34.吸血鬼さん、勇者サルキッスをおびき出す。
「なんて可愛らしい子なんだ……それにこの角……まさか辺境の地に魔族の子が……一体どうしたんだい?」
「迷子になってしもうたのじゃ」
「おお、それは大変だ。それではボクの家に来るといい。安心するといい。ボクは小さな女の子を家に招き入れるのには慣れているんだ」
「変な慣れじゃのう」
「この辺は迷子になる子が多くてね」
「そういえば行方不明になる幼女が多いらしいのう。しかし、それと小さな女の子を家に招くのに慣れているのと、どう繋がるのじゃ?」
「――勘の鈍いガキだなぁ⁉ ボクが浚ってやりたい放題やって殺してんだよ! 幼女は天使であり――そんな天使を汚して穢して痛めつける尊さと快楽が堪らないのさぁ! お前も例外じゃない!」
少し離れた位置から眺めていた俺は、こうもあっさりと声を掛けて来たサルキッスの単純さに拍子抜けした気分であった。
それなりに警戒している可能性を考え、色々とマオにはやって貰うつもりであったのだが……。
初日の一発目、取り合えず適当に街はずれを歩いて貰った様子見の段階で引っかかるとは思っていなかった。
「さぁボクの家に来るんだよ‼」
「……」
「怖くて黙っちゃった? くぅ~いいねぇその感じ! 汚しがいがあるってものさ! さぁ――」
「――触るな下郎が」
マオが【魔王】スキルの何かを使ったらしく、どさり、とサルキッスが倒れた。
物陰に隠れていた俺であったが、もうそんなことをする必要は無さそうだと思い姿を現し、サルキッスがどうなったのかを確認する。
すると、気絶しているのが分かった。まさか殺したのではと一瞬だけ焦りそうになったが、そんなことはなくて安心だ。
この男は俺が手を下すべき相手であり、マオに殺させるのは違うからな。
「ぬし様~」
「ありがとう、マオ」
「ぬし様の望む通りに妾は動くだけじゃ。……というより、とーっても怖かったのじゃ~」
そう言ってマオは抱き着いて来るが、その笑顔を見れば怖い等とは絶対に思っていないのが分かる。
つまり、俺に対して”自分はか弱い”アピールをしているのであって、だから色々と構ってくれと言いたいのである。
手伝って貰った恩もあるので、ここは乗ってあげるしか無い。俺は「よしよし」とマオの頭を撫でてやった。
※
さてそれから。
気絶したサルキッスを俺がどこへ運んだのかと言うと、それは他ならぬこいつ自身の自宅である。
そこで幼女に対して何をしていたのかを確かめ、全く同じ場所で同じことを本人にしてやろうと俺は思っているのだ。
場所については事前調査で分かっているので、迷うことも無く辿り着く。中へ入ると、必要最低限のもの以外は何も無いような、極めて殺風景な家であるのが分かった。
一体どこで幼女に酷いことをしていたのか?
必ず秘密がどこかにあるハズだ――と思っていると、簡素なベッドの下の床に取ってが付いているのを発見した。
開けてみると、下へと続く階段がある。
取り合えず降りて見ると、薄暗い土壁の通路へと出た。
壁を頼りに手探りで進んで行くと、奥に蝋燭の明かりに照らされる木製の扉があった。
扉を開けて中を確認して見ると――
「これは……」
「悪趣味な部屋なのじゃ……」
――そこにはおびただしい数の小さな頭蓋骨と、一台のベッド、そして拷問器具の数々が置かれている光景があった。
頭蓋骨の大きさと、そこら中に飛び散った血痕が、ここで幼女に惨いことが行われていたことを証明している。
ここだ。ここで事件は起きていたのだ。そして、サルキッスにはここで自分がした事と全く同じ責め苦を受けさせてやる必要がある。
俺は気絶したサルキッスをベッドの上に寝かせると、手足を縛り付けて準備を進めて行く。
ここから先は手伝わせるのはおろか、見せるのですら躊躇われるような状況になるので、俺はマオに一足先にムーンディアに帰るように伝えた。
「ぬ、ぬし様が復讐をするとは聞いておるが、一体どんな復讐をするつもりなのかのう……?」
「取り合えず、ここにある器具は全て使い切るつもりだよ」
「……妾は大人しくぬし様に言われた通りにお家に帰るとするのじゃ」
マオは頬を引き攣らせながらも、俺がどうして先に帰れと指示を出したのか理解したようで、そーっと帰って行った。
俺は一息を吐くと、幼女たちの頭蓋骨に語り掛けた。
「そこで見ていてくれ。君たちの無念も俺が晴らしてやる」
さて――サルキッスにはそろそろ起きて貰おうか。




