19.吸血鬼さん、情報を整理する。
説明回+ご奉仕で今回は文章量がいつもより気持ち多めです。説明見るの大変だよーという方は、ざざっとお読み頂いて最後のご奉仕を楽しんで貰いつつ、次話に行っても大丈夫です!
サザンを亡き者にしユスハを新たな眷属として手に入れた俺は、次なる復讐を行う前に色々と情報を整理する必要性もあったことで、一旦はルヴィグの街に滞在することを決めた。
ひとまずの拠点としたのは、サザンとユスハが使用していた赤い屋根の家である。
宿に泊まっても良いのだが、節約できる所は節約して行きたいので使わせて貰うことにした。
住んでいたサザンが突然に消え、俺とティティが追加されたことを周辺の人々が怪しむことは無かった。
もともと冒険者の類も多い街であるから、一人二人どこかへ消えても驚くことでは無いと捉えているというのに加えて、以前から住んでいるユスハもいたからだ。
まぁそれでも、極まれに「そういえば前いた男性は」と聞いてくる近隣住民もいるにはいた。だが、それも「彼は遠くへ旅立ちました」と言えば納得された。
さて、住居については以上として、次は本題の二人の記憶から得た情報について色々と思考する。
まずユスハから得た情報についてだが、これは特に成果が無かった。有用だと言える情報は、ユスハ自身のスキルについてのみだろうか。
俺はユスハの持つスキルが【支援の勇者】と言う名称であるのだけは知っていたが、効果についての詳細は知らなかった。
だが、今回ユスハの記憶を丸ごと吸い出したことで全て判明した。
強力な回復が当然に行え、その他にも”支援”と言う名の通りに、肉体強化、魔術強化、相性強化、状態異常強化なんかも可能で、自分や他人のスキルそのものの効果を倍加させるなんて使い方も出来るスキルだ。
一般に【支援術士】というスキルがあるが、完全なそれの上位互換である。
いや、上位互換というより別物に近いかも知れない。【支援術士】は肉体強化と魔術強化の二つが基本で、それ以外のことは出来ない。汎用性が違い過ぎて、同質とするには違和感がある。
疑似転生を経ても記憶と同様にスキルもそのままらしく、ユスハはダークエルフの姿になってもこのスキルを保持していた。
かなり便利と言えるスキル【支援の勇者】が手に入ったのは喜ばしいが、しかし俺単体にとってはそこまで必須では無いのが悩ましい。
俺自身の素の強さが支援を特に必要としない次元にあり、ダメージ回復も自分で出来るからだ。
ティティと組ませると丁度良い感じだろうか。本格的にレベルを上げる為に強敵と戦う場合に随分と楽になるハズだ。
ただ、その前にユスハのレベルを幾らか上げる必要はある。
俺のスキルの効果から一カ月は逃れていたハズだが、勇者パーティーも散り散りになったことで必要性を見いだせず、ユスハは全くレベルを上げなかったようで現時点で3だった。
様々な使い方が出来るのは、レベルが上がりスキルの使い方が増えてからなのだ。
俺は今後のことも考え、”戦闘形態”の瘴気にギリギリ耐えられる70まで”逆流”を使ってユスハのレベルを上げた。
経験値が少しばかり痛ましいが、このぐらいまでなら俺のレベルが下がらない範囲でなんとかなり、ホッとしている。
俺自身も経験値を得るようにした方が良いのかも知れない。後で考えることにしよう。
さて、それでは次はサザンについて移る。こちらの記憶から得た情報は有益なものが多いが、一方で眉をひそめてしまう情景もあった感じだ。
まず、サザンが魔王への協力を考えたのは、以前に俺が予想した通りにスキル【賢の勇者】によるものだった。
このスキルも勇者スキルらしく、ありえないような使い方が幾つか出来たようだが、その中の一つにレベル100に到達した時に使える”難問解決”というものがあった。
問題を出すとスキルが答えてくれる、という効果であり、サザンはレベルが下がりきる前にこれを用いて”疑似転生”と”魔王”に行きついていたのだ。
俺のスキルの秘密にまで到達しなかったのは、初めてレベル減少に気づいたのが100を割る瀬戸際であり、まずは解決手段を探るのが先決としているうちに”難問解決”が使えなくなったから。
まぁともあれ。
かくしてサザンは、魔王に会う為にもまずは緩衝地帯であるこの街を訪れたのだが……しかしその頃にはレベルが下がりきっていた。
魔王の下まで辿り着くには一人では厳しいと感じたサザンは、自身が勇者であると吹聴し護衛を集い始める。
本当であれば屈強な傭兵を雇いたかったようだが、手持ちの金でギリギリになりそうなうえに、イザという時に歯向かわれて襲われるのを恐れたようだ。レベルが1になってしまったので、反撃しようにも出来ないからだ。
こうして始まった仲間集めは、当然ながらに難航する。
勇者の力を示す事も出来ないことから、以前に酒場の主人から聞いた通りに、周りから偽物呼ばわりされたのだ。
しかしながら、それでも信じてくれた若者が五人ほど現れ、彼らと共に魔王の下へと向かうことになった。
すると、予想に反して魔王城はがらんとしており、全身をローブで覆い隠していた魔王がただ一人玉座で待ち構えていた。
サザンは魔王と対面で話せることを幸いと捉え、臆することも無く助力を要請すると、魔王は同行している若者全員を生贄に捧げるなら手伝うと言い出し――あろうことかサザンは即答で応じた。
若者たちがぐちゃぐちゃの肉の塊にされて行く光景を見ても、恐ろしいことにサザンは何らの悪気も感じてはいなかった。
若者たちが今わの際に「正気なのですか勇者さま⁉」と叫んでも、何も心は動かされなかった。
それから、『この生贄だけでは一人しか手伝う気にならん』と魔王に言われたことで、サザンは自分ではなくユスハを助けようと考え今に至るという流れだ。
正直言って、俺は今は勇者への復讐は後程にとって置くとして、魔王と一度対面した方が良い気がしている。
サザンの記憶を探って行く中で、他の二人の勇者の消息を薄っすらとは掴めたりもしたが……魔王が俺のスキルから逃れる術を持っているというのが懸念だ。
憂いは断たなければならない。
とはいえ、今すぐに魔王と他の勇者たちが繋がるとも思えないのも確かだ。サザンのスキルあって辿り着いたのであって、そのサザンは今やこの世にはいない。
少しばかり休息も欲しいので、少し余暇を楽しむことにしよう。
それからでも遅くは無い。
ユスハに新たな名前を与えるのもまだであったしな。
「ご主人さま……今日のご奉仕を」
夜になってユスハが俺の寝室に訪れて来た。ご奉仕はティティとユスハが毎日交互に行うことになり、今日はユスハの番なのだ。
俺が破いた服も新しいものになっている。ティティと同じメイド服では新鮮味が無いので、ダークエルフらしい感じの服装を買い与えた。
「よしよし。……そういえば、名前を与えると言っておきながらまだだったね」
「はい。……ようやく頂けるのですね」
きらきらとした目でユスハが俺を見る。期待されているのが分かるが……しかし、俺はあまり凝った名前を考えるのは得意ではない。
「そうだね……ミミにしようか」
名づけの理由は耳だ。ダークエルフになったことで少しつ尖った耳になっており、それがなんとも可愛らしく見えたからである。
安直ではあるが、これが俺の限界だ。
喜んでくれたかの反応をちらりと窺うと、ユスハ――いや、ミミはにこにこ嬉しそうに笑っていた。
「ミミ……柔らかい語感で良いお名前を頂けました。それではミミが今宵もしっかりとご奉仕致しますね」
かなり気に入ってくれたらしく、一人称をミミという自身の名前にしたようだ。少しばかり不安であったが、喜んでくれたようでなによりである。
というわけで、俺はミミの肉体を朝まで何度も何度も味わうのであった。
ところで……サザンのせいで未来ある若者が五人も失われたことについて、俺はとても悲しい気持ちになった。
これから世界を支えるべき若者が亡くなったのは嘆くべきことなのだ。
だからせめて、その犠牲によって恩恵を受けたミミに五人子どもを産んで貰い、それで埋め合わせにしようと思っている。




