16.吸血鬼さん、勇者ユスハの服を破く。
サザンの言っていた拠点まではおおよそ三分程度で着いたが、あくまでこの速度は俺だからこそだ。
普通の人がどのくらい時間が掛かるかと言うと、距離から察するにおよそ二時間程度と言ったところか。
まぁそれは良い。それよりもユスハだが……どう連れ出したものだろうか?
ティティやサザンの時のように気絶させるのも手だが、さすがに同じ手ばかりは単調過ぎる。色々と趣向を凝らしてこそ復讐にも花が咲くのだ。
とはいえ、机上の空論で考えてばかりいても埒は明かず、そもそも俺を覚えているかどうかで言い方も変わって来る。
取り合えずは直接対面をして、それから状況に応じてといったところかな。
「留守でなければ良いんだが……」
俺は赤い屋根の家をノックする。すると、中からダークエルフ――いや、ユスハが現れた。
「どちらさまですか~?」
肌が褐色になり髪は銀髪で耳も尖ってはいるが、顔がそのまま以前のユスハそのものであった。
回復を司る勇者だけあって、おっとりとしたような表情。加えて胸が大きく尻の肉付きも程良いこともあり、ミーアより二つ上なだけの年齢であるというのに、美少女というよりは美女といった感じだ。
一見すれば聖母のような印象を放ち、それはそのまま”疑似転生”とやらを受けても変わっていないのが分かる。
だが……そんな風には見える女であっても、俺を弄んだ勇者パーティーの一人であることに代わりは無い。その内面は悪の側である。
直接手を下しては来なかったが、その持ち前のスキルで傷ついた俺を治しては連中が遊びやすいようにした。
他の勇者たちに注意や忠告もせず、俺がまたすぐに玩具に戻れるように治し続けて来た。
そんなユスハにはぜひとも俺の復讐を受け取って欲しいし、どうせなら感謝もして欲しい。
何せ俺の復讐のお陰で、サザンとの間にあるいまだ進展も無く終わりも見えない恋愛にようやく終わりが訪れるのだから。
「……えっと何か御用ですか?」
ユスハは小首を傾げてそう言った。なるほど、取り合えず俺のことは覚えていないようだ。
地味に助かるな。言い訳をしなくて良い分誘い文句が色々と選べる。
どういったものが良いだろうか……そうだな、サザンが緊急事態だと言うことにして連れ出すことにしようか。
「実はサザンが――」
「――サ、サザンがどうかしたのですか⁉」
まだ状況も説明していないのに、やたら食いつきが良い。ユスハもサザンのことを想っている証拠だ。
俺は今すぐ笑いたい衝動に駆られたが、どうにか堪えた。勝利の笑顔は二人の絶望と慟哭を耳にする時まで取って置くのだ。
「実は大怪我を負ってしまいまして、ある山小屋で休んでいるのです。俺が発見したのですが……あなたを呼んで来て欲しいと頼まれまして」
「……っ大変すぐ行かなきゃ‼ どこですか⁉」
「落ち着いて下さい。いまご案内します。……俺はこう見えて力もあって脚も早いですから、こうすると早く到着します。失礼しますよ」
「あ、あのっ……何をっ……きゃあ‼」
俺はユスハを抱きかかえると、全速力で山小屋へ向かって駆けだした。
この手に伝わる柔らかなユスハの肢体の感触……それをもうすぐ好きなように出来る事実に、口中に大量に分泌された唾液が溜まり始めている。
俺はごくりと喉を鳴らした。
※
小屋の前に辿り着くと、俺はゆっくりとユスハを降ろした。
「サザン、サザンはあの小屋にいるのですか⁉」
「えぇ」
俺が頷くとユスハは駆けだそうとした――が、そのまま行かせるわけが無い。俺は強引にユスハの腕を掴むと、服をビリビリと破いていく。
「――っ⁉ な、何をするのですか⁉」
ユスハは抵抗しようとするが、俺の力の前では無力でしかない。
サザンのお陰で”疑似転生”とやらをして、レベル減少と経験値横取りの影響は無くなったのかも知れないが、そうなってからまだ一カ月しか経っていないという話だった。
当たり前だが、俺に抗うほどのレベルに到達しているわけが無い。それ所かティティにすら遠く及ばないだろう。
「~~~っ⁉」
「大人しくしろよ。大丈夫だ。きちんとサザンには会わせてやる。そうでないと楽しくないからな。そうそう、俺のことも思い出して貰わないとな」
半裸状態で泣き出したユスハを一瞬で拘束すると、俺はゆっくりとした足取りで小屋の中へと入った。




