18.吸血鬼さん、容赦はしない。
勇者パーティーが俺で遊ぶ時、サザンという男は色々な方法を考案し、そして横から眺めてニヤニヤと笑っていた。
サザンが考えた遊びは多岐に渡る。
指を一本折り悲鳴が上がれば更にもう一本、五本の毒瓶を用意しその中の一つの猛毒を当てれば大当たり、咥えさせた林檎を誰が先に射るかの射的ゲーム――本当に様々な提案をし、そしてそれらは全て採用された。
自身の提案した弄びについて、自分の特等席は全てを眺められる位置だと言わんばかりにサザンは一歩引いた場所で見ていた。
考えたのは自分だが、実行したのは自分では無いから責任は無い。自分は何も悪くない。
そんなクズの考えが透けて見えていたよ。
だが、その少し離れた特等席から見える景色が、弄ばれる玩具ではなく愛する女の全てを蹂躙される様に変わった。俺がそうした。
その時の――絶望に落ちた瞬間の嗚咽――堪らない。カチ、カチ、と一定周期で音を鳴らすメトロノームのように、ユスハの名を繰り返し呼ぶサザンはこれ以上に無いくらいの見ものだった。
次にユスハ。
この女は回復系の勇者のスキルを持っており、弄ばれ幾度となく壊された俺の体を治して来た。
壊れた俺を治す時に、いつも溜め息をついていた。
そして、治すのが億劫だとでも言いたげに「もう楽に殺してさしあげればよろしいのに」等とのたまった事もある。
ふざけている。何が「楽に殺す」だ。
解放する、あるいは心を改めて謝罪するではなく、なぜ始末する方向に思考するのか。おっとりしているのは顔と口調だけで、その心根はやはり悪に染まりきっている。
だが、安心して良い。
サザンについては命で償って貰うが、ユスハに関してはティティ同様に全て俺に捧げて貰うことで復讐と成すつもりだ。
俺は勇者たちと違い誠実なんだ。サザンのような気に入らない相手とした約束であっても、約束は約束であるので守るつもりである。
――殺さない。
それは守らなければならない。まぁどのようにして守るかまでは約束していないから、そこは俺の好きなようにするがな。
※
俺の気持ちも体も随分とスッキリした。しかし、復讐はまだ終わっておらず今から最後の仕上げである。
俺はまず下準備として”記憶を吸う”で完全にユスハの記憶を吸った。産まれた時から今に至るまでの全てを、ちうちう、ちうちうと。
そして、体液を既に取り込ませていることもあり、そのまま”眷属化”を行った。
ユスハはとろんとした瞳になり、すぐに誰が支配者なのかを理解したようで俺に対して憂いを帯びた瞳を向ける。
「ご主人さま……」
「そうだ。俺がご主人さまだ」
「私は……私は……」
ティティの時同様に自分の名前すら忘れている。新しい名前を用意しなければならないが……それは後にしようか。
「君の名前は俺が決める。少し待っていてくれ」
「はい……」
「さて、まずは見せつけに行かないとな」
俺はユスハを抱きかかえると、そのままサザンの目の前に行った。サザンは虚ろな瞳でユスハを見た。
「ユス……ハ……?」
呟くようにサザンはユスハに問いかける。だが、ユスハは怪訝に首を傾げた。
「ユスハとは……?」
「どうして名前を憶えて……まさか記憶が……? そうかミーアのも……セバスが……っ」
ここまで来て、ようやくサザンは物事の裏側の一旦に推察がついたらしい。ティティの記憶が無いのも俺こそが原因なのだ、と。
「精神干渉系の……スキル? だがお前は運び屋のハズで……いや偽装かっ⁉ くそがっ……返してくれ、ユスハを返してくれぇ……」
「色々とご推察頂いているとこ悪いが、この女はもう俺の女だ。たっぷりと毎日可愛がってやるから安心しろ。そうだよな?」
俺はユスハに問いかける。すると、ユスハは恋する乙女のような雰囲気と視線を俺に向け、頬に軽い口づけをして来た。
眷属化によって俺の言うことを100%信じるようになっているので、”俺の女だ”という言葉をその通りに受け取ったのだ。
「可愛がって頂くなんて恐れ多いです。むしろ、こちらの方が心ゆくまでご奉仕させて頂く次第……ご主人さま」
まるで仲睦まじい夫婦のような俺とユスハに、サザンはここで初めて涙を流した。
何をしても取り返すことが出来ず、そして愛した女がこの俺を選んだという事実に、粉砕された精神がさらに踏み潰されているのだ。
もう楽しむことも出来ないくらいに完全に壊れてしまったようだが……まぁ満足だ。もう満足したよ君については。
だから俺は、サザンの記憶も全て吸い出して後始末をつけた。
※
小屋を出ると、近くに沢山のカラスやハイエナが集まって来ていた。どうやら食べ物の匂いを嗅ぎつけて来たらしい。
小屋の中に君たちのお目当ての新鮮な死肉がある。急ぐと良い。早くしないと蛆虫に全て取られてしまうからな。
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