32.吸血鬼さん、次の獲物をどれにしようか悩む。
ドラティアからの報告は4日に一度と高頻度である。それゆえに、毎回有益なものばかりが届けられるわけでは無い。
あまり進展が無いような時も多く、基本的には少しずつ積み重ねて情報を確定して行く進め方だ。
そんなことで本当に辿り着けるのか? と思う人もいるのだろうが、何も心配は必要が無い。
地道だが確かに進展はしていて、今の生活スタイルが定着しておよそ二カ月が経った頃に、ようやく結果が現れ始めている。
残りの勇者4人中3人の行方が判明した。
1人目――サルキッス・デルハート。【魔術の勇者】という名称のスキルを持つこの男は、今はとある寂れた港街で漁師として生きている。
本人なりに目立たず生きようとしている痕跡はあるようだが、これまでの勇者の例に漏れずこのサルキッスも高慢な性格であり、それが災いしてあまり近隣住民とは上手く行かずに衝突が多いようだ。
ドラティア曰くの補足情報として、サルキッスの住む港街では、半年くらい前から幼女が突然神隠しに遭い失踪する事件が多発しているそうだが……なんとなく犯人は分かる。
サルキッスは、幼女を見ると下唇を舐めて笑うことが多いヤツだった。
そして、そういった仕草を取った後に必ず”用事がある”と言って小一時間ほど姿を消し、戻って来るとスッキリした顔をしていたのである。
手にはなぜか幼女のリボン等を持ってもいた。
今になって思うと、恐らく幼女を襲っていたのであり、港町の事件の犯人もサルキッスである可能性が高い。
表舞台にしばらく出ないという目的を考えるのならば、危険と隣り合わせなことはせず、大人しくするべきではある。
だが、サルキッスは我慢が出来なくなったに違い無い。
サルキッスは特に良心や罪悪感というものが薄く、俺を弄ぶ為に採用されるサザンの案を実行する一番槍を志願し、そのまま即座に実行に移して来た。
こいつが何の躊躇いも持たずに先陣を切るものだから、余計に他の勇者たちの罪悪感が薄れ、より過激になっていった面もある。
個人的な弄びとして、人体を知りたいとかいう思いつきで、俺の皮膚を剥がしていくといったおぞましいこともして来た。
色々な意味で一番ぶっ壊れていると言って良い男である。
だからこそ、近隣住人とのトラブルで溜まるストレスの発散先を、元々の趣向であった幼女に対する悪行に求めて止められなくなっているのだろう。
2人目――フォルドゥーク・ムンバイン。【格闘の勇者】という名称のスキルを持つ、俺にとっては忘れられない事をしでかしたこの男は、今は大きな都のスラム街に住んでいるそうだ。
やっていることは、戦いをしなくなったという点を除けば、勇者パーティーにいた時と大差が無い。
俺を襲っていたように周辺の男を襲い、欲望を満たす日々のようである。
スラム街での出来事であることに加え、男同士での問題ということもあり、憲兵の類はまるで動かずに好き勝手出来ているのも拍車をかけている。
どこまで本当かは分からないが、若く美形な男の子のみで構成される、フォルドゥーク親衛隊なる組織を作ってもいるそうだが……。
3人目――ミオーネ・シャクネル。【軍人の勇者】という名称のスキルを持つ女については、だいぶ転々としている。
以前にサザンの記憶から得た情報もあったが、そこにはもうおらず、今は別の地域に拠点を移しているとのことだ。
もともと勇者パーティーに入る前に一匹狼の傭兵であったこともあり、そういった仕事に復帰しているそうで。
ただ、レベルが減少しきっているせいで活躍が出来ないことに加え、名と顔を出せない事情ゆえに仮面を被り偽名を使っていることで怪しいヤツとされ、行く先々で追い出されているようだが。
さて、そんなミオーネについては、”変わったヤツである”、というのが俺の素直な感想だろうか。
もちろん勇者であるので性格は最悪で、俺を弄ぶ時にも容赦なく周りの連中に同調していたのだが……それとは別に、個人的な買い物に行く時に頻繁に俺を呼び出して来た。
首輪をつけて鎖で引っ張られ、通行人に驚かれたり引かれていることに俺はよく俯いていた。
ミオーネはそれを見て笑う性悪さを露見していたが、必ず最後にはアイスやお菓子を奢ってくれるという妙な行動を取るのだ。
――自分は女であることを意識したことが無い。だから、す、好きな男にどうすれば良いのかが分からない。ただ、嫌われることであっても良いから、何か反応が欲しくなる。……その、お前は、平均的な男女というのはどうやって気持ちを通じ合わせるものだと思う?
良くそんな質問をされたのだが、まったく意図が分からない。
そんな相談を俺にしてどうしたいのか。惚れた男がいるのなら、勇者の肩書でも使って無理やり伴侶にすれば良かっただろう。
どう答えれば良いか分からない俺は黙って無反応を決め込んだが、そうするとすぐに不機嫌になり、執拗なまでに俺の体を痛めつけて来た。
というわけで、だ。何を考えているのか良く分からない、一人称が”自分”の変わった女だな、というのが俺の見立てだ。
見た目については、美少女や美女というよりも”美人”。可愛さや艶やかさ、あるいは女らしさというよりも”凛々しさ”が強い。
髪も長い金髪をざっくりと一つ結びにしているだけで、あっさりとしている。
――と、以上の3人の行方が判明している。残る一人のアレクについては、唯一居場所が分からなかった。
大陸で一番大きな帝国へ向かった、という噂話程度は掴んだのだが、その帝国を境に関する情報が消えた。
確実にここにいる、という情報がまったくないのだ。
出来れば次の復讐相手は、こうした勇者たちを従え、サザンの提案も喜んで許可を出し、個人的な弄びもガンガンやって良いぞと奨励していたリーダーのアレクにしたかったのだが、それはまだお預けのようである。
今はひとまず、サルキッス、フォルドゥーク、ミオーネの三人のうちから選ばなければならないが……誰にしたものだろうかな。
次は誰にしようか私自身も悩んでます。書き溜めが無いので、リアルタイムで決めてます。




