35.吸血鬼さん、無念を晴らしてやる。
この部屋を見る限りに、サルキッスは残虐な暴力によって快楽を得ているのが分かる。
そういったことを平気で出来るのは、犠牲にした人物の慟哭や痛みを考えることが出来ないからに他ならない。
「起きろ」
だから俺は、それを本人にも味わって貰う為に、まずは握った拳をその腹に振り落とした。
「――かはっ⁉ な、なんだ」
鈍い音と共に走った痛みにより、ようやくサルキッスが目を覚ます。俺は挨拶をしてやることにした。
「目が覚めたか変態ペドフィリア野郎」
「だ、誰だお前っ⁉ ど、どうしてボクが縛られて――」
「――ふむ。やはり俺の顔は覚えていないか。勇者というのはどいつもこいつも……。まぁ良い教えてやる。俺はセバスだよ。荷物持ちのセバスだ」
俺が名乗るとサルキッスは目をぐるぐると回し、それからしばらく思考した後にハッと気づいた。
「……荷物持ち……セバス……そうだそんな玩具もいたな確か」
「やっと思い出してくれたようで何より」
「よ、よし、早くこの縄を解けセバス。ボクを助けに来てくれ――」
「――今までの勇者の中で、ここまで状況を察することが出来なかったのはお前ぐらいだよ。どこをどうすると俺がお前を助けに来たように見えるんだ?」
俺は近くにあった拷問器具を手に取ると、サルキッスに見せてやった。
「さて、今からサルキッス君が何をされるか分かるかな? 俺自身と、そしてお前に弄ばされて死んでいった幼女たちの復讐だ。楽に死ねると思うなよ?」
「復……讐? え? なんでどうして? う、うわぁああああ⁉ やめてくれ! ボクに復讐なんて馬鹿は真似はするな――何が気に入らなかったのかは知らないが、分かった謝るから許して――」
自分がやられる番になった途端にすぐに命乞いとはな。
せめて因果応報が来る覚悟くらいしているかと思っていたが……そんな矜持すら無い、ただ単に自分の快楽のみを求めるイカレ野郎だ。
何が気に入らなかったのかは知らないが、なんて言葉はマトモな神経を持っているなら絶対に出て来ない。
「あ゛ぁぁ゛ぁああああ゛っ⁉」
響き渡ったのはサルキッスの悲鳴であり、飛び散ったのは朱い血しぶきだ。
※
存分に味わって貰うまでは途中で死なれては困る。
それゆえに、俺は何度も何度も”ダメージを吸う”で回復させてはあらゆる方法での拷問を行った。
王宮からそこまで離すわけにはいかないという事情ゆえに、ドラティアは連れて来なかったが、出来ればドラティアの持つ【懲罰の勇者】のスキルも使っていたぶってはやりたかったが……。
……まぁしかし、それを残念に思うことは無い。
大切なのは、こいつが幼女たちを弄んだ時に使った道具を使い、そして同じ苦しみを味合わせることである。
そういった意味ではドラティアの【懲罰の勇者】は不要であり、使わずとも良い。むしろ使うべきではないとも言える。
幼女たちの頭蓋骨が俺に訴えかけている。
同じ苦しみを、と。
ドラティアのスキルに頼らないことで、俺はそういった願いを叶えてやれている。純度100%の同じ苦しみを与えることが出来ているのだ。
「痛い痛い痛い痛い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」
延々とそうした言葉を呟いているサルキッスの頭を掴むと、俺は頭蓋骨の目の前に持っていった。
「彼女たち一人一人に謝れ」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
この場にある全ての頭蓋骨一体一体と向き合わせ、地に頭を擦り付ける謝罪を俺はサルキッスにやらせた。
恐らく、これで君たちの無念は晴れただろう。同じ苦しみを与え謝罪もさせた。どうか道に迷わずに天国へと行って欲しい。
『――ありがとう。お兄ちゃん。私たちの為に』
ふいにそんな声が聞こえた気がして、思わず涙ぐんでしまった。
幼女たちの無念を晴らし、俺自身の復讐の留飲も下がり、ひとまずは満足であるが……しかし、まだ終わりではない。最後にすべきことがある。
俺はまずサルキッスを気絶させた。それから、その体を全快にしてやると街まで向かった。
※
街に向かった俺は、そこに住まう人々にサルキッスの悪行を全て伝えた。
そう――最後にすべき事と言うのは、幼女たちの親家族の無念と復讐を満たしてやることだ。
もとからサルキッスの評判が悪かったことに加え、その自宅の地下に大量の子どもの骨があるのを見て、街の全員が俺の言葉を信じてくれた。
「この畜生がっ!」
「私の子どもを返してよぉおおおお!」
「俺と嫁の大切な女神だったのにっ……お前がっ、お前がぁあああ!」
サルキッスは街の中央に吊るされ、そして街の人々全員から復讐を受けた。
農作業で使う大きなフォークや、漁師が使うモリ、主婦であれば包丁などを用いてその体に刃を突き立てて行く……。
初めのうちは俺に言ったように「許してください」とサルキッスはのたまった。
だが、大切な娘を奪われた親たちの気持ちが収まるわけが無く、その復讐はサルキッスが絶命するまで延々と繰り返された。
他の誰でも無い自らの行いによって招いた復讐によって、サルキッスはその生涯に幕を閉じる事となった。
蛆とはえが集り始めた頃に炎がくべられ、ぱちぱちと音を立てて、その体は跡形もない灰へと変わる。
やったことがやったことなので、サルキッスは今までの中で一番に惨い最期を迎えました。次は女の勇者としては最後のミオーネです。




