに、シャルのスキル【軍人の勇者】については、これは個人の身体能力に大幅な補助が数えきれないほどあるのに加え、戦略や戦術といった状況を瞬時に把握出来るような、集団戦で効果を発揮するようなスキルであった。
前線指揮官向け、といったような感じだ。今のところは使って貰う状況になることも無さそうなので、お蔵入りといった感じでもあるが。
まぁそれとは別に個としての強さもかなり高いので、レベルは上げて魔物を倒すぐらいはして貰っても良いかも知れない。
※
ご奉仕のルーチンに新たにシャルが加わった。眷属たちは俺の言うことを聞くので、更に女性陣が増えたことに文句を言ってくる者はいない。
ただ、今回のシャルで最後だと伝えたところ、全員が露骨にホッとした表情になった。口には出さないだけで、もっと増えるのは嫌だと思う眷属が多かったのかも知れない。
俺がさらにご奉仕要員を増やすのかもと思っていたようだが、さすがにこれ以上は増やせない。
体力と気力が持たなくなるからだ。
ミミの【支援の勇者】で助けて貰えれば出来なくは無いが、俺はそこまで色狂いでは無い。男としての欲求は当然にあるし、だからご奉仕もして貰っているが、それが全てでは無いのだ。
ともあれ、この調子で引き続き復讐は継続して行こうと思う。次なる獲物はフォルドゥークだ。




