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02.吸血鬼さん、人気者。

「無事に届け終わりました。頼まれていた帰り荷もいつもの場所に置いてあります」

「助かるのう。よし今回の報酬を渡さねばな。これじゃ」


 村長から運賃の銀貨が入った袋を受け取った俺は、なんだかいつもより重いことに気が付いた。中を確認して見ると、最初に伝えた運賃の倍の数の銀貨が入っていた。


「お伝えした額より多いのですが……」

「感謝しとる証拠じゃよ」


 どうやら働きぶりを評価してくれての追加報酬のようだ。しかし、そうは言われても使うアテがあるわけでもない。

 過分なお金は必要が無いので、俺は多く貰った分を返すことにした。


「貰えません」

「儂の気持ちなんじゃて」


「いえそんな……。このお金はお孫さんのコゼットにでも渡してあげると良いかと。年頃の娘ですから、欲しいものの一つか二つはあるハズです。俺が街まで荷を運ぶ時に、お孫さん含め数少ない村の若者が一緒に付いてくる時がありますが、その時に女性用の装飾品を物欲しそうに眺めていたのを見たことがありますよ」


「セバスよ……お主は本当になんと出来た青年なんじゃ」


 村長はその場に泣き崩れると、俺の腕に縋って「うぅ」と呻いた。

 本当に俺のことを慕ってくれているのが分かるし、こういう風にされると居場所があるような気がして嬉しくなってくる。


「歳を取ると涙腺が脆くなってしもうて……すまんのう」

「いえ謝る必要は……。ところで次の仕事はいつごろになりそうですか? すぐに運ばなければいけない物はありますか?」

「そうじゃな……そろそろ冬じゃから今年の交易は今回ので最後のつもりじゃった。次は春先になるかのう。……それまでは好きに過ごして欲しい」


 俺の仕事は来春まで無いらしい。

 いつもならば仕事が無いとなると残念に思う俺だが、今回はミーアで楽しむ都合もあったので丁度良い。





「セバスー!」


 村長の家から出ると、村長の孫娘であるコゼットが俺を目ざとく見つけて寄って来た。いつも通りに快活で元気な声音だ。


「どうしましたか」

「お仕事から帰って来たのよね?」


「はい」

「ねぇねぇ、次に街に行く時に付いて行っても良い?」


「別に構いませんが、俺が次に街に行くのは恐らく来春ですよ?」

「うそぉ。そろそろ冬で家の中で裁縫仕事ばかりになるから、気分転換もしたくて街に行きたいのにー。他の子たちだって行きたがってるから、無理って分かったらガッカリするわ」


 どうやら村の若者たちは冬に街まで行きたいようだ。

 まぁ気持ちは分からないでも無い。

 冬は単調な日々になりがちだから、刺激を欲しがる若者には少し退屈なのだ。


「お願いお願いお願ぃ~。街に行く途中で魔物と出会う可能性もあるから、セバスと一緒じゃなきゃ駄目って村の大人たちにいつも言われてるから」


 コゼットが頬を膨らませて駄々を捏ね始めた。すると、その様子をどこで眺めていたのか、村の若者たちが揃ってやって来た。


「セバスさん! お願いします! 俺は戦える系のスキル持ちだから、いつか都に出て一旗揚げたいんだ! その為に強くなる為の鍛錬の時とかに……ほら色々と道具とかあった方が便利だし、そういうの買いに行きたいんです!」


「戦うがどうとかやーなの。私はそんな理由じゃなくて……えーと……その……そうだ家の食器が壊れちゃて新しいのを買いたくて。パパとママも困ってる……かもだし?」


「僕は勉強の為に本を……」


 理由はそれぞれだが、どうしても街に行きたいらしい。


 物品は俺が代わりに買って来ても良いし、それなら一瞬で済む。

 積み荷のある馬車で向かう時には片道で三日は掛かるが、俺単体で走って行くのであれば半日も掛からずに往復が可能だからだ。


 しかし、それでは若者たちは納得しないだろう。

 仮に俺が代行を提案しても、ああだこうだと別の理由をつけて街に行きたがるのが目に見えている。

 若者たちの本音は、”必要なものを買いたい”ではなくて”街に行きたい”なのだ。


 頑なに俺が拒否すれば、勝手に若者たちだけで行くかも知れない。

 その場合、何か事故が起きたり魔物に襲われたりしたら、取り返しがつかない事態にも陥る可能性もある。


 近くにいれば助けてやれるが、目端の届かないところで事が起きればさすがの俺でもどうしようもない。


 仕方ない、と俺は息を一つ吐いた。ミーアで楽しむ時間は減ってしまうが、若者たちのことを考えれば無下にも出来ない。


「……分かりました。それでは、各々の家庭で残っている秋の仕事が終わり次第に行くことにしましょう」


 俺が肩を竦めてそう言うと、若者たちは「やったー」と満面の笑みになった。





 ぴちょん、ぴちょんと洞窟の天井から水滴が落ちる音を聞きながら、俺はミーアに繋いだ鎖を滑車に乗せて吊るし上げた。


 まだ意識が戻っていないようだが、そろそろ起きて貰わないと困るので、起きるまで何度も頬を平手打ちした。するとミーアが目を覚ました。


「いっ、痛いっ……」

「やっとお目覚めか」

「えっ……ちょ、ちょっと何よこれ! なんで私が吊るし上げられてんの⁉ あああ、あんたっ、こんなことして――」


 どうやらミーアは自分の状況が分かっていないようだ。早急に状況を理解をして貰う為に、俺はミーアの舌を掴んで引っ張る。

 すると、自分の置かれた立場をようやく把握したようでミーアは黙った。


「……今から俺がお前に質問する。質問の返答以外の言葉は必要が無い。分かったか?」


 顔を近づけながら、ぎょろりと大きく目を開いて俺が耳元で囁くと、ミーアは目に涙を溜めながら何度もコクコクと頷いた。

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