17.吸血鬼さん、笑顔。
「うぅ……ひっく……」
突然の事態に困惑したままのユスハと共に、小屋の中に入る。中には当然だが吊るされている状態のサザンと、それを監視するティティがいた。
途中で連れ出す為の会話等を挟んだが、それでもここまで往復でおおよそ20分程度だ。あっという間の出来事である。
「ほら、サザンだ」
俺がそう告げると、ユスハはハッとして目の前のサザンを見た。痛めつけられボロボロな愛しい男の姿にユスハは大声を上げる。
「サザン‼ ……酷い怪我っ」
その声が届いてサザンも顔を上げ、服が破かれ俺に拘束されているユスハを見て目を丸くすると、すぐさまに睨んで来た。
おぉ怖い怖い。
「セバス‼ どういうことだ⁉ ユスハには手を出さないと言ったじゃないか‼ ユスハ、そいつはセバスだ‼ 俺たちのパーティーで荷物をしていたセバスだ‼」
「セバス……荷物持ち……」
サザンに言われて、ユスハは改めて俺の顔を見て「あっ……」と声を上げる。どうやら思い出してくれたようだ。
はは、サザンのお陰で思い出させる手間が省けて助かった。感謝のしるしとして、じっくりネットリやってやることにしようか。
「セバス……あ、あなたどうして……」
「どうしてとは随分な言い草だなユスハ。……俺にしたことを忘れたわけじゃあるまい」
俺が淡々とそう告げると、ユスハは少し考える様子を見せて俯き、下唇を噛み締めた。
サザンとは違い自分が何をして来たのかをきっちり思い出し、それに伴い酷いことをして来たという自覚も取り戻したようだ。
「許して……許してください。私は何をされてもいいから、サザンだけは……」
ユスハは異な態度を取った。
今しがた服を剥かれて泣いていたとは思えない言動だ。
惚れた男のピンチを見て、自分が嘆くよりも助けたいという気持ちが勝ったのかも知れないが……まだ大して距離も縮まっていない相手の為に、よくもここまでいじらしくもなれるものだ。
サザンもユスハも自己犠牲をいとわない稀にみる純愛だな。
これが良心的な人間の恋愛ならば俺も応援の一つもしたい所だが、生憎と二人とも罪があり罰が必要だ。残念ながらその恋は成就させない。
「ユスハ‼ 何をされてもいいなんて言わなくていい‼ 殺されるのは私だけでいい‼」
「でも……サザンには助かって欲しいから……」
「くそっ‼ ミーアも早く記憶を取り戻してくれ‼ こんな鬼畜野郎に付き従う必要は無い‼」
「……ミーア? ミーアもいるの?」
「そこにいる‼ 記憶を無くしたところをセバスに捕まって、メイドなんてやらされてるんだ‼」
ユスハはきょろきょろと周囲を見回すと、ようやく今になってティティを見つけて驚いた。
「そんな……ミーア……ミーアなの⁉」
声掛けご苦労なことであるが、ティティは既に身も心も俺のものである。ミーアの時の記憶は一切持っていない。
「……この男もそうでしたが、ミーアミーアとうるさいですね。私はティティです。……なるほど。かつての仲間と勘違いしている素振りを見せて同情させようとしているのですね。姑息な手段です」
ティティは自身が知らない名で呼ばれたことに不快感を露わにすると、吐き捨てるように冷たい声音でそう言った。
「そんな……」
かつての仲間の変わり果てた姿にユスハは愕然とし、サザンはどうしようもない現実にただただ涙を流している。
愉快痛快とはこのことだな。
だが、復讐は今からが本番だ。たっぷりと己の無力さを痛感させ、そしてとびきりの絶望をプレゼントしてやる。
「ほら四つん這いになるんだよ」
「うぐっ……」
俺はユスハを無理やり四つん這いにさせる。すると、懲りずにサザンが叫び声をあげる。
「やめろおおおおお‼ 何をする気だ‼ 約束ぐらい守れ‼」
「うん? 心外だな。俺は約束は守っているつもりだが」
「これのどこが守ってるって言うんだ‼ 言ったじゃないかユスハには手を出さないと‼」
「サザン、君はきちんと俺の言葉を聞いていたのか?」
「な、何を……」
「俺が約束したことは二つだ。まず一つ目は君にユスハを会わせること。これはたった今達成されたな。そして二つ目はユスハを”殺さない”と言ったんだ。手を出さないとは言っていない。それで良いとしたのは他ならない君自身だ」
「……詭弁だっ。そんなのは言い訳だ」
そうは言いながらもサザンの顔は青ざめて行く。
俺とのやり取りを振り返り、そして確かに俺の言っていることが事実であったことを理解し始めたようだ。
勝手に都合良く解釈したのはサザンの方である。確かに俺はウソもついたが、それはティティに関することだ。
約束についてはウソは一つも無く、それが事実で真実。
「まぁとにかく、俺が満足するまでユスハの体で気持ち良くさせて貰うだけだ」
「うぁあああああああ‼ このくされ外道がっ‼ ユスハから手を離せ‼ 何が気持ち良くして貰うだ‼ ユスハはまだ男を知らないんだぞ‼」
奥手でサザンとの距離を縮められていない所から、勇者になる以前から男とは距離を取っていたのだろうと薄々察していたが……どうやら、ティティに続きユスハも処女のようだ。
これは楽しめそうである。
「なるほどユスハは男を知らないのか。それではユスハが男を知る瞬間を君に特等席で見て貰おうか」
「うがあああああああ‼」
俺は雄たけびを上げるサザンを横目に、耐えるかのように瞼を閉じて歯音を鳴らすユスハに集中することにした。
※
場を支配していたのは静寂だ。
「……ユス……ハ……」
サザンは虚ろな目でその名を呼んだ。
俺がユスハを貪るように汚す光景をずっと見続けた事で、すっかりと絶望に落ちてくれたようで、騒ぐ気力も失いただただ茫然としているようだ。
「……」
そして、ユスハはピクリとも動かない人形のようになっていた。無感情な表情のまま涙を流し、一言も喋らなくなっている。
最初は悲鳴を漏らしたり、サザンに対して「見ないでください、見ないでください」と懇願していたが、途中から精神的に耐えられなくなったようで、思考を停止することで感情の一切をシャットダウンしたようだ。
終わって見れば……今までにないくらいに気持ちが良く気分も良かった。
徐々に絶望に染まり行くサザンとユスハが、それに抗うかのように放つ慟哭と悲鳴は見ごたえがあった。それに加えて、ユスハの体も男なら誰しもが満足するほどに最高であったのも良い。
なんという至福。
なんという快感。
俺の心は今まさに青天のように晴ればれとしている。例えようもない多幸感で満たされ、表情も自然と満面の笑みになっていた。




